日銀の「サプライズ」追加金融緩和
10月31日(金)の午後、日銀は追加金融緩和を発表しました。それを受けて日本株は急騰、日経平均株価は一時前日比875円71銭高の16,533円91銭まで上昇しました(終値は16,413円76銭)。
ほとんどの投資家が予想していないタイミングでのあまりに唐突な発表だったため、多くの投資家は31日の急騰時には何もすることができなかったはずです。そのため、週明け4日も日本株は急騰し、日経平均株価は一時前週末比713円90銭高の17,127円66銭まで上昇しました(終値は16,862円47銭)。なんと10月31日と11月4日のわずか2日間で、日経平均株価は1,500円近くも急騰したことになります。
すでにネット、新聞等様々な媒体で、日銀の追加金融緩和後の日本株の見通しや高値予想等につき解説がなされています。タイムリー性の強い話題ですから、筆者もできるだけ早く本コラムにて取り上げようと思いましたが、筆者は評論家・予想屋ではなく自らも個人投資家です。追加金融緩和を受けた週明けのマーケットの動きを見ないことには何も対策を考えることができません。したがって、追加金融緩和発表後の翌週(11/4~11/6)のマーケットの動きをみてから今後の予測をすることとしました。
追加金融緩和がマーケットに与える効果とは?
まず、追加金融緩和による効果を考えてみましょう。ちょうどアメリカでQE3が予定通り終了されることが発表され、緩和マネーがマーケットに供給されなくなることによる株価下落も懸念されていました。そこへ日銀が追加金融緩和を発表したわけですから、世界中の投資家は「アメリカのQE3が終了しても日本からの緩和マネーが継続してマーケットに流入する」と安心したはずです。
つまり、日銀の追加金融緩和は、世界中のマーケットを安定させる効果があるものと思われます。外国株の相場が落ち着いていれば、日本株にとっては当然プラスです。
さらに、為替レートが円安方向に振れることも、輸出関連企業が多い日経平均株価にとってはプラスになります。
ただ、10月31日と11月4日の両日だけで日経平均株価は1,500円近くも上昇しましたから、この両日の上げで追加金融緩和をどれほど織り込んでしまったのか、今後のマーケットの動きを注視しておかなければなりません。
日本株の過熱感は?
次に、日本株における現状の各種テクニカル指標等をみていくことにしましょう。まず、日経平均株価の25日移動平均線からのかい離率は、11月4日には一時約10%にまで達しました。通常、かい離率が10%程度になると当面の高値をつけることが多くなります。したがって、ここからさらに上値追いをしていくためには、一旦日柄調整もしくは値幅調整により、移動平均線からのかい離を縮めて過熱感を解消させる必要があります。
一方、マーケット全体の過熱感を表す25日騰落レシオは、11月6日時点で87.4%に過ぎません。短期的には確かに過熱感が高まっていますが、騰落レシオを見る限りは、まだ上値を追えそうな感じはします。ちなみに前回金融緩和時には、騰落レシオが152.1%まで上昇した約2週間後に天井をつけました。
また、信用評価損益率は、10月31日現在でマイナス8.26%です。これがプラスマイナスゼロに近づけば近づくほど過熱感が高まるので注意が必要です。前回金融緩和時は、日本株が強すぎたため、プラス3.68%まで上昇し、その2週間後に株価は天井をつけました。
最後に裁定買い残高です。裁定買い残高が積み上がると、裁定解消売りによる株価の急落に注意しなければなりませんが、10月31日時点の残高は2兆8741億円です。前回の金融緩和時は4兆3142億円まで積みあがった翌週に株価が天井をつけています。これと比べるとまだ低水準ですが、11月4日の週も裁定買い残高は結構増えているはずです。今後の残高の推移には注意を払う必要があります。
以上より、目先はさすがに過熱感が高まっているものの、もう少し長い目でみれば上値余地はまだ残されているといえそうです。
果たして物色対象の変化はあるか
今回の追加金融緩和発表のように、大きく株価が動く出来事があった後は、物色対象となる銘柄がそれまでとは変化することがよくあります。
追加金融緩和発表までは、いわば「現実主義」の状況でした。つまり、現時点で実際に好業績の銘柄が買われ、そうでない銘柄はほとんど買いが入らない状態でした。
もしこれが「理想主義」、つまり足元では業績が良くなくとも今後の好業績が期待されて買われる、というようになれば、非常に利益が得られやすい相場となります。極端にいえば足元の業績がどうであろうと株価は上昇してくれるからです。この状況にあったのが前回の金融緩和発表後を含む昨年前半の相場です。
今回は、追加金融緩和発表を受けていち早く株価が大きく反応したのは不動産・証券・その他金融(サラ金、リースなど)の金利敏感株や、円安メリットのある輸出関連銘柄でした。しかし、不動産やその他金融の多くは11月4日の寄付きが高値でその後調整しています。代わって5日、6日はそれまでほとんど上昇しなかった新興市場銘柄などが買われ、とりあえずは循環物色になりそうな気配もあります。
ここから、他の銘柄にも幅広く買いが入って全面高の状況になれば、久しぶりの強気相場到来ということになりますが、今のところはそこまで強い相場にはなっていないようです。
前回の金融緩和発表後の動きを振り返り今後を占う
最後に、前回の金融緩和発表後の株価の動きはどうだったのかを振り返り、今回の追加金融緩和後の日経平均株価の動向を占ってみましょう。
前回の金融緩和は、昨年(2013年)4月4日に発表されました。この時は、すでに株価は年初から大きく上昇を続けていたのですが、そこから5月23日に急落するまでのおよそ1ヶ月半の間、さらに上昇を続けました。つまり、前回の金融緩和の株価押し上げ効果は、およそ1か月半持続したということです。金融緩和発表前日(4/3)の終値12,362円20銭から、5月23日の高値15,658円20銭まで、3,296円の上昇幅、26.7%の上昇率でした。
これを今回の追加金融緩和に当てはめてみると、日柄でいえば12月中旬ごろまでは上値追いの動きが期待できるのではないかと考えられます。これはちょうど消費税引き上げの判断の時期にあたります。ただし、10月30日の終値15,658円20銭から11月4日高値17,127円66銭まで、すでに1,469円46銭も上昇しています。前回の金融緩和時の上昇率に当てはめると、日経平均株価は19,840円まで上昇することになりますが、スタートダッシュがあまりに急速で、買いエネルギーをかなり使ってしまっているはずです。さすがに1回の波動でそこまでの上昇は難しいのではないかとは思います。
正直に申し上げて、株価がどこまで上昇するかを予測しても当たりません。それよりも、上記で説明した過熱感を表す各種指標に注意して、過熱感が高まったら少なくとも新規買いは控えたり多少の利食い売りをするなどの用心をしておくべきでしょう。
注.本コラムの内容はあくまでも筆者の予想です。投資判断は自己責任のもとでお願いします。筆者も上記の予想をもとに投資行動を行っていますが、株価トレンドの変化など、描いているシナリオと異なる動きが生じた場合などには保有株を減らするなど臨機応変に対応していきます。