今日のポイント

  • 米国の4-6月期実質GDP成長率は+2.6%と前期の伸びを上回り、ダウ平均は初の2万2千ドル乗せ。決算発表を受けた業績見通し改善で、TOPIXは今週年初来高値を更新した。
  • 自動車業界の「EVシフト」が本格化。今春以降、EV世界最大手テスラの時価総額はGMとフォードを逆転した。EV向け高付加価値電子部材を供給する日本企業は「千客万来」か。

業績見通し改善でTOPIXは年初来高値を更新

政治的な不透明感と企業業績への期待が綱引きするなか、日経平均は今週も2万円の攻防を続けています。一方、日経平均よりも東京市場の大勢を示すTOPIX(東証株価指数:東証上場約2000銘柄で構成される時価総額加重平均指数)は今週、年初来高値を更新する堅調をみせました。

各種経済指標が内外景気の堅調を確認するなか、決算発表が総じて好調で、業績見通しがおおむね改善していることが背景です。たとえば、7月28日に発表された米国の4-6月期・実質GDP(国内総生産)成長率は+2.6%(前期比年率)と前期(+1.2%)を上回りました。日本でも、8月14日に発表される4-6月期実質GDP成長率が+2.5%程度と見込まれ、1-3月期の実績(+1.2%)を上回りそうです(市場予想平均)。日米とも景気は底堅さを維持しています。


図1は、TOPIXおよびTOPIXベースの予想EPS(1株あたり利益。12カ月先EPS予想平均=12 months forward looking EPS)の推移を示したものです。直近の予想EPSは115.48で、TOPIXの予想PER(株価収益率)は約14.2倍に留まっています。業績見通しのトレンドを示す「予想EPSの4週移動平均線」は増勢を強め、史上最高額を更新しています。足元の株高基調を支えている本源的要因は、「来年の今ごろを視野に入れた業績見通しの改善にある」と言えそうです。

図1: TOPIXと12カ月先EPS予想平均の推移(週次)

(注:EPS予想は12 months forward looking EPS=Bloomberg集計による市場予想平均) 出所:Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2017年7月28日)

 

「EV時代到来」を予兆する米国市場での時価総額逆転

EV(電気自動車)の急速な普及拡大が見込まれています。フランスに続き英国が2040年に内燃機関型自動車(ガソリン車やディーゼルエンジン車)の販売を禁止する方針を発表。インドは2030年までに新車販売をすべてEVにする計画を発表しました。大気汚染に悩む中国政府は、2013年からEVやHEV(ハイブリッド車)など新エネルギー車購入に対し補助金を出しています。

IEA(国際エネルギー機関)は、2016年の世界のEV普及台数は前年比60%増の200万台と報告し、2020年までに900万~2000万台、2025年までに400万~7000万台に達すると試算しています。

こうした見通しを先取りするかのように、EV生産・販売で世界最大手であるテスラ社の時価総額は、GMやフォードの時価総額を抜き、米自動車産業で首位に立っています(図2)。テスラの自動車販売台数は2016年実績で約7万6千台とGMの100分の1以下でしかありませんが、市場(投資家)が「自動車業界の主役が内燃機関型からEVにシフトしていく」と見込んでいることを象徴しているかのようです。日米欧における既存の自動車メーカーは、当初予想を超えるペースで進むEV需要の拡大に向き合い、大きな戦略転換を迫られています。

図2: 米・自動車各社の時価総額推移

出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2017年7月28日時点)

 

自動車業界の「EVシフト」で注目される電子部材供給企業

自動車業界の「EVシフト(優位)」が見込まれるなか、EVの生産用デバイス(電子部材)に対する需要が急拡大すると予想されています。たとえば、テスラ社が7月3日に発表した4-6月期のEVの販売実績は前年同期比で53%増加しましたが、リチウムイオン電池パックの「深刻な生産不足がなければ販売がもっと好調だった可能性がある」と述べました(7月4日付けWSJ紙報道)。すなわち、EV生産に不可欠な電子部材の供給が需要に追いつかなくなっている状況が明らかとなりました。

また、EV向けに車載用モーターを供給している日本電産の永守会長は、7月26日の同社決算発表時、「EVの普及加速で当社の開発センターにはたくさんの顧客がやってきている。まさに『千客万来』だ」と述べました。同会長は「EVの鍵となるのはモーターとバッテリー」で、同社製品に世界中から引き合いが増えている状況を明らかにしました。

もちろん、従来型自動車と比較すると、EVの走行可能距離はまだまだ短く、リチウムイオン電池の必要量が多く総重量が重い、充電設備(ステーション)も圧倒的に不足している、など課題は多くあります。ただ、第4次産業革命の主柱ともされる電子部材の開発も急速に進歩しています。将来は自動車だけでなく「EA(電気飛行機)」などにも需要が広がると見込まれ、民間企業だけでなく国(政府)のコミットメント(予算の支出や政策支援)が強化されていくと思われます。

世界の自動車市場で「EVシフト」が本格化していくなか、EV向けに高付加価値電子部材を供給する企業の収益は「好調・拡大」が期待され、市場も注目度を高めていくと考えています。今年に入り、日本の自動車メーカーの株価は一部(例:新興国市場に強いスズキなど)を除き株価が劣勢にありますが、EV増産に不可欠な電子部材を供給する日本企業の年初来パフォーマンスは総じて堅調です(図3の「年初来騰落率」を参照)。日本の部材メーカーはもともと「高品質」で知られていますが、世界需要の拡大で「千客万来」を謳歌する可能性が高そうです。

図3:EV向け電子部材の需要拡大が期待される日本企業(一覧)

主なEV(電気自動車)向け部材供給銘柄<時価総額の降順>(参考情報)

コード 銘柄名 株価(円) 年初来騰落率 今期予想 PER(倍) 来期予想 PER(倍) EV向けビジネスの概要
6752 パナソニック 1,512 27.1% 19.8 15.3 テスラ向けに車載用リチウムイオン電池を供給
6594 日本電産 12,855 27.5% 28.9 25.0 EVやHEV向け車載駆動モーターを供給
6723 ルネサスエレクトロニクス 1,046 12.7% 22.0 19.0 EV向けモーター制御用半導体・デバイス
6504 富士電機 601 ▲0.8% 13.7 12.5 米国でEV向けに急速充電器を販売
8056 日本ユニシス 1,754 19.3% 16.2 14.8 高速道路のサービスエリアに充電スタンド
6464 ツバキ・ナカシマ 2,251 32.3% 16.5 15.3 テスラ車向けに精密セラミックボール
6929 日本セラミック 2,870 43.5% 30.2 25.6 電流量を測定する電流センサー部品
6651 日東工業 1,690 6.0% 18.0 15.2 豊田自動織機と共同で充電スタンドを開発
5563 新日本電工 479 99.6% 9.7 10.7 リチウムイオン電池の正極材などを製造
4109 ステラケミファ 3,110 ▲0.5% 13.7 11.4 リチウムイオン電池用の電解質・電解液
上記10銘柄の平均 26.7% 18.86 16.48

(注:予想PERはBloomberg集計によるアナリスト予想平均EPSにもとづく)
出所:Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2017年8月3日)