一方、一時期よりはその規模は縮小したものの、中国とロシアはベネズエラの石油やその他の恩恵と引き換えに、資金的な援助や債務の返済時期を後ろ倒しするなどの措置をとっています。
今、ベネズエラは、高インフレ、政府債務の積み上がり、石油関連施設の老朽化、膨大な埋蔵量でも原油の生産を拡大できない状況……この数十年間、石油資源におごる、民意を巧みに操る独裁者が行ってきたことのツケをはらっている状況にあると言えます。
中国とロシアの支援が途絶えれば本当に国が崩壊しかねない状態です。
豊富な埋蔵量があっても原油生産量は減少傾向
独裁的なチャベス大統領に代わり、チャベス氏の言葉どおり、2013年にマドゥロ氏が大統領に就任しました。
しかし、就任時、すぐに逆オイルショックが始まったことやチャベス氏ほど求心力がなかったことなどで、ベネズエラの情勢はさらに混迷していきました。(インフレ率・政府債務残高などは先述のとおり)
さらに混迷に輪をかけたのが原油生産量の低下です。
一見すると、OPECの一員であるベネズエラの現在の生産量の低下は、減産順守のためであるかのように見えますが、それだけではありません。
図4:ベネズエラの原油生産量
減産が始まる以前から、ベネズエラの原油生産量の減少は始まっていました。減少が始まった2015年12月は、同国で総選挙が行われて野党が勝利し、政局の不安定さがより鮮明になったタイミングでした。
ベネズエラは石油と政治とカネが密接に結びついている国です。政局が不安定化し、富を生む源泉である石油への投資(国内の石油企業への予算配分、および海外の石油企業の誘致など)が正しく行われなくなった可能性があります。
国内情勢は混迷を極め、米国等の石油産業にノウハウを持つ国からの支援も受けられず、豊富な埋蔵量を誇るベネズエラの石油は眠ったままになっています。
危機への打開策として生まれたのが2つの仮想通貨
このような危機を打開すべく、マドゥロ大統領は「Petro(ペトロ)」「Petro Gold(ペトロ ゴールド)」の2の仮想通貨の導入をアナウンスしました。
冒頭で述べたとおり、この2つの仮想通貨には大きな2つの特徴があります。(1)政府主導で作られた、(2)モノの裏付けがある、という点です。
報道によれば、1Petroはベネズエラ産の原油1バレルと交換ができるとされています。つまり、1Petroを保有するということは、ベネズエラ産の原油1バレルを保有していることを意味します。これが「モノの裏付け」という点です。今回のICO(新規仮想通貨公開)では、1億Petroを上限とするとしています。
1970年代に廃止となった金本位制(きんほんいせい。金1オンスを30ドル程度し、金をドルの裏付けとした)のように、実際のモノが裏付けとなる点は、黎明期と言える仮想通貨においてはまだ多くの例はないと言えます。
ベネズエラが「Petro」を導入できたのは、世界最大級の原油埋蔵量があるためです。
すでに7億ドル以上の購入申し込みを受け付けたと報じられていますが、ベネズエラ産の原油(Merey原油 2月22日時点で59.15ドル/バレル)で換算すれば、およそ120万バレル分となります。埋蔵量はおよそ3,000億バレルです。(埋蔵量の問題点は後述します)
一方、「Petro Gold」については、来週にも取引が始まるとアナウンスされています。「Petro」と同様、モノの裏付けがあるということで、こちらは名前のとおり「金(ゴールド)」を裏付けとするものです。
1Petro Goldがどれくらいの金の数量になるかは現段階で確認できていませんが、ベネズエラとして原油のように相当の数量を有していることが必要です。
図5:ベネズエラ中央銀行の金(ゴールド)の保有高
ベネズエラは、顕著になった危機への対応において、金(ゴールド)の売却を進めているようです。金(ゴールド)を裏付けとした場合、数量が足りなくなる可能性は「Petro」よりも高い、ということになります。
政府主導・モノの裏付けはかえって仇になっている
政府主導、モノの裏付けという特徴を持った2つの仮想通貨ですが、これらの特徴が返ってあだになる可能性が指摘されています。
大きな政情不安をかかえるベネズエラが主導しているため、その不安定な国が主導するものはそもそも仮想通貨として成り立つのか?という懐疑的な見方です。すでに米国やベネズエラ国内からも法的に問題があるという声があがっているようです。
また、モノの裏付けという点は、膨大とされる原油埋蔵量そのものに懐疑的な見方があります。
- データが不確かである:相当の埋蔵量があるとされた時よりも原油価格が下落しているため、3,000億バレルは現時点での有効な埋蔵量とはいえない。
- 採掘できない可能性がある:ベネズエラ国内の政情不安、外国の石油会社の援助がないため、権利を有しても採掘ができない可能性がある。
- 採掘できても資産として有効利用できない:主な埋蔵地区とされるベネズエラ西のコロンビアとの国境地帯から東のカリブ海に流れるオリノコ川北側で採掘される原油は「超重質油」である。これを商業利用するためには軽油などの石油製品を希釈剤として用いて精製しなければならず、作業とコストと時間がかかり、仮に資産として有しても活用することは難しい。
また、金(ゴールド)については、先述のとおり、の保有量が十分でない可能性があります。
原油も金も、裏付けとなるモノそのもの、そしてそれらを主導する国(大統領)への不安があり、一般化するかに疑問符が生じます。
2つの仮想通貨はベネズエラの目先の資金調達手段か
では何のために、ベネズエラは仮想通貨を導入したのでしょうか?
それは、政府や国営石油企業の債務の返済期限がせまっており、その返済のための資金を調達するためだと考えられます。
今回のベネズエラの仮想通貨の導入は、国債や社債を発行するのに似ていると思います。同国の各付けは投機的水準とされているため、その代わりに自国が保有するモノを担保として債券を発行している、と言えそうです。
情勢が厳しいベネズエラにおいて、今回の仮想通貨の導入が大きな転機になるかは大きな疑問が残ります。資金の調達も重要ですが、やはり、国そのものの正常な民主化が必要なのだと思います。