※この記事は2018年4月13日に掲載されたものです。
 

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第2章 資本主義に飲み込まれるか、味方にするか?

<第5話>リスクから逃げるか、可能性に賭けるか

「資本主義の仕組みを理解し、そこで暮らすための倫理観を身につけることが、『投資における走り込み』であり、ビルの基礎工事になることは、分かりましたか? ここがあれば、資産形成や投資の基礎知識という意味でのスキルも意識も身に付くでしょうし、投資のメリットも享受できるようになるはずです」

「分かりました!」

 隆一が<これで資本主義の話が終わった>と思ったのもつかの間、先生は再び身を乗り出した。

「実は、もう一つ、投資を学ぶ上で知っておいて欲しいことがあります」
「えっ、まだあるんですか?」

「先ほど、『投資で稼ぐ』のも資本主義での暮らし方のひとつ、と話しましたよね。でも、多くの日本人の金融資産が預貯金に偏って投資を避けがちなのは、『投資にはリスクがある』と考えるからです。しかし、アメリカ人なら『投資しないとリスクがある』と考えるのです。どちらが、正しいというわけではありません。ただ、投資に限らず、資本主義とはリスクに向き合うことで豊かに暮らせる社会であることは理解しておくべきです」

「先生、失礼ですが話が抽象的で、よく分からないのですが」

「話を急ぎすぎましたか。まず、リスクという言葉ですが、リスクというと『危険』と訳してしまうのが日本人ですが、ここでは<将来の結果が確定しておらず、変動すること>、あるいは<結果が不確実であること>くらいに理解しておきましょう。投資とは、おカネが増えることを期待して、不確実な将来に向けて現在の資金を投じる行為です。投資したおカネがどれくらい戻ってくるか、将来は誰にも分からない、確定していない、これがリスクです。でも、『確定してないから不安』と考えるのか、『確定してないからこそチャンスがある』と考えるかでは、大きな違いがあります。資本主義とは、仕事でも、投資でも、確定していない将来に向けて、労力やおカネを投じる人に、大きなリターンを与える社会です」

「つまり、先生がおっしゃるのは、将来が確定してない仕事や投資はチャンスと考えて挑め、ということですか? でも、どうして確定しないほうを選択したほうが、リターンが大きくなるのですか?」

「ふむ。いい質問ですね。では、投資で考えてみましょう。資本主義では、誰でも自分のおカネは自分の自由に運用できます。さまざまな金融商品が存在する金融市場で、どういう商品におカネが集まるか。多くの人は、投資したおカネがいくらで戻ってくるのか確定しているほうが安心だから、そちらを選ぼうとしますよね。一方、株式のように、企業の成長に期待はあっても、期待通りに企業が成長してくれ、自分の投資したおカネがいくらで戻ってくるのか、確定していないのは不安です。だから、リターンが確定している金融商品よりも、期待リターンが多くないと、選ぶ人が増えないでしょう。これを『リスクプレミアム』と呼びます。ではなぜ、200年前に1ドルだった米国株が60万ドルになったのか。NYダウが120年前に100ドルでスタートしたものが25,000ドルになっている理由は、株主の期待するリターンを企業が出してきたからでもあるのです」