ESG投資とは

 ここ数年、ESG投資の重要性が盛んに叫ばれています。

 環境(Environment)、社会(Social)に配慮した経営を行い、企業統治(Governance)にも優れた企業を選別して投資をすることで、環境規制により事業継続が困難になる企業や不祥事を起こす企業への投資を避けることができ、長期的に投資リスクを下げつつリターンの改善を図ることができるという考え方です。

 これは、一見もっともな主張のように見えます。実際に、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)をはじめ、世界中の政府系ファンドや年金基金など多くの超長期で投資を行う機関が、ESG要素を評価したスコアに基づき構成企業を選定するインデックスを採用しています。

 しかし、「人の行く裏に道あり花の山」と言われる株式市場。このESG投資について、右に倣えの姿勢でいいのでしょうか。

 投資の神様ウォーレン・バフェットは、ESG投資をどう考えているのか。投資の利益にはつながるのか、という視点で考えてみたいと思います。

バフェットとESG投資

 前回見たように巨大コングロマリットであるバークシャー・ハサウェイ。その中に含まれる電力事業で、バフェット氏は風力発電などの再生可能エネルギーに巨額の投資を行っています。

「バフェットは、ESG投資に積極的」。果たしてそうでしょうか。

 バフェット氏はこともなげに言ってのけます。「税メリットがなければ、こんなこと(風力発電への投資)はやらないでしょう」

「社会的に影響力のある大企業として、社会にとって“良き行い”をすべきでは?」
このような指摘に対してバフェット氏は答えます。

「難しい話ですね。大企業20社をあげてごらんなさい。私にはその20社の企業活動のうち、どれが“ベストな行い”なのか判断できません。私は実際に20の上場企業で取締役を務めてきましたが、それぞれの企業がやっていることを評価するのは、とても、とても難しいことです。私はキャンディーが大好きですが、このキャンディーは私にとって“良いもの”ですか? 私には分かりません」

 バフェット氏は会社のお金はあくまでも株主のものであるという立場を崩しません。

「もしバークシャーの子会社の経営陣が世界にとって“良いこと”に投資をするならば、それは間違っている可能性すらあります。彼らはあくまでも株主の代理人に過ぎないからです。」

「多くの経営者が政府の税金の使い方を非難します。しかし、自分たちが株主のお金を使うことについてはひどく寛容です」

 バークシャーのグループ会社では会社の資金を使ってのチャリティ活動は一切禁止されているそうです。

 このような立場から、バフェット氏はさらに踏み込んだ発言もしています。

「もし、電力会社が持つ石炭火力発電所を止めようと思えば、私たちの株主か消費者のいずれかがそのコストを負担することになります。たまたま住んでいる地域によって、一部の消費者が高い電気料金を払うことになったとしたら、それは“良きこと”なのでしょうか。市場のシステムを変えるのは政府の仕事である(=コストは政府が負担する)べきです。」

 ESG的課題への対応のために、ときに企業に大きなコストが発生する場合があります。そのコストを投資家や消費者がもつべきではない、とバフェット氏ははっきりと言っています。

バフェットの指針「企業は利益」が前提

 バフェット氏がいわゆるESG的活動に対して複雑な思いを持っていることは間違いないでしょう。上記はいずれも企業経営者としての発言ですが、バークシャーが上場企業という形をとる投資ビークルであることを考えると、アセット・オーナー(株主)の資金を預かるファンドマネージャーとしての考えとも見ることができます。

 バフェット氏の投資は「永久保有」です。それは、「10年以上保有したいと考えない企業は一瞬たりとも持つべきではない」「市場で売買される証券としての株券として考えるのではなく、企業そのものを持ち分だけ所有する」という発想です。そのバフェット氏にとって最も重要なことは、保有する企業が利益を持続的に上げ続けることです。そして、それが株主の利益につながるのです。

 ここで利益とは何か、ということを考えてみましょう。会計的には利益とは売上から費用を控除したものにすぎませんが、より本質的に考えると、利益とは「顧客が抱えている問題を発見し、解決した対価」です。そうでなければ、その顧客が財・サービスの便益に対して過大な価格を支払う必要はないのですから。

 つまりバフェット氏が永久保有対象とするような「持続的に利益を上げ続ける企業」とは、顧客の問題を解決し続ける企業だということがいえます。そして顧客という概念を広く捉えれば、それは社会の問題を解決し続ける企業だということなのです。

 逆に、いわゆる「ブラック企業」など社会に悪い影響を与えるような企業は、短期的には利益をあげることができたとしても、いずれ従業員や顧客の離反を招き、長期にわたって存続することはできません。

 バフェット氏のように長期で企業を保有する、企業のオーナーになるというスタイルをとる投資家にとっては、保有先企業が顧客・社会の問題を解決し続けることはある意味で当然の前提であり、いわゆるESGの要素はことさらに強調するまでもないとすら言えそうです。

 ではなぜ、昨今これほどまでにESGが強調されるのでしょうか?

 とても逆説的な言い方かもしれませんが、世の中の投資スタイルがあまりにも中短期の株式投資に偏ってしまっているからなのではないでしょうか。金融投資に携わる業者の「ショートターミズムに対する贖罪」にすら見えます。それにもかかわらず、ESGスコア算出の手数料を最終的に投資家に負荷してしまっているのは皮肉としか言いようがありませんが…。

 長期投資家としては、二酸化炭素の排出量や社外取締役の人数といった定量的に測れるものばかりを見るのではなく、その企業が持続的に顧客の問題を解決しているのか、それを他の人たちが真似できないようなやり方でやっているのか、より本質的な企業の価値を理解しなければなりません。