今週注目イベントはFOMC

 今週の最大注目イベントはFOMC(連邦公開市場委員会)であるのは間違いありません。資産縮小については、FRB(連邦準備制度理事会)のブレイナード理事ら、利上げに慎重なハト派理事も反対していないことから、このFOMCで決定し、10月から開始するというのが大勢の見方となっています。

 一方、14日発表の8月のCPI(消費者物価指数)が高まったことから、12月の利上げ期待が一気に高まりましたが、その後に発表された小売売上高や鉱工業生産指数は、ハリケーンの影響で予想外のマイナスとなり、利上げ慎重姿勢も根強いようです。イエレンFRB議長は、これらの環境変化を受け、どのように利上げについて述べるのかが、最大注目となりそうです。

 ある試算によると、9,000億ドルから4.5兆ドルに資産を拡大したFRBの長期金利押し下げ効果は、1%ほどだそうです。元に戻せば、この部分がはげるわけですから、資産縮小の影響は、現状の2%台が3%台になることになります。

 しかしFRBは、資産圧縮を米国債とMBS(モーゲージ証券)と合わせて月間100億ドルから始め、1年後には500億ドル、年間では最初の1年間で3,000億ドルと現状資産4.5兆ドルに対して、6.7%にしか過ぎません。このようなスローペースでの資産縮小なら、長期金利への上昇圧力は年間では0.1%程度との見方があり、この程度ならマーケットの値動きで吸収されそうです。

 そうなるとやはり、マーケットに影響を与えるのは、利上げ時期についての判断になりそうです。12月なのか、後倒しになるのか。12月は織り込み始めているため、後倒しになったときのほうがマーケットへの影響は大きくなるかもしれません。

 ただ、すでに期待が交錯していることから、利上げ後倒しもネガティブ・サプライズまでには至らず、あまり長続きする動きではないかもしれません。マーケットは次の要因を探し始めるかもしれません。

カタルーニャ州とクルド自治区の住民投票

 9月24日にはドイツの総選挙があります。そして25日には、イラク北部のクルド人自治区の独立の是非を問う住民投票、10月1日にはカタルーニャ州のスペインからの独立の是非を問う住民投票があります。

 FOMCが終わり、FRBの金融政策の次の道筋が明らかになると、為替相場を動かす要因としてこれら政治イベントがマーケットの材料になるかもしれません。

9月24日のドイツの総選挙は、メルケル首相の勝利が予想されていますが、今回もメルケル首相率いるCDU・CSU(キリスト教民主・社会同盟)の単独政権は難しいとの見方が根強く、焦点は連立政権の枠組みに移りつつあります。ドイツでは連立政権が常態化しており、連立枠組みが決まるまでは時間がかかっています。

 今回も、連立枠組み決定まで時間がかかって難航しそうですが、CDU・CSUが主導していく限り為替の材料としては萎んでいく材料と言えそうです。しかし、第1党にはなるものの、CDU・CSUの議席数が伸び悩み、第2党以下で過半数の議席を得た場合には、別の連立政権が成立するというリスクシナリオも考えられますので、連立政権の行方には注目しておく必要があります。

 そして政治イベントとしてドイツ総選挙並みに注目しておく必要があるのが、ドイツ総選挙の翌日の25日とその1週間後に予定されている2つの住民投票です。

 1つは、9月25日に予定されているイラク北部のクルド人自治区の独立の是非を問う住民投票です。

 クルド人は「国を持たない世界最大の民」として、イラク、トルコ、イラン、シリアにまたがる山岳地帯などに住む民族で、推定3,000万人前後と言われています。近隣国のサウジアラビア並みの人口です。宗教は穏健なイスラム教徒が多数派を占めていますが、今回の住民投票によって周辺国のクルド人の独立機運が高まることが予想され、警戒を強めています。

 そもそも、第1次世界大戦に敗れたオスマン帝国と連合国の間で結ばれたセーブル条約に、クルド人の独立が明記されていましたが、欧米諸国の思惑もあり、独立は削除。中東は現在の国境線で分断されました。その結果、クルド人も各国に分散する形となりました。

 そして、1960年ごろから、「クルディスタン」と呼ばれる居住地域を、独立国として認めるよう運動が続いているのです。

 今回の住民投票では、9割が賛成すると言われており、米国も高まる独立機運による周辺地域の不安定化を警戒し、投票の延期や中断を求めています。そのような中で、クルド人自治区から石油を輸入し、友好関係を維持しているイスラエルだけは独立支持を表明しています。
トルコにおけるクルド人との戦闘などのニュースが伝わることはありますが、今回は周辺地域が一気に不安定化する可能性もあり、注目しておく必要があります。クルド人に絡む各国の事情を下表にまとめました。

 今後は、個別ニュースを見ながら、中東問題の1つとして包括的に見ておく必要があります。

 勢力が衰えた「IS(イスラム国)」は、テロ組織の温存勢力という位置づけでしたが、クルド人の問題は、第1次世界大戦以来続く民族独立の問題であるため、中東諸国以外では国際的な理解が得られる可能性もあり、中東の問題をいっそう複雑にする可能性があります。

 場合によってはクルド人の独立問題が、原油価格の上昇によって為替相場に影響を与えることも予想され、相場シナリオ想定上の一要因として注目しておく必要があります。

クルド人が居住する周辺国の状況

 もう1つの住民投票は、スペインのカタルーニャ州の、同国からの独立の是非を問う投票です。スペイン第2の都市バルセロナを州都とするカタルーニャ州は、独自の言語や文化を有する人口750万人の州です。面積はスペインの6%しか過ぎないものの、域内GDP(国内総生産)は20%を占め、ポルトガルを上回る国内屈指の富める地域です。

 しかし、2009年のユーロ危機をきっかけに、カタルーニャ州内の税収などが他州にばらまかれました。国の財政支援のために過剰な負担を強いられているという同州住民の不満が強まり、独立運動につながりました。

 スペイン中央政府は、この住民投票は違憲であると反対しているため、結果が独立多数となったとしても、即座に独立がかなうわけではありません。

 またスペイン国内では、バスク州など他にも独立派の動きが活発な地域があり、カタルーニャ州の投票結果に刺激されて、独立運動が拡大することを中央政府は警戒。さらに、欧州の他地域へも独立の動きやユーロ離脱の動きが伝染し、これらの急進派が勢いづくのではないかと周辺諸国は警戒しています。

 オランダ、フランスの選挙でいったん沈静化した極右勢力やユーロ離脱派が、再び活発化する可能性もあるため、欧州政治の流れの中で、カタルーニャ州の住民投票に注目しておく必要があります。

 これら2つの住民投票は、短期的には為替相場に影響しないかもしれませんが、中長期的には影響を及ぼす可能性もあります。投票結果だけでなく、その後の断片情報も頭の片隅に入れておくと役に立つでしょう。