「節税」という言葉には不思議な魅力があります。でも、節税を重視することにより本来取るべきではない行動を取っていませんか?

節税のために個人で生命保険に入る人はまずいない

 会社員、自営業者に限らず、個人の方が節税できる制度は数多くあります。例えば生命保険の保険料の場合は、一定額まで所得控除が可能な「生命保険料控除」という制度になります。一般の生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料のそれぞれにつき4万円まで、最大12万円を限度に所得控除が受けられます。

 では、この所得控除を受けるために、わざわざ生命保険に加入するかといえば、普通はそんなことはしないでしょう。自分にとって必要だから生命保険に加入し、その保険料に対して生命保険料控除という恩恵があるから利用している、というのが実情だと思います。

 また、住宅ローンの年末残高の一定割合につき税額控除を受けることができる「住宅ローン控除」も同様です。家を買うつもりはなかったのに、住宅ローン控除を使いたいから無理に家を買う、という人もまずいないはずです。もちろん、もともと家を欲しいと思っていた人に対する動機づけとしては機能していると思います。

 筆者は、節税をするのであれば、住宅ローンと同じ観点であるべきだと思います。つまり「節税のために何かを買ったりお金を出したりする」のではなく、もっと本質的な目的のために支出をし、それに対してたまたま税優遇の制度が設けられているから利用する、という形です。

そもそも減らすことのできる税金はありますか?

 筆者は税理士の仕事をしていますから、確定申告時期になるとさまざまな相談を受けますし、数多くの確定申告を受けています。よくあるのが、医療費の領収書を大量に送ってくるものの、そもそも税金がゼロなので、医療費控除を受けることができないケースです。

 実は、「医療費控除は医療費の一部を返金してもらえる制度」と勘違いしている方が結構います。そうではなく、医療費控除は「医療費の一部につき所得控除を受けることができる制度」です。

 所得控除ですから、税算出時の所得が減少します。その結果、所得に税率を乗じて計算される税額を減少させる効果があるものです。

 しかし、元となる税金がかかるだけの所得がなければ、いくら所得控除を受けたところで税金を減少できないため、確定申告しても税金の還付は受けられません。