ベネズエラで仮想通貨「Petro(ペトロ)」「Petro Gold(ペトロ ゴールド)」が誕生

 今月20日、南米ベネズエラで新しい仮想通貨「Petro(ペトロ)」の先行販売が行われました。また、21日には「Petro Gold(ペトロゴールド)」の発行が始まる旨のアナウンスがなされました。

 Petro(ペトロ)とは、石油を意味するPetroleum(ペトロリアム)に由来します。

 いずれも主導しているのは南米ベネズエラのマドゥロ大統領です。

 ベネズエラ(正式にはベネズエラ・ボリバル共和国)は、南米大陸の北部、カリブ海に面し、ブラジルの北、コロンビアの東側に位置する国です。

 

大統領主導、モノの裏付けがある新しいタイプの仮想通貨

 報じられている点をまとめると、「Petro(ペトロ)」と「Petro Gold(ペトロゴールド)」には、(1)大統領主導で作られた、(2)モノの裏付けがある、という共通点があります。

 大統領のお墨付きという点では、2018年1月にはロシアのプーチン大統領が「クリプトルーブル(Crypto Ruble)」という仮想通貨の必要性について言及しています。

 モノ(商品)の裏付けという点では、昨年冬にオーストラリアの会社が「クリプトゴールド(Crypto Gold)」立ち上げたと報じられています。

 国のリーダーが主導する、モノの裏付けがある、という点はそれぞれ前例があるものの、この2つの条件を両方満たす仮想通貨はおそらく世界初でしょう。

 

ベネズエラは元来、石油に恵まれた国家

 世界でもまれな仮想通貨が生まれたベネズエラという国は、元来、石油資源の恩恵を受ける国。現在も95%以上の外貨を石油によって得ていると言われています。

 また、OPEC(石油輸出国機構)の一員として、2016年に合意した減産(2016年10月比、日量9万5,000バレル削減)を実施している国でもあります。産油量はOPEC14か国中8位で、日量160万バレルです(2018年1月時点 減産合意は順守している)。

 1970年代には、中南米で最も成長率が高く民主化した国と言われ、安定した状態が続いていました。

 ベネズエラについて報じられる際の枕詞ともいえる「世界最大級の原油埋蔵量」については、以下の図から2007年より確認埋蔵量が急増していることがわかります。(2016年時点でおよそ3,000億バレル)

 サウジアラビアを凌ぐ埋蔵量です。(この点については、疑問点があり、後述します)

図1:ベネズエラとサウジアラビアの原油埋蔵量 

単位:100万バレル 
出所:OPECのデータより筆者作成

 

第一次石油危機以降、独裁者による石油・政治・カネの支配が進む

 石油の恩恵に授かり、経済が安定していたベネズエラですが、転機が訪れます。石油危機によって急騰した後の反動、つまり原油価格の急落・低迷です。

 原油価格の動向は、それを主な収入源としているベネズエラの運命を決めるカギと言えます。

 また、独裁者による石油関連企業の国有化(関連会社を国有化したりその傘下に入れたりするなど)が進められました。汚職も加わり、独裁者による石油と政治とカネの結びつきが強まっていきました。

 原油価格は2003年ごろからいったんは上昇し、再びベネズエラの経済が安定化したかに見えましたが、2014年半ばごろから、再び急落・低迷しました。この逆オイルショックを機に、ベネズエラの経済は再び窮地に立たされます。

図2:ベネズエラの輸出額と原油価格の推移

出所:UNCTAD・CMEのデータより筆者作成

 

高インフレ・経済危機で国は崩壊寸前

 ベネズエラの現在の状況を端的に示す指標として、インフレ率や政府債務残高などがあります。

図3:ベネズエラのインフレ率と政府債務残高の推移

2014年以降の政府債務残高、2017年のインフレ率はIMFの2017年10月時点の推計

出所:IMFのデータより筆者作成

 ベネズエラ国内では物価が高騰しています。同時に、政府の債務(借金)もどんどん大きくなっており、国としての存続が危ぶまれています。

 こうした状況の中、米国はベネズエラの前・現政権の方針に反対し、投資していた油田や石油精製施設から撤退、欧州諸国でも渡航の制限などの措置をとっています。

 このような措置は、老朽化したベネズエラの石油関連施設の刷新や、膨大な埋蔵量の原油を輸出できるようにすることへの非常に大きな足かせになっています。