7月6日大阪にて楽天証券の20周年セミナーが開催されました。そこに伝説の金融アナリスト、デービッド・アトキンソン氏が登壇。

 かつては、外資証券会社に勤めており、日本の銀行の不良債権を暴いた、人気金融アナリスト。現在は日本在住で茶道の裏千家に入門し、日本の文化財政策・観光政策に関する提言なども行っています。日本文化にも詳しいアトキンソン氏による日本経済のカギを前編・後編にわたってお伝えします。

講演内容:生産性の向上について~人口減少×高齢化に打ち勝つ企業の生産性向上戦略~

労働者の最低賃金を引き上げれば、生産性が向上し日本経済は復活する

 この30年間、日本経済はほとんど成長していません。そのため経済成長に連動する傾向が強い株価は、日経平均株価で見るなら2万円台を大きく上回ることができず、その水準は、私が金融アナリストになった1990年代とほとんど変わっていません。バブル崩壊後の1990年代から今日までを、私たちは「失われた20年」「失われた30年」と呼んでいますが、なぜ失われたまま成長できなかったのか、ここではそれを一緒に考えていきたいと思います。

 今日のメインポイントは「GDP(国内総生産)が伸びない限り、株価が継続的に上がることはない」ということです。

生産性を向上させなければGDPは成長しない

 GDPとは何か。日本の国内で1年間に新しく生みだされた生産物やサービスの金額の総和と説明されていますが、簡単に言えば、「人の数×生産性」です。

 そしてGDPを分母、労働者の所得を分子として計算すると「労働分配率」が導き出せます。労働分配率は、GDPのうち、どれだけ労働者に賃金等で還元されたかを表す指標のことであり、先進国は60%前後で推移しています。まず、ここを押さえてください。

 1945年以降1993年まで、日本経済は右肩上がりで成長してきました。右肩上がりが維持できた要因を分析すると、人口増加要因が約6割、生産性向上要因が約4割ということが分かりました。1993年以降は人口増加グラフが横ばいになり、GDPの成長が止まり、今に至っています。

 なぜGDPが成長しないのか。いろいろな議論が交わされました。日本人の働き方がおかしいのではないか、外資系企業に市場を奪われている、グローバルリズムの悪影響を受けた……。私は面白おかしく聞いていました。それらは妄想に過ぎません。事実は「生産性を向上させなかったせい」です。人口が増加しない、生産性が上がらないと経済は成長しないからです。

 これから日本は人口が激減する時代に入っていきます。すでに人口減少は始まっていますが、具体的な数字で見ると、2015年から2060年までの45年間で、総人口は31.5%減少します。

 これだけでも驚きですが、もっと驚くべきことは15歳から64歳の生産年齢人口(労働人口)が2015年の7,700万人から2060年には4,400万人に減る(3,260万人減少)ということです。減少率は42.5%に達します。

 GDPは「人の数×生産性」で計算するので、人の数が減る以上、その減少分を上回る生産性を向上されなければGDPを成長させることはできません。