執筆:香川睦

23日の日経平均は反発し、前日比172円高の16,238円となりました。EU(欧州連合)残留を問う英国民投票を今晩に控え、各世論調査が引き続き「大接戦」と伝えられるなか、見送り気分の強い展開となりました。

24日の日本時間6時30分現在、為替は1ドル106.47円、CME日経平均先物(9月限)は16,495円となっています。市場が注目するスカイニューズの委託でYouGovが実施した英国民投票の調査では、「EU残留は52%、EU離脱は48%」と報道されており、残留を織り込む動きが出ています。

(1)英国民投票は「EU残留支持」優勢か

今週前半の日経平均は、英国のEU(欧州連合)離脱リスクを巡る過度の警戒感が後退し、円高の勢いが鈍ったことなどで、16,000円台を回復する動きとなりました。ただ、買い戻し一巡後は、投票結果の行方を見極めたい-との見送り気分が広まり、売買代金が低調となるなか、株式市場全体の上値が抑えられる展開となっています。

ご参考までに、「選挙結果を占う上で世論調査より参考となる」とされている、ブックメーカー(賭け業者)各社の平均予想確率によると、EU残留派の下院議員が襲撃された16日以降は、「EU残留予想」が約8割まで勢いを取り戻してきました(図表1)。

図表1:ブックメーカーによる国民投票結果の平均予想確率

(出所)Bloombergのデータ(Oddschecker Average)より楽天証券研究所作成(6月22日時点)

(2)リスクオフ後退で欧州市場中心に買い戻し

世界市場を揺さぶってきたBREXIT(英国のEU離脱)リスクを巡る警戒感が後退したことで、先週まで下落していた英国ポンドやユーロは反発。特に英国ポンド相場)は1ポンド当り約1.48ドルと年初来高値を突破しました(22日時点)。通貨オプション市場でのインプライドボラティリティをベースに計算されている「EU残留予想」も約80%となっており、英国ポンドの買い戻しを後押ししました。

同様に、日米欧の株式オプション市場で計算されている「恐怖指数」も足元はピークアウトの兆しをみせており、投資家のリスク許容度が改善する余地がありそうです(図表2)。本日の国民投票が「EU残留」と出れば、市場に安心感が広まると考えられます。逆に、万が一「EU離脱」と出れば、欧州の通貨や株式に反動売りが嵩み、市場は一転して「濃霧」に覆われ、先行きが「視界不良」に陥るリスクがあります。

図表2:先進国株式と日米欧市場の「恐怖指数」

(注)恐怖指数=各国株式オプション市場におけるインプライドボラティリティ(変動率)指数
(出所)Bloombergのデータより楽天証券研究所作成(6月22日時点)

国民投票が「EU残留」となれば、上記した日米欧市場の「恐怖指数」が低下することが見込まれ、暗雲が遮ってきた投資家の視界(Visibility)が開けてくることが考えられます。一時の下落を埋め戻してきたとは言え、過度の悲観と様子見(見送り)で低調を余儀なくされた世界株式が堅調を取り戻せば、リスクオフ(回避)による円高・株安の動きに巻き戻しがみられる可能性があり期待したいと思います。

(3)見直される可能性が高い日本株の割安感

米金融・証券紙のバロンズ(Barrons’)は今週号(6月20日号)で、「Foreign stocks could rally if the U.K. remains in EU」(英国国民がEU残留を決めれば、外国株式が急騰するだろう)と想定。バリュエーションで割安感のある欧州株や日本株を中心に株式が債券のリターンを上回っていくだろう、との見方を掲載していました。上述のように、不透明感や不確実性が強い(恐怖指数が上昇していた)局面では視界に入りにくい「出遅れ感」や「割安感(予想PERや予想PBRの低さ)」が、BREXITリスクの後退が契機となって見直される可能性を指摘しています。

そこで、世界の機関投資家が運用ベンチマークとして使用することが多いMSCI指数をベースに、主要(先進国)株式市場の出遅れ感(年初来騰落率)と割安感(予想PER、PBR、配当利回り)を比較して一覧にしてみました(図表3)。

