11月4日に実施される米中間選挙まであと1ヶ月を切りました。前号でお示しした通り、アメリカの株式相場は中長期的に見て割安な水準にありますが、中間選挙はその割安を修正する、即ちファンダメンタルズから見て株式相場が適正な水準に向かって上昇する、一つのきっかけになると考えています。
簡単に今回の中間選挙の注目点をお示ししておきます。現在上院は民主党53議席・共和党45議席・無所属2議席で、民主党が過半数を占めています。これに対して下院では共和党233議席・民主党199議席・空席3議席と共和党が過半数を占め、上下院でいわゆるネジレた状態となっています。2年に一度選挙が行われる下院では共和党が34議席リードの上、現時点で殆ど議席を守る可能性が高いと見られているため、下院での共和党過半数維持はほぼ確実とされています。
注目は6年に一度の再選を賭けた上院で、今回は共和党が過半数を奪回する可能性が高まってきています。理由は第一に、歴史的に政権を握っている政党は中間選挙では不利とされています。今回再選にかけられるのはオバマ大統領が勝利した選挙で同時に勝利した議員ですが、その一部は単にオバマ・バブルに便乗していた可能性が高いと見られるからです。第二に、今回再選の対象となる共和党議員が15人なのに対し、民主党は21人にも上り、そのうち7つの州は2年前の大統領選挙で共和党のロムニー候補を支持しています。第三に、オバマ政権が推進してきた医療保険制度改革、通称「オバマケア」に対する国民の不満は根強く、また2期目の課題としてあげた政策目標の多くが頓挫していることも民主党にとって逆風となっています。
このような状況を受けて、9月末時点でワシントンポスト紙が76%の確率、NYタイムズ紙が67%の確率で上院での共和党過半数を予想しています。オンラインのギャンブルサイトではこの確率が80%超えで取引されており、今回の中間選挙では下院に加え、上院も共和党が過半数を占める可能性がかなり高いと見られています。
さてこの通り、上院も下院も共和党が過半数を取った場合、一体何が変わるのでしょうか?結論から言えば、あまり変わりはありません。多くの政策の変更には上院での賛成票60票が必要となりますが、いくら共和党有利とはいえ、今回の中間選挙で15議席も確保するのはほぼ不可能だからです。さらにオバマ大統領による拒否権を覆すのには67票が必要となりますが、これは共和党が、今回再選にかけられる民主党の議席全てを獲得したとしても数字的に足りません。大統領が民主党の下では、上院・下院とも共和党が過半数を獲得したとしても思う通りの政策を実行できるわけでなく、基本的にはこれまで通りネジレと似た状態が続く、ということなのです。
しかし政治の「雰囲気」はやや変わったものになりそうです。というのは共和党としては、国民の支持が高いと思われるトピックについて上下院で法案を通し、オバマ大統領に「踏み絵」を迫る、という戦術が使えるようになるからです。当然の事ながらオバマ大統領には拒否権がありますが、あまり国民の支持が高い法案に対して拒否権を連発していると、2016年の大統領選挙に向けて民主党候補にとって不利に働くことになります。この結果、中間選挙の結果は表向きそれほど変化はないと見られるものの、国民の支持が高い、とりわけ景気にプラスと作用しそうな政策については実行される可能性が高まると見ることができます。特に今年問題となってきた「タックス・インバージョン」(07月30日 第321回 タックス・インバージョンが促す法人税減税 参照)について、その根本的な解決策である法人税減税などは、比較的受け入れられやすい政策の一つだと思います。
歴史的に中間選挙後、大統領就任3年目は大統領任期サイクルの中で最もパフォーマンスが良い年とされています。過去50年のS&P500指数の平均上昇率は大統領就任1年目が7.2%、2年目が0.8%、3年目が17.0%、4年目が7.2%と、3年目の上昇率の高さが際立っています。選挙というのは株式相場にとって不透明要因の一つですので、単に中間選挙という不透明要因が通過するという事実だけでも株式相場にとってプラス材料となります。さらに大統領選挙に向けて、景気に優しい政策が取られるという傾向も影響していると考えられます。
さらに中間選挙後、共和党が上下院の両方を支配したのは過去50年間で3回ありますが、その際の大統領就任3年目の上昇率は平均27%にも上っています。そして今回のケースも、その歴史が示す通りになる環境が整っているように見えます。というのは、年初からしばしば株価が調整しているのはバリュエーションの高い小型株が中心であり、大型株の割安は一貫して続いているからです。歴史的に大企業に有利と言われる共和党が上下院を掌握すれば、大型株の割安が見直されやすい展開になると考えています。
(2014年10月7日記)
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