金融政策を論じる時に、中央銀行のあの理事はハト派、こちらの委員はタカ派という話が伝わってきます。これらの言葉はどういう意味合いを持っているのでしょうか。これらの言葉の意味を理解することや、中央銀行の中のハト派やタカ派の勢力分布を理解することは、為替相場を予測する上で役に立ちます。

ハト派、タカ派という言葉は、もともとは政治で使われる政治用語で、ハト派=穏健派、慎重派、平和主義者もしくは集団を指し、タカ派=強硬派、戦争など武力を辞さない強硬的な政治信条をもつ人、または集団を指す用語です。ハトは「鳩」であり、平和の象徴で穏やかなイメージに対して、 タカは「鷹」であり、鳩より強いということで、これらの言葉が対義語として使われています。

このハト派とタカ派が、経済の分野になると、ハト派は景気に対して慎重な見方をし、景気がよくなっても慎重になるため、利上げ反対派になります。また、金融緩和を行っている場合は、緩和の継続派になります。一方、タカ派は、景気に対して強気な見方をするため、景気がよくなるとインフレ懸念から、利上げや金融引締めに積極的なスタンスになります。

ハト派 ( 鳩 )= 穏健派、景気の見方は慎重、金融緩和を志向

タカ派 ( 鷹 )= 強硬派、景気の見方は強気、金融引締めを志向

FOMCのハト派・タカ派勢力分布

米国の中央銀行にあたるFRBでは、年8回実施されるFOMC(連邦公開市場委員会)で金融政策が決定されます。FOMCにはFRBの全理事と全12地区の地区連銀総裁が出席します。しかし、投票権をもつのは、現在5人のFRB理事と、5地区連銀総裁の計10人です。この投票権をもつ人たちのハト派とタカ派の勢力分布は、現在以下のようになっています。

ハト派 中間派 タカ派
・イエレンFRB議長
・ダドリー・ニューヨーク連銀総裁
・エバンス・シカゴ連銀総裁
・ロックハート
  アトランタ連銀総裁
・フィッシャーFRB副議長
・タルーロFRB理事
・ブレイナードFRB理事
・ウィリアムズ
  サンフランシスコ連銀総裁
・ラッカー
  リッチモンド連銀総裁
(ややタカ派)
・パウエルFRB理事
     

それでは、これで何がわかるかというと、委員の顔ぶれによってFOMCの勢力が、ハト派が多いとか、タカ派が多いとかがわかり、そのことによって金融政策の方向性や実施のタイミングなどが推測できます。イエレン議長、フィッシャー副議長を含む5人の理事とニューヨーク連銀総裁は常に投票権がありますが、その他の地区連銀総裁は1年ごとに交代します。この地区連銀総裁の顔ぶれが重要となります。例えば、タカ派の代表格であるフィラデルフィア連銀のプロッサー総裁とダラス連銀のフィッシャー総裁は2014年の投票権者でしたが、今年は、ハト派のシカゴ連銀のエバンス総裁とアトランタ連銀のロックハート総裁が投票権をもちます。すると、今年のFOMC内部では、ハト派はこの2名に加えてイエレン議長、ニューヨーク連銀のダドリー総裁で計4名になり、これに対してタカ派は、リッチモンド連銀のラッカー総裁と、ややタカ派のパウエルFRB理事の2名となり、劣勢となります。そうするとFOMCの議論はハト派主流の緩和志向が強い議論が活発となると予想できます。また、景気の悪い指標が続けて発表されると、景気に対する見方は慎重になり、利上げ時期が後倒しになる可能性が出て来るのではないかと、FOMCの勢力分布から推測することが出来ます。

FOMCの投票権をもたないが、他の7人の地区連銀総裁の発言も重要です。FRB全体としてハト派が多いか、タカ派が多いかがわかるからです。前述したタカ派のプロッサー総裁とフィッシャー総裁は3月に引退する意向を発表しています。それ以外のタカ派はクリーブランド連銀のメスター総裁とカンザスシティー連銀のジョージ総裁ですが、後任人事によってはFRB全体でハト派が優勢な状況が続く可能性があります。

日銀のハト派とタカ派

日銀の政策委員のハト派とタカ派の色付けは、現状では単純に分けることが出来ません。というのは、昨年10月31日の政策委員会で決定された追加緩和に、従来、ハト派と言われていた佐藤委員や木内委員が反対票を投じたからです。金融緩和に反対ということはタカ派になりますが、両者は実務家の立場から反対しました。ハト派かタカ派かという軸に加えて、実務家か理論家かという軸も合わせて考えることが重要になってきました。従って、この時の賛成者と反対者の区分けを知っておくことは、今後の金融政策(第3弾の追加緩和)の方向性を探るのに役に立ちます。

  賛否 氏名 前・元職 任期


黒田 総裁 財務官 2018年4月
岩田 副総裁 学習院大教授 2018年3月
中曽 副総裁 日銀理事 2018年3月



宮尾 神戸大学経済経営研究所長 2015年3月
白井 慶大教授 2016年3月
× 森本 東電副社長 2015年6月
× 石田 三井住友ファイナンス&リース社長 2016年6月
× 佐藤 モルガン・スタンレーMUFG証券
チーフエコノミスト
2017年7月
× 木内 野村証券チーフエコノミスト 2017年7月

上記の表のように、10月の政策決定では、日銀の執行部と学界出身者(理論家)が賛成する一方、企業経営者やエコノミストなどの実務家は反対しています。今後、彼らがどのような発言をするのか、あるいは、政策決定会合で立場を変えるのかどうかが注目です。また、任期が近い、賛成した宮尾氏(任期2015年3月)、反対した森本氏(2015年6月)の後任人事がどうなるのか、学界出身か実務家出身かによって勢力分布が変わってきます。第2弾の賛否の結果(5対4の1票差)からだと、ひとり立場が変われば、第3弾はいくら黒田総裁ががんばっても難しいということになります。このように円安の大きな要因である日銀の政策決定は、審議委員の立場や発言、後任人事も含めて把握しておくことが、相場を予測する上で大いに役に立ちます。