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汚職が生んだ、新しい2つの仮想通貨とは?
吉田 哲
週刊コモディティマーケット
コモディティ(商品)をお取引いただく上でのコメント・アイディアを提供するレポートです。金をはじめとした貴金属、原油をはじめとしたエネルギー関連銘柄、とうもろこし・大豆などの穀物な…

汚職が生んだ、新しい2つの仮想通貨とは?

2018/2/23
・ベネズエラで仮想通貨「Petro(ペトロ)」「Petro Gold(ペトロ ゴールド)」が誕生
・大統領主導、モノの裏付けがある新しいタイプの仮想通貨
・高インフレ・経済危機で国は崩壊寸前、危機への打開策として2つの仮想通貨が生まれた
・2つの仮想通貨はベネズエラの目先の資金調達手段か
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ベネズエラで仮想通貨「Petro(ペトロ)」「Petro Gold(ペトロ ゴールド)」が誕生

 今月20日、南米ベネズエラで新しい仮想通貨「Petro(ペトロ)」の先行販売が行われました。また、21日には「Petro Gold(ペトロゴールド)」の発行が始まる旨のアナウンスがなされました。

 Petro(ペトロ)とは、石油を意味するPetroleum(ペトロリアム)に由来します。

 いずれも主導しているのは南米ベネズエラのマドゥロ大統領です。

 ベネズエラ(正式にはベネズエラ・ボリバル共和国)は、南米大陸の北部、カリブ海に面し、ブラジルの北、コロンビアの東側に位置する国です。

 

大統領主導、モノの裏付けがある新しいタイプの仮想通貨

 報じられている点をまとめると、「Petro(ペトロ)」と「Petro Gold(ペトロゴールド)」には、(1)大統領主導で作られた、(2)モノの裏付けがある、という共通点があります。

 大統領のお墨付きという点では、2018年1月にはロシアのプーチン大統領が「クリプトルーブル(Crypto Ruble)」という仮想通貨の必要性について言及しています。

 モノ(商品)の裏付けという点では、昨年冬にオーストラリアの会社が「クリプトゴールド(Crypto Gold)」立ち上げたと報じられています。

 国のリーダーが主導する、モノの裏付けがある、という点はそれぞれ前例があるものの、この2つの条件を両方満たす仮想通貨はおそらく世界初でしょう。

 

ベネズエラは元来、石油に恵まれた国家

 世界でもまれな仮想通貨が生まれたベネズエラという国は、元来、石油資源の恩恵を受ける国。現在も95%以上の外貨を石油によって得ていると言われています。

 また、OPEC(石油輸出国機構)の一員として、2016年に合意した減産(2016年10月比、日量9万5,000バレル削減)を実施している国でもあります。産油量はOPEC14か国中8位で、日量160万バレルです(2018年1月時点 減産合意は順守している)。

 1970年代には、中南米で最も成長率が高く民主化した国と言われ、安定した状態が続いていました。

 ベネズエラについて報じられる際の枕詞ともいえる「世界最大級の原油埋蔵量」については、以下の図から2007年より確認埋蔵量が急増していることがわかります。(2016年時点でおよそ3,000億バレル)

 サウジアラビアを凌ぐ埋蔵量です。(この点については、疑問点があり、後述します)

図1:ベネズエラとサウジアラビアの原油埋蔵量 

単位:100万バレル 
出所:OPECのデータより筆者作成

 

第一次石油危機以降、独裁者による石油・政治・カネの支配が進む

 石油の恩恵に授かり、経済が安定していたベネズエラですが、転機が訪れます。石油危機によって急騰した後の反動、つまり原油価格の急落・低迷です。

 原油価格の動向は、それを主な収入源としているベネズエラの運命を決めるカギと言えます。

 また、独裁者による石油関連企業の国有化(関連会社を国有化したりその傘下に入れたりするなど)が進められました。汚職も加わり、独裁者による石油と政治とカネの結びつきが強まっていきました。

 原油価格は2003年ごろからいったんは上昇し、再びベネズエラの経済が安定化したかに見えましたが、2014年半ばごろから、再び急落・低迷しました。この逆オイルショックを機に、ベネズエラの経済は再び窮地に立たされます。

図2:ベネズエラの輸出額と原油価格の推移

出所:UNCTAD・CMEのデータより筆者作成

 

高インフレ・経済危機で国は崩壊寸前

 ベネズエラの現在の状況を端的に示す指標として、インフレ率や政府債務残高などがあります。

図3:ベネズエラのインフレ率と政府債務残高の推移

2014年以降の政府債務残高、2017年のインフレ率はIMFの2017年10月時点の推計

出所:IMFのデータより筆者作成

 ベネズエラ国内では物価が高騰しています。同時に、政府の債務(借金)もどんどん大きくなっており、国としての存続が危ぶまれています。

 こうした状況の中、米国はベネズエラの前・現政権の方針に反対し、投資していた油田や石油精製施設から撤退、欧州諸国でも渡航の制限などの措置をとっています。

 このような措置は、老朽化したベネズエラの石油関連施設の刷新や、膨大な埋蔵量の原油を輸出できるようにすることへの非常に大きな足かせになっています。

 一方、一時期よりはその規模は縮小したものの、中国とロシアはベネズエラの石油やその他の恩恵と引き換えに、資金的な援助や債務の返済時期を後ろ倒しするなどの措置をとっています。

 今、ベネズエラは、高インフレ、政府債務の積み上がり、石油関連施設の老朽化、膨大な埋蔵量でも原油の生産を拡大できない状況……この数十年間、石油資源におごる、民意を巧みに操る独裁者が行ってきたことのツケをはらっている状況にあると言えます。

 中国とロシアの支援が途絶えれば本当に国が崩壊しかねない状態です。

 

