執筆:香川睦
9月1日の日経平均は前日比39円高の16,926円と小幅ながら続伸しました。市場参加者の注目度が高い米雇用統計発表(8月分/米国時間で2日朝発表)を控えた見送り感が強く、為替も株式も狭いレンジでの小動きとなりました。こうしたなか、米国市場ではドル金利の上昇観測が根強く、米金融株の堅調を受けた銀行株、円安傾向を好感しやすい輸出関連株など大型割安株の底堅さが目立っています。
2日の日本時間5:30時点で、ドル円は103.21円、CME日経平均先物(9月限)は16,945円で推移しています。
(1)米追加利上げを織り込みはじめた為替市場
先週のジャクソンホール会議でのイエレンFRB(米連邦準備理事会)議長発言やその他の高官による発言で、米国市場では早期利上げ観測が台頭しています。今晩発表される米雇用統計の結果次第で、「早ければ9月20-21日に開催されるFOMC(米連邦公開市場委員会)で、遅くとも12月13-14日のFOMCで追加利上げが決定される」との確率(FF金利先物市場で計算されている)が約6割まで上昇し、日米金利差拡大観測で円高が一巡する兆候がみてとれます(図表1)。とは言うものの、利上げ観測の割にはドル円の戻りが鈍いようにもみえる(市場が追加利上げにいまだ疑心暗鬼?)である分、日米金利差がさらに拡大する動きとなるなら、ドル円の反発余地が一段と拡大する可能性がありそうです。
図表1:米国の年内利上げ観測とドル円相場(2016年初来)
(2)鮮明化する国内株式のセクター別物色シフト
こうしたなか、最近の国内市場ではセクター(業種)物色のシフトが鮮明となっています。「東証17業種別指数」の7月初来パフォーマンスで検証すると、「グロースからバリューへ」、「小型株から大型株へ」とのシフト(変化)がみられるなか、セクター別には「内需重視から外需重視へ」との変化がみられます。換言すると、今年上期(1-6月期)における物色と逆の展開と言えます(図表2)。7月以来で市場平均(TOPIX)より優勢であるセクターには、割安感や出遅れ感が際立っていたメガバンクなどの銀行・金融、ドル円の反発が業績見通し改善に繋がりやすい自動車(輸送機器)、鉄鋼・非鉄、機械、電気・精密、素材が挙げられます。これらセクターには、比較的時価総額が大きい(指数構成比率が大きい)銘柄が多く含まれ、日銀によるETF買入枠拡大に伴う需給改善期待も支援材料になっていると思われます。
逆に、今年前半に堅調であった中小型、内需系(小売、不動産、情報通信)、安定成長セクター(医薬品、食品などのディフェンシブ)では投資成果が得られにくい需給環境となっているに点には注意が必要と考えています。
図表2:東証17業種の物色動向とバリュエーション
(3)米雇用統計発表を受けた追加利上げ観測に注目
米国のみならず世界市場が注目する米雇用統計(8月分)が今晩発表されます(米国時間で2日の午前8:30)。雇用情勢の改善やインフレ基調を、非農業部門雇用者増減数、失業率、時間当り賃金の上昇率などで確認することとなります。参考までに、市場のコンセンサス(エコノミスト予想平均)は、非農業部門雇用者増減数が18万人、失業率は4.8%、時間当り賃金の上昇率は前年同月比2.5%増となっています(9月1日時点)。これらの発表値が景況感の改善やインフレ率上昇を印象付ける結果となれば、複数のFRB高官が最近示唆してきた「追加利上げの条件は整ってきた」との見方を裏付け、ドル金利が一段と上昇する可能性があります。早ければ9月20-21日に開催が予定されているFOMC(米連邦公開市場委員会)で、もしくは年内(11月1-2日か12月13-14日の)FOMCでの利上げが現実的となってくるからです。この場合、為替市場では日米金利差拡大観測で、ドル高(円安)が進む可能性が高いと考えられます。逆に、雇用統計の結果が市場予想より弱かった場合、足元で利上げを巡る思惑が先行していた分、米債利回りが低下してドルも反落する(円が反発する)リスクがありますので留意が必要です。
図表3:米雇用統計の推移(雇用者増減数と賃金上昇率)
(4)結論(注目点)-米雇用統計発表でドル円の底入れ感が強まるか
今晩発表される米雇用統計(8月分)の結果と米国株式や為替相場の反応は、週明けの国内株式の方向性やセクター(業種)物色に影響を与えると見込まれます。米雇用統計の内容が「米国景気の堅調」を印象付ける結果となれば、日米金利差拡大を背景としたドル円の上昇を介し、円安期待を受けた自動車などグローバル銘柄を含む大型割安株の優勢が続いていくと見込まれます。また、(20-21日に開催される日銀金融政策決定会合の結果にもよりますが)、ドル金利上昇が日本の長期金利に影響を与えてきた経緯もあり、日米の長短金利差拡大(利ざや拡大)をメガバンクなど銀行株があらためて好感する可能性にも注目したいと思います。米雇用統計発表が、7月以降鮮明となっているセクター別物色トレンドを支援する動きとなるか否かを注視したいと考えます。