米国と北朝鮮の政治的な応酬が激しくなり、戦争が始まる可能性が話題になっています。特に2017年8月は、北朝鮮がグアム周辺への弾道ミサイル発射計画を明らかにした(実行には至っていませんが)ほか、8月29日には北朝鮮が日本海に向けてミサイルを発射し、日本政府がJアラートによる緊急情報を出したことも大きなニュースになるなど、緊張状態が続いています。

 そこで今回は、「そもそも北朝鮮がなぜ米国を挑発し続けるのか」「もし、戦争が起きたらマーケットへの影響はどうなるか」などを考えてみましょう。

 

北朝鮮はなぜ米国を挑発し続けているの?

 簡単に言えば、北朝鮮は下記の目的を持っていると考えられます。

  1. 北朝鮮は韓国と休戦状態であり、開戦するリスクに備えて軍事力を高めたい
  2. 北朝鮮は、現在の独裁体制を認めさせたい

 これら目的を達成するために、核兵器と、核兵器を搭載することができるミサイルを開発し、何度も挑発行為を行っているわけです。

 1950年代に発生した朝鮮戦争はまだ終結しておらず、2017年現在も北朝鮮と韓国は休戦状態です。

 韓国は、実は1987年に民主化宣言が行われるまで軍事政権が続いており、北朝鮮との関係は高い緊張を保っていました。民主化された現在も、米国と合同で軍事演習を行うなど、北朝鮮を意識していると考えられる行動もあり、北朝鮮との緊張は解けていません。

 韓国に米国のバックアップがあることは、北朝鮮に危機感を抱かせる要因となっています。朝鮮戦争では、北朝鮮が韓国に攻め込んだものの、韓国を助けるために参戦した米国によって逆に壊滅的なダメージを受けたという経緯があります。

 北朝鮮にも中国やソ連などのバックアップがありましたが、中国とソ連の関係が悪化するなどの背景から、北朝鮮は自国の軍事力を高めるという方向に舵を切りました。その行きついた先が核兵器、というわけです。(事実、北朝鮮は、『米国に対抗するために北朝鮮は核大国になる』と常に公言しています)。

 こうして核兵器を保有することで、北朝鮮は現体制の維持安定を図っているものと見られています。特にトランプ政権が誕生してからは、米国の態度が硬化し、北朝鮮への敵意が強まっていることもあって、北朝鮮はミサイル発射など挑発行為を続けているものと考えられます。

 当然、米国は北朝鮮の核兵器保有および現体制の維持を認めることはあり得ません。ミサイル発射など挑発行為を続ける北朝鮮に対し、国際連合安全保障理事会も制裁を強めています。北朝鮮と米国が互いに態度を硬化させても、妥協点が見つかっていないのが現状です。

 特に、これまでどちらかと言えば北朝鮮を擁護してきた中国やロシア(旧ソ連)も、北朝鮮の暴走を制する方向にあり、北朝鮮はますます孤立を深めています。

 

戦争が激化し、米国に大きな被害が出るなら、市場へのインパクトが懸念される

東西冷戦後では、

  • 湾岸戦争
  • ユーゴスラビア紛争(クロアチア、ボスニアヘルツェゴビナ、コソボ等)
  • アフリカ諸国での内戦、紛争(ジブチ、ソマリア、コンゴ等)
  • アフガニスタン侵攻
  • イラク戦争
  • 南オセチア紛争
  • イスラエル・ガザ紛争
  • シリア内戦
  • ウクライナ内戦

などが主な戦争・紛争として発生しています。

 これらの戦争・紛争の中では、先進国、とりわけ世界経済を牽引する米国が深刻なダメージを受けた例は、実はほとんどありません。戦争・紛争がきっかけで世界経済が大きく減速する・不況に入ったケースはないということです。

 唯一、湾岸戦争(1990年ごろ)のケースでは、戦争に伴う原油価格の急騰が米景気の後退を招きました。これに引きずられるかたちで、米国株(S&P500)は高値から20%以上の下落を見せました。

 今回の北朝鮮問題においても、戦争が大規模化し、核兵器の使用が現実化するなど米国の影響が甚大となるようであれば、世界経済が減速し、相場が崩れていく可能性が考えられます。

 とはいえ、現在の北朝鮮問題は、マーケットが計算できるようなリスクとは本質的に異なります。厳密に言えば、これはリスクではなく、不確実性と言えるでしょう。金融市場内部で起こる一般的なリスクであれば、投資手法を駆使することや、デリバティブなどの商品を絡めることコントロールすることができます。

 しかし、こうした戦争などに起因する不確実性をコントロールすることは不可能です。結局のところ、戦争の現実性が高まれば、債券などの低リスク資産、金(ゴールド)、あるいは預金などへの逃避が起こることになりそうです。

 相場の安定のため、何より世界平和のために、北朝鮮問題が戦争に発展することなく過ぎることを祈るばかりです。