終身雇用制は経営者の判断も歪めます。業績が悪くなっても従業員をクビにできないので、仕方なく粉飾決算に手を染めることになります。幸いゼロ金利がずっと続いているので、粉飾決算は長い間表面化することもなく、ゾンビ企業として生き続けることができます。問題が発覚しても「雇用を守るためにやりました」と言えば、裁判所が情状酌量してくれるだろう、という期待も計算式に入っているでしょう。本来であれば、優秀な人材はさっさとそのような会社を去って新天地でその能力を発揮すべきところが、それを難しくしているのが終身雇用制なのです。

 このような終身雇用制がもたらす問題を考えれば、それを防ぐシステムは非常に強固なものでなければなりません。しかし残念ながら、米国に比べ、多くの日本企業のコーポレートガバナンスは弱いままです。取締役会のメンバーのほとんどが従業員出身者であったり、過剰な買収防衛策を採用していたり、株主優待制度によって相対的に外人投資家を不利にしていたり、多くの子会社を抱えていたり…もちろん、多くの組織は倫理観に優れ、不正とは関係ないのでしょうが、このような要素を一つ一つ積み上げていくと、終身雇用制に伴うリスクは、客観的に判断して、一般的に高く見積もっておかなければなりません。これは実際、オリンパスや東芝など、多くの企業不正が発覚していることによってすでに証明されています。

 何よりも、このような状況は日本経済全体にとって大きなマイナスです。財務省にいるような優秀な人材が、修正液やコピー機を駆使した工作作業のために深夜まで残業を強いられるというのは、資源の大きな無駄遣いです。企業でも不正を指示されるようなことがあれば、サラリーマンである前に、人間であることを思い出していただきたいと思います。終身雇用制と日本のガバナンス体制を考えれば、今のところ、このような不安を払拭できるのは一人一人の倫理観しかないのだと思います。今回、3月2日付け朝日新聞の記事をきっかけに財務省による文書改ざんが明らかになりましたが、リーク元は、倫理観と勇気ある財務省内部であったことを願うばかりです。