昨年11月のアメリカ大統領選挙を境に、日本株は見違えるような動きとなりました。これを「バブル」と呼ぶ人もいるようですが、資産形成に「バブル」は大いに利用すべきです。果たしてここから日本株が伸びる余地はあるのか、特に需給面での観点から初期アベノミクス相場と比較する形で検証してみたいと思います。
(比較1)投資部門別売買状況
毎週、東京証券取引所では、「外国人投資家」「金融機関」「個人投資家」などといった投資部門別に、日本株をどれだけ売買し、どれだけ買い越しまたは売り越したかを集計したデータを発表しています。これを「投資部門別売買状況」といいます。日本取引所グループ(JPX)のホームページで、過去の分も含め誰でも見ることができます。
直近の状況は次のようになっています。
外国人投資家 | 信託銀行 | 個人投資家 | |
---|---|---|---|
2016年11月 | 15,486 | △2,634 | △14,787 |
2016年12月1週 | 5,665 | 3,011 | △3,783 |
2016年12月2週 | 892 | △548 | △4,875 |
2016年12月3週 | △1,923 | △603 | △2,016 |
2016年12月4週 | 127 | △1,840 | △1,861 |
2017年1月1週 | 2,326 | △461 | △2,424 |
これをみると、トランプ相場開始後、外国人投資家は2カ月間でなんと2兆円を超す日本株を買い越していることが分かります。一方、個人投資家は2カ月間で約3兆円もの日本株を売り越しています。
これと、アベノミクス初期の相場を比較してみましょう。以下は、2012年11月~2013年5月までの状況です。外国人投資家が最初の2カ月で2兆円買い越しています。一方の個人投資家は2カ月で1兆円の売り越しです。トランプ相場から2カ月経過した、今の相場に似ていると思いませんか。
外国人投資家 | 信託銀行 | 個人投資家 | |
---|---|---|---|
2012年11月 | 4,896 | △420 | △4,214 |
2012年12月 | 15,232 | △6,096 | △5,536 |
2013年1月 | 11,638 | △7,495 | △1,381 |
2013年2月 | 7,875 | △5,583 | 314 |
2013年3月 | 15,668 | △8,737 | △3,926 |
2013年4月 | 25,992 | △7,098 | △16,502 |
2013年5月 | 12,003 | △7,458 | △1,719 |
(比較2)日銀のETF買い
もう1つ、日本銀行のETF買いによる買い需要も非常に大きなインパクトがあります。現在、日銀は年間6兆円規模でETF買いを進めており、2016年11月9日~2017年1月13日までのわずか2カ月間で、1兆238億円分のETFを購入しています(「設備投資および人材投資に積極的に取り組んでいる企業を支援するためのETF」は除く)。
トランプ相場が始まってから2カ月、調整らしい調整が全くない中、日銀は1兆円もETFを買っているのです。
以前は日銀のETF買いといえば、株価が大きく下落した時のクッションとして、株価を下支える役割を果たしていました。しかし今では株価が下落しなくとも大量にETF買いを行っている、というのが実態です。
これを、2012年11月~2013年5月までの初期アベノミクス相場と比較してみましょう。
2012年11月中旬~12月までの日銀のETF買いはなんとゼロ、そして2013年1月~5月の5カ月間でもわずか3,057億円に過ぎません。
今では、日銀がETF買いをする日は1日当たり700億円以上買っています。日銀ETF買いの威力の大きさが分かるのではないでしょうか。
投資部門別売買状況の比較からも分かる日銀ETF買いの「威力」
日銀のETF買いは、投資部門別売買状況では「信託銀行」の欄に反映されると言われています。そこで改めて初期アベノミクス相場と足元の相場を比べてみましょう。初期アベノミクス相場では2012年12月以降、信託銀行は毎月5,000億円以上売り越しています。しかし、2016年11月の信託銀行の売り越しは2,600億円にとどまり、12月はプラスマイナスゼロでした。上記の表には載せていませんが、2016年9月、10月の売り越しはそれぞれ1,000億円以内におさまっていて、逆に8月は5,000億円以上の買い越しです。
こうして日銀のETF買いがほとんど入っていなかった初期アベノミクス相場と比較すると、足元の日銀ETF買いの威力が大きいことがよく見えてきます。
(比較1)と(比較2)から見えてくるものとは?
以上、トランプ相場スタート後の各投資家の需給をまとめると、次のようになります。
- 外国人投資家:大幅買い越し(2カ月で2兆円超買い越し)
- 個人投資家:大幅売り越し(2カ月で約3兆円売り越し)
- 日銀のETF買い:2カ月で約1兆円買い越し
日本株の大幅上昇に欠かせない外国人投資家の買い越しが2カ月で約2兆円、これは初期アベノミクス相場の最初の2カ月間(2012年11月~12月)の買い越し額約2兆円とほとんど同じ規模です。
また、個人投資家は初期アベノミクス相場の最初の2カ月間で約1兆円売り越していますが、今回はそれを大きく超える大幅な売り越しです。
過去の経験則上、「外国人投資家の大幅買い越し」+「個人投資家の大幅売り越し」が大相場の条件となりますが、トランプ相場スタートから2カ月間は、十分にこの条件を満たしています。
そして初期アベノミクス相場にはほとんどなかった「日銀ETF買い」という援護射撃が今回はあります。
相場が過熱して個人投資家が色めき立ったら急落を心配し始めよう
初期アベノミクス相場で印象的なのは、2013年4月の1カ月間だけで外国人投資家がなんと2.6兆円も買い越したこと、そして個人投資家が逆に1カ月で1.6兆円も売り越したことです。この時は、バイオ関連銘柄が軒並み乱舞するなど、非常に相場が過熱していたことを思い出します。
筆者は大量の外国人買い+日銀のETF買いという需給状況で、変に弱気になる必要はないと思います。もし株価大幅下落を警戒するならば、2013年4月のように、個人投資家が色めき立ち、次々と株式市場に参入してくるような状態が今後明確に生じてからでよいのではないでしょうか。
もちろん、将来というものはどうなるか分かりません。日々の株価のトレンドを注視して、例えば保有株が25日移動平均線を明確に下回ったら一旦売っておく、という注意深さは必要です。しかし、外国人投資家に加え、日銀のETF買いも大量に入っている足元の日本株、この状況で弱気になってあわてて保有株を大きく減らす必要はないのではないでしょうか。
次回は、裁定買い残、信用評価損益率、信用買い残・売り残、貸借倍率から足元のトランプ相場と初期アベノミクス相場を比較してみたいと思います。
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