図表3:世界株式のバリュエーション比較

国名
(市場名)
通貨 年初来騰落率 予想PER
(倍)
予想PBR
(倍)
予想配当
利回り
10年国債
利回り
利回り
スプレッド
日本株式 -17.5% 12.97 1.06 2.48% -0.13% 2.61%
ドイツ株式 ユーロ -8.6% 13.04 1.49 3.20% 0.06% 3.14%
フランス株式 ユーロ -5.2% 14.92 1.39 3.69% 0.42% 3.27%
豪州株式 豪ドル -1.4% 17.21 1.79 4.52% 1.70% 2.81%
英国株式 ポンド 0.2% 17.10 1.76 4.16% 1.31% 2.85%
米国株式 ドル 1.8% 18.11 2.69 2.17% 1.70% 0.47%
カナダ株式 加ドル 6.2% 18.24 1.76 2.98% 1.70% 1.28%

(注1)各国MSCI指数に基づく比較。予想値はBloomberg集計による市場予想平均。
(注2)利回りスプレッド(差)=予想配当利回り-10年国債利回り
(出所)Bloombergのデータより楽天証券研究所作成(6月22日時点)

日本株式は、外部環境の不透明感や円高進行の影響が色濃く、年初来の株価騰落率は-17.5%と最も低迷してきたことがわかります。株価下落で、予想PER(株価収益率)は13倍割れ、予想PBR(株価純資産倍率)は1.06倍と、他市場と比較して割安感が鮮明になっていいます。予想配当利回りと国内長期金利(10年国債利回り)とのイールドスプレッド(利回り差)は、配当利回りの上昇(株価の下落)と債券利回りの低下(マイナス圏)で拡大しています。英国民投票の結果が「EU残留」と出て、世界市場におけるBREXIT懸念が後退するなら、出遅れ感と割安感を鮮明にしている日本株式の戻りが下支えられる可能性があると考えています。

<結論>BREXITリスク乗り越えても為替の動きを注視

英国民投票の開票結果の大勢判明は、現地時間の午前3時半(日本時間で24日午前11時半)ごろと報道されています。メインシナリオとして、投票結果が「EU残留」と出れば、欧州市場を中心に安心感が広まりそうです。この場合、リスクオフ(回避)姿勢を反映した円買い圧力は後退し、出遅れ感と割安感(図表3)を見直す動きで日本株式には下値を切り上げる展開が期待できそうです。

ただし、投票結果が「EU残留」と出ても、その差が僅差(例:2-3%)に留まるなら、内外にシコリを残すことも予想されます。逆に、「EU残留」が大差(例:5-10%の差)で決まれば、市場の安心感は増すものと考えられます。

一方、投票結果が「EU離脱」と出れば、ネガティブ・サプライズと受け止められ、為替や株式への影響は甚大となりそうです。こうした場合、日米欧の政府・金融当局が市場への流動性供給や為替介入で協調することが合意されているようですが、油断は禁物でしょう。

なお、26日に予定されているスペイン総選挙の行方に影響を与える(反EU派が勢いを増す)可能性を含め、「離脱ドミノ」懸念としてEUの政治情勢を混迷に追い込む可能性も考えられます。投資家としては、「EU残留派のすっきりした勝利」を期待したいところですが、現時点で投票結果や市場の反応を正確に言い当てることは困難です。

ただ筆者は、今回のBREXIT騒動が、結局は「幽霊の正体見たり枯れ尾花」(江戸時代の俳人、横井也有の句)に象徴される「過度の不安や恐怖心」に終わると期待しています。

BREXITリスクを無事に乗り越えたとしても、為替で円高傾向が維持されれば日経平均の上値が抑えられる可能性に注意が必要です。市場の関心は、為替動向に影響が大きい日米の金融政策見通しにあらためて向かうと考えられます。当面は、①いったん後退したFRB(米連邦準備制度理事会)による追加利上げ観測が、7月8日に発表が予定されている6月の雇用統計発表で持ち直すか、②6月に金融政策の変更を見送った日銀が、7月の金融政策決定会合(7月28日-29日)に追加緩和を決定するか、などが注目されそうです。引き続き、為替動向を含めた外部環境の変化を注視する必要があると考えています。