執筆:香川睦
16日の日経平均は大幅反落し、前日比485円安の15434円となりました。英国での国民投票を23日に控え、EU(欧州連合)離脱を巡る懸念でリスクオフ(回避)姿勢が強まるなか、日銀による「ゼロ回答」(金融政策決定会合で政策の据え置きが発表されました)を受けた失望売りも重なり、ドル円相場が急落(円が急伸)したことで株式売りが加速しました。
17日の日本時間5時30分現在、為替は1ドル104.32円、CME日経平均先物(9月限)は15565円となっています。
(1)世界株安と円高加速が日経平均急落の要因
今週の日経平均は、前週末比で1167円下落する展開となっています(16日時点)。米国でのテロ事件、英国のEU離脱(BREXIT)を警戒したリスクオフ(回避)姿勢の強まり、原油相場反落などで欧米株式が軟調となり、安全通貨とされる円を買う動きが強まった(円高・ドル安が進行した)ことが日経平均を押し下げました(図表1)。週初に発表された中国の経済指標が市場予想を下回ったことや、人民元の下落も市場の不安心理を煽りました。
さらに16日は、一部で期待されていた日銀の追加緩和が見送られたことを受けた失望売りが重なり、日経平均は下値を切り下げる展開となりました。
図表1:日経平均、海外株式、ドル円
(2)欧州市場でBREXITを警戒する暗雲が広まる
株式市場の不安定要因は来週も引き継がれる見込みです。特に23日は、EU離脱の是非を問う英国民投票が実施されます。最近実施された世論調査によると、「離脱支持」がやや優勢となっており、予断を許さない情勢となっています。ブルームバーグが調査している世論調査集計によると、残留派が約46%、離脱派が約42%となっており、未決定(わからない)が約12%となっています。
為替市場では、BREXITを警戒する弱気が、英国通貨ポンドだけでなく(英国が離脱した場合に悪影響が波及する)EUの通貨ユーロも軟調にしています。先行き不安によるリスクオフ(回避)の円高もあり、英ポンドの対円相場は年初来で約17%下落しました(図表2)。
EU離脱が現実となれば、英国の貿易面における対EUの非関税メリットや、国際金融界でのロンドン(シティ)の優位性が失われると言われています。英国政府、中央銀行、国際機関(IMFやOECD)、市場関係者(投資銀行など)は、EUを離脱した場合の「景気後退入り(失業率上昇)」などのデメリットを主張しています。一方、「EU離脱支持派」は、移民流入による雇用悪化、EUの官僚主義、英国のEU向け財政負担増加を巡る不満を前面にキャンペーンを繰り広げています。BREXITを巡る不安を募らせた投資家が、英国市場や欧州市場の持ち高を減らす動きに出ています。
図表2:英ポンドとユーロの対円相場及び英世論調査の動向
(3)どうなる?BREXIT-投票結果別のマーケット展望
最近市場で注目されている指標に、英国民投票の結果を巡るブックメーカー(賭け業者)が算出している「予想確率」があります。世論調査での「EU離脱支持」優勢が警戒されるなか、英国最大手のブックメーカー(William Hill)の「EU残留確率」は約69%と、依然として「EU離脱予想」の約36%を上回っており、ブックメーカー平均(Oddschecker)でも、「EU残留確率」が「離脱確率」を上回っています(図表3)。
その他、FXオプション市場におけるインプライド・ボラティイリティ(変動率)をもとに計算される予想確率によっても、残留予想が離脱予想を7対3と大きく凌いでいます(ただし、5月下旬時点の8対3からは低下)。こうした背景には、「過去の事例を振り返ると、投票の最終段階では『現状維持への傾斜』が見られた。心を決めていない有権者(未決定=浮動票)にはこの傾向が顕著だった」(6月15日のBloomberg記事)との冷静な判断があるようです。
実際、2014年に行われたスコットランド独立を問う住民投票、2015年の英国総選挙では、事前の世論調査よりブックマーカーの予想が正しかったことが知られています。
図表3:ブックメーカーなどによる国民投票結果の予想確率
各種投票結果予想(予想確率)
上記ブックメーカーの予想確率を参考にして、23日に実施される英国国民投票の結果が「EU残留」と出るケースを「メインシナリオ」(予想確率6割)と想定し、「EU離脱」と出る場合を「リスクシナリオ」(予想確率4割)と想定。それぞれの結果に応じた市場(英国ポンドとユーロの対円相場、英国株式、ユーロ圏株式、ドル円相場、日経平均)の反応を予想し、一覧にまとめました(図表4)。
図表4:国民投票の結果別マーケット展望
欧州市場の為替・株式動向とBREXITのシナリオ別市場見通し <シナリオ別の「戻り目途」と「下落目途」>
シナリオとして、(1)各市場の下落で、「英国のEU離脱」は相当程度織り込まれてきたとみられるが、投票結果が「EU離脱」と出れば、失望売りや追撃売りが出る可能性がある(下落の目途は52週安値からさらに5%程度下落か?)、(2)ただ、実際にEUを離脱するには最短2年程度かかるとされており、英国とEU間の再交渉(優遇関税を含む貿易協定)の行方を見極める動きに転じる可能性もある、と考えます。従って、EU離脱の審判が下された後の売り一巡後は、「悪材料出尽くし」で市場はもみあいに転じる可能性もありそうです。英国政府、BOE(英中央銀行)、EU、ECB(欧州中央銀行)が、国民投票前後の波乱に備え、流動性の供給や協調介入を示唆し始めたことも市場の支えとなりそうです。
一方、投票結果が「EU残留」と出れば、欧州市場を取り巻いてきた過度の悲観はいったん後退すると見込まれます。売りが続いていた英ポンドやユーロに買い戻しが先行するでしょう(戻りの目途として50日移動平均線を参照)。図表4には、「EU残留」を受けたドル円や日経平均の反応(リバウンド)見通しも記載しました。BREXITだけが日本株式の材料ではありませんが、投票結果が「EU残留」と出れば、リスクオフ(回避)姿勢はいったん後退。ドル円は108円程度、日経平均は1万6000円台後半まで買い戻される展開が見込まれます。
英国国民投票の結果や市場の反応を正確に言い当てることは困難ですが、BREXITはリスクではあっても「世界経済の終焉」を決定するものではありません。投票結果ごとの市場動向を想定しながら、冷静な姿勢で臨むことが大切だと考えています。