執筆:香川睦

  • 日米市場は決算発表シーズン入り。業績を巡るニュースに株価が揺れる神経質な動きが想定される。ただ、「フォーワードルッキング」の視野で眺めると景色も変わってくる。
  • 国内市場では、東証17業種別のボトムラインをベースに増減益見通しやバリュエーションを比較。エネルギー・素材、円安メリット、インフラ関連業種の高い増益率予想に注目。
  • 米国と中国の製造業・非製造業(サービス業)のPMIどれもが50超に。来年は主要先進国が財政出動を積極化へ。設備投資の拡大を含め、業績見通しにプラス要因に。

(1)米国の業績は底入れを鮮明にするか

日米の株式市場はともに「決算発表シーズン」入りし、決算や業績見通しを巡る不安感が株価の重石となるケースもみられます。米国市場では、S&P500指数ベースの2016年7-9月期のEPS(1株当り利益)は前年同期比で小幅減益(-1.6%)が見込まれています。

ただ、「フォーワードルッキング(Forward Looking:見通し重視)」の視野に立つと、四半期別増減益率は徐々に上向き、10-12月期は6%台の増益に転じる見通し。来年の1-3月期や4-6月期は、原油市況の回復を映すエネルギー業種の業績改善が全体の回復をリードしそう。年間では、2016年は微減益(前年比-0.2%)となりそうだが、2017年は13.5%増益と二桁増益に転じ、予想PERは現在の18倍台から16倍台に低下する見込み。株式には「過去の実績より将来の変化見通しを意識する」との特性があることに注目したいと思います。

図表1:米国市場の四半期別業績見通し

(注)S&P500指数ベースのEPS予想平均(Bloomberg集計)をもとにした前年同期比増減益率を示した。
(出所)Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2016年10月12日)

(2)日本市場の業績は底堅く推移するのか

一方、国内市場の業績見通しについて、セクター(業種)別に概観してみましょう(図表2)。国内では「経常利益」や「純利益(総額)」の伸びで増減益率を取り上げる事例が多いですが、米国市場を中心としたグローバルスタンダード(国際標準)では、「ボトムライン(Bottom-line)」と呼ばれるEPS(1株当り利益)の伸び率が注目されています(上記した米国の業績動向を参照)。こうしたボトムライン見通しをベースにすると、TOPIXは2015年の業績低迷(3.1%増益)を経て、16年は7.7%の増益、18年は7.8%の増益が見込まれています(Bloomberg集計による市場予想平均)。16年の予想PERは約13.9倍、17年の予想PERは約12.9倍、PBR(株価純資産倍率)は1.19倍と依然割安感が強く、債券市場利回りと比較した配当利回り(2.1%)面からの魅力も否めません。10月以降の市場が「来年の業績見通しを織り込んでいく」と想定し、2017年の予想増益率が高い順で業種を並べると、1位は「鉄鋼・非鉄」(43.6%増益)、2位が「エネルギー資源」(22.2%増益)、3位が「電気・精密」(19%増益)、4位が「小売」(17.9%増益)、5位が「自動車・輸送機器」(14.5%増益)、6位が「機械」(13.1%増益)、7位が「素材・化学」(9.7%増益)、8位が「商社・卸売」(7.7%増益)などが上位にあり、これら業種指数の7月来(16年下期)騰落率は「小売」を除いて市場平均(TOPIX)を上回ってきました。原油相場や素材市況の戻り、ドル円の底入れ、世界的な景気対策(インフラ整備を主目的とする財政出動)の効果などを織り込みはじめた可能性があり注目したいと思います。

図表2:日本市場の業種別業績見通し

(注)増減益率やPERは、Bloombergが集計した各指数ベースの市場予想EPSの前年比増減益率を示す。
(出所)Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2016年10月12日時点)

(3)米国と中国の企業景況感改善に注目

国内株式市場にとり重要な外部環境要因である米・中の業況感に注目したいと思います。10月入りして発表された米国と中国それぞれのPMI(購買担当者指数)は、製造業指数も非製造業(サービス業)指数も「景況感の分岐点」とされる50を上回りました。特に、今年前半に50割れして低調だった米国と中国の製造業PMIが50超となってきたことは、底堅さを維持してきた非製造業(サービス業)PMIと合わせ、世界のGDP第一位を誇る米国と第二位の中国の業況感が同時に改善していることを示しています。中国は、低迷する民間投資を補う政府支出(インフラ関連を中心とする財政出動)拡大の効果が表れてきた印象があります。例えば、小松製作所はGPSを活用した自社製建設機械の稼働状況をリモート調査(KOMTRAX)しており、中国では8月も9月も前年同月比二桁の伸びだったことを公表しています。地方や金融機関の不良債権や重厚長大部門の供給過剰など構造問題が解決されない状況で楽観は禁物ですが、中国の経済的破綻を悲観する見方はやや後退しているようです。7月以降、日経中国関連株指数のパフォーマンスは市場平均(TOPIX)を上回っています。今年前半まで株価の下押し要因だった「チャイナリスク」の緩和は、日本の外需だけでなくグローバルグロース(世界の経済成長)全体の下支え要因になると考えられます。

図表3:米国と中国の企業景況感(製造業と非製造業)

(注)PMI=購買担当者指数(景況感の分岐点を50として縮小と拡大を示す)。
(出所)Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2015年1月~2016年9月)