豊富な埋蔵量があっても原油生産量は減少傾向

 独裁的なチャベス大統領に代わり、チャベス氏の言葉どおり、2013年にマドゥロ氏が大統領に就任しました。

 しかし、就任時、すぐに逆オイルショックが始まったことやチャベス氏ほど求心力がなかったことなどで、ベネズエラの情勢はさらに混迷していきました。(インフレ率・政府債務残高などは先述のとおり)

 さらに混迷に輪をかけたのが原油生産量の低下です。

 一見すると、OPECの一員であるベネズエラの現在の生産量の低下は、減産順守のためであるかのように見えますが、それだけではありません。

図4:ベネズエラの原油生産量

単位:百万バレル/日量
出所:米エネルギー省(EIA)のデータより筆者作成

 減産が始まる以前から、ベネズエラの原油生産量の減少は始まっていました。減少が始まった2015年12月は、同国で総選挙が行われて野党が勝利し、政局の不安定さがより鮮明になったタイミングでした。

 ベネズエラは石油と政治とカネが密接に結びついている国です。政局が不安定化し、富を生む源泉である石油への投資(国内の石油企業への予算配分、および海外の石油企業の誘致など)が正しく行われなくなった可能性があります。

 国内情勢は混迷を極め、米国等の石油産業にノウハウを持つ国からの支援も受けられず、豊富な埋蔵量を誇るベネズエラの石油は眠ったままになっています。

 

危機への打開策として生まれたのが2つの仮想通貨

 このような危機を打開すべく、マドゥロ大統領は「Petro(ペトロ)」「Petro Gold(ペトロ ゴールド)」の2の仮想通貨の導入をアナウンスしました。

 冒頭で述べたとおり、この2つの仮想通貨には大きな2つの特徴があります。(1)政府主導で作られた、(2)モノの裏付けがある、という点です。

 報道によれば、1Petroはベネズエラ産の原油1バレルと交換ができるとされています。つまり、1Petroを保有するということは、ベネズエラ産の原油1バレルを保有していることを意味します。これが「モノの裏付け」という点です。今回のICO(新規仮想通貨公開)では、1億Petroを上限とするとしています。

 1970年代に廃止となった金本位制(きんほんいせい。金1オンスを30ドル程度し、金をドルの裏付けとした)のように、実際のモノが裏付けとなる点は、黎明期と言える仮想通貨においてはまだ多くの例はないと言えます。

 ベネズエラが「Petro」を導入できたのは、世界最大級の原油埋蔵量があるためです。

 すでに7億ドル以上の購入申し込みを受け付けたと報じられていますが、ベネズエラ産の原油(Merey原油 2月22日時点で59.15ドル/バレル)で換算すれば、およそ120万バレル分となります。埋蔵量はおよそ3,000億バレルです。(埋蔵量の問題点は後述します)

 一方、「Petro Gold」については、来週にも取引が始まるとアナウンスされています。「Petro」と同様、モノの裏付けがあるということで、こちらは名前のとおり「金(ゴールド)」を裏付けとするものです。

 1Petro Goldがどれくらいの金の数量になるかは現段階で確認できていませんが、ベネズエラとして原油のように相当の数量を有していることが必要です。

図5:ベネズエラ中央銀行の金(ゴールド)の保有高

単位:トン
出所:ワールドゴールドカウンシルのデータをもとに筆者作成

 ベネズエラは、顕著になった危機への対応において、金(ゴールド)の売却を進めているようです。金(ゴールド)を裏付けとした場合、数量が足りなくなる可能性は「Petro」よりも高い、ということになります。

 

政府主導・モノの裏付けはかえって仇になっている

 政府主導、モノの裏付けという特徴を持った2つの仮想通貨ですが、これらの特徴が返ってあだになる可能性が指摘されています。

 大きな政情不安をかかえるベネズエラが主導しているため、その不安定な国が主導するものはそもそも仮想通貨として成り立つのか?という懐疑的な見方です。すでに米国やベネズエラ国内からも法的に問題があるという声があがっているようです。

 また、モノの裏付けという点は、膨大とされる原油埋蔵量そのものに懐疑的な見方があります。

  1. データが不確かである:相当の埋蔵量があるとされた時よりも原油価格が下落しているため、3,000億バレルは現時点での有効な埋蔵量とはいえない。
  2. 採掘できない可能性がある:ベネズエラ国内の政情不安、外国の石油会社の援助がないため、権利を有しても採掘ができない可能性がある。
  3. 採掘できても資産として有効利用できない:主な埋蔵地区とされるベネズエラ西のコロンビアとの国境地帯から東のカリブ海に流れるオリノコ川北側で採掘される原油は「超重質油」である。これを商業利用するためには軽油などの石油製品を希釈剤として用いて精製しなければならず、作業とコストと時間がかかり、仮に資産として有しても活用することは難しい。

 また、金(ゴールド)については、先述のとおり、の保有量が十分でない可能性があります。

 原油も金も、裏付けとなるモノそのもの、そしてそれらを主導する国(大統領)への不安があり、一般化するかに疑問符が生じます。

 

2つの仮想通貨はベネズエラの目先の資金調達手段か

 では何のために、ベネズエラは仮想通貨を導入したのでしょうか?

 それは、政府や国営石油企業の債務の返済期限がせまっており、その返済のための資金を調達するためだと考えられます。

 今回のベネズエラの仮想通貨の導入は、国債や社債を発行するのに似ていると思います。同国の各付けは投機的水準とされているため、その代わりに自国が保有するモノを担保として債券を発行している、と言えそうです。

 情勢が厳しいベネズエラにおいて、今回の仮想通貨の導入が大きな転機になるかは大きな疑問が残ります。資金の調達も重要ですが、やはり、国そのものの正常な民主化が必要なのだと思います。

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