ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイ社の2019年度年次報告書の「株主への手紙」。3回目となる今回は、バークシャーの中核であり、成長し続ける損害保険事業と、風力発電への巨額投資で大きく成長したバークシャー・ハサウェイ・エネルギーについてお伝えします。
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損害保険事業について

 1967年にナショナル・インデムニティ及びその姉妹会社であるナショナル・ファイア&マリンを8.6百万ドルで買収して以来、損害保険事業は当社の成長を牽引してきたエンジンです。今では、ナショナル・インデムニティは純資産ベースで世界最大の損害保険会社です。保険は確信度の高い事業であり、当社の契約履行能力は他社と比較になりません。

 損害保険事業に興味を持った理由は業界のビジネスモデルにあります。損害保険事業は保険料を前払いで受取り、保険金は後日支払います。極端な場合、アスベスト問題や深刻な労災などの為、保険金支払いが何年にも及ぶことがあります。

 このようにお金を先に受け取り、支払いが後になるビジネスモデルは、損害保険会社に潤沢な資金―我々が「フロート」と呼んでいるお金―をもたらします。この資金はいずれ他人の手に渡りますが、それまでの間、自分の利益のためにその資金を運用する機会を与えてもらえます。個々の保険契約自体は新規と解約による増減がありますが、保険会社が保有するフロートは保険料の規模に応じて比較的安定的に推移することが多いです。結果的に、我々の事業が拡大するとともにフロートも増加します。フロートが膨らんできた軌跡が以下の表になります。

 時としてフロートが減少することもあります。その場合でも、フロートの減少は非常に緩やかであり、多く見積もっても年間3%以上減少することはないでしょう。我々の保険の性格上、瞬間的もしくは短期的支払義務の動向によってフロートが甚大な影響を被ることは絶対にありません。この構造は巧みに設計されており、我々の保険事業が不平等なほどに強靭な財務力を誇る根幹となるものです。この強みが危うくなることは絶対にないでしょう。

 顧客が支払う保険料が損失なども含めた総費用を上回れば、我々の保険事業はフロートによって生み出される投資収益に保険引受利益を加えることができます。そのような保険引受利益が生まれるということは、無利息の資金を調達できているだけでなく、さらに良いことに、保有するだけでお金がもらえるということなのです。

 損害保険業界全体の話として、ここ何年にもわたりフロートの財務的価値は昔より大きく低下してしまいました。なぜなら損害保険会社ほぼ全てにおいて、標準的な投資戦略は正しくも高格付債券に大きく偏っているためです。従って、これら会社にとって金利変化は極めて重要であり、過去10年間債券マーケットは痛ましい程に低いリターンしか提供できませんでした。

 結果的に保険会社は年々苦しんでいきました。なぜなら、満期償還や発行体によるコール条項により「古い」投資ポートフォリオを、より低イールドの新投資先にリサイクルしていかなければならなかったためです。過去には保険会社は1ドルのフロートに対して、安全に5セント、6セント得ることができる時代がありましたが、今は2セント、3セントのみしか得ることができません(保険会社の事業がマイナス金利から抜け出せずにいる国に集中している場合は、さらに低くなります)。

 保険会社によっては売上低下を軽減する為に、より低格付けの債券や、より高いイールドを謳う「オルタナティブ」投資を行うかもしれません。しかし、これらはそういった投資の能力を持ち合わせていないほとんどの機関にとって、危険なゲーム・投資活動です。

 概して当社は他保険会社より、好ましい状況にあります。より重要なのは、他社とは比較にならない巨額資本、豊富な現金、非保険分野からの大きくかつ分散化された利益により、当社は全般的に業界他社より遥かに柔軟に投資が行えるということです。我々には多くの選択がある、ということは常に有利なことであり、時に大きな機会を我々に提供しています。

 その間、当社損害保険会社はすばらしい引受実績を上げました。税前損失が途方もない32億ドルとなった2017年を除き、当社は過去17年間の内16年間において保険引受利益を計上しています。過去17年間合計では、税前利益は275億ドルとなり、2019年は400百万ドルを計上しました。

 これは偶然ではありません。質の低い保険引受業がフロートの価値毀損につながることを肝に銘じている経営陣が、日々リスク評価に集中しているからです。全ての保険会社がこの点に言及しますが、なかなか実践されていないのが実情です。バークシャーでは、このことは宗教であり、言わば旧約聖書のような扱いになっています。

 私が過去に繰り返し言ってきたことですが、この幸運な結果が当たり前のようにもたらされたものでは決してないことを改めて強調したいと思います。今後17年間の内16年間に保険引受利益を計上することは、ほぼ確実にないでしょう。危険は常に潜んでいます。

 保険業においてリスク評価を見誤ることは甚大な影響を及ぼします。また、表面化し具現化するまで長い年月(場合によっては数十年)かかることがあります(アスベストがいい例です)。ハリケーン・カトリーナやマイケル級の大きな災害は起きるはずで、明日に起きるのか数十年後に起きるのかわかりません。

「大災害」が、伝統的な災害であるハリケーンや地震かもしれませんし、もしくはサイバー攻撃など今の保険会社の想定を大きく超えるような破壊的な結果を招くものかもしれません。このような大災害が発生した場合、我々も損害の一部を負担するでしょうし、損害金額はとても大きいものになるでしょう。しかし、他保険会社と異なり、その損失処理は当社リソースに大きな負担を強いるものではなく、我々は翌日には当社事業への追加投資を切望しているでしょう。

 ひととき目を閉じてダイナミックな損害保険会社が生まれるかもしれない場所を想像してみてください。ニューヨーク?ロンドン?シリコンバレー?

 ウィルクス・バリはどうでしょうか?

 2012年後半、当社保険事業の重要なマネージャーであるアジット・ジェインは、ペンシルバニア州の小さな町(ウィルクス・バリ)にあるガード・インシュランス・グループという極めて小さい会社を221百万ドル(当時のガードの純資産額に相当)で買収すると私に電話をかけてきました。また、彼はガードのCEOであったサイ・フォグエル(Sy Foguel)が当社のスターになるだろうと付け加えました。ガードとサイという名前を私は聞いたことがありませんでした。

 大当たり、そして大当たり。2019年、ガードの保険料収入は19億ドルとなり、2012年から379%増加し、また、上々の保険引受利益も計上しました。当社の一員になってから、サイは会社の新商品開発、米国内の新地域進出を担い、ガードのフロートを265%増加させました。

 1967年時点では、オマハが巨大損害保険会社の出発地になるとは考え辛かったものです。ウィルクス・バリも似たような驚きをもたらすかもしれません。