トランプはPost Truth、悩むFX投資家

トランプは、Post Truthである。Post Truthとは、「個人の信念をエモーショナルに訴えることの方が客観的な事実関係よりも世論形成には影響力を持つ社会現象」を指す。とにかく、トランプの言っていることはスケールが大きい!期待感があるうちは、まだ株も上がるだろう。しかし、保護主義で米国経済、しいては世界経済が浮上することはないだろう。

トランプの政策については、TVのニュースやワイドショー、新聞、ネットなどで飽きるほど報道されているので、ここでは取り上げない。皆さんがご存知の通りである。問題はマーケットがそれをどう消化しているかである。ブローカーによると、「投機筋はトランプネタで順張りのポジションを取るのだけれど、結局、上がりきらず、下がりきらずの結果となり、投げと踏み(損切り)の応酬となっている」のだという。

トランプの政策はドル高要因だが、強すぎるドルは不公平だということで、トランプはドル安を望むという口先牽制に出ている。こうした、矛盾したことを平気で言うトランプは、まさにPost Truthである。いずれにせよ、ファンダメンタルズ的なドル高要因と、トランプの「不公平なドル安」という不条理なドル高牽制で、マーケットは方向性を失ってしまったようだ。日本の個人投資家も相場の方向性に悩んでおり、QUICKでデータでは<FXの建玉状況>は統計でさかのぼれる2012年12月以来で最も少なくなっている。

さらに、厄介なのは日本の当局のPKO(価格維持操作)である。日本株は日銀のETF買いが入ってくるし、ドル/円も公的な資金のドル買いが下落局面では観測されている。トランプは、1月31日、製薬メーカーの経営トップを集めた会合で「中国が何をしているか、そして日本が何年も何をしてきたか見てみろ。彼らは為替を操作して通貨安に誘導している」と述べ、日本を名指しして批判した。製薬会社の会合で為替についての発言が出ると思っていなかったマーケットは不意を突かれた格好で一斉に円買いに動いたが、下値では年金と噂されるドル買いが入り、マーケットは “往って来い”の展開になってしまっている。

マーケットは投げと踏み(損切り)の応酬

下のチャートは円相場の日足と5日移動平均線である。現在、5日移動平均線を挟んだ日替わり相場となっており、順張りで売り買いすると、「売ってやられ・買ってやられ」という損失だけの結果となりやすい。要するに、ファンダメンタルズに逆行するトランプ発言で中途半端な相場になってしまっているのだ。市場は円安予測と円高予測が混在しており、マーケットは投げと踏み(損切り)の応酬で市場は消耗戦となっている。

ドル/円(日足) 5日移動平均線と短期売買のシグナル

(出所:石原順)

ユーロ/円(日足) 5日移動平均線と短期売買のシグナル

(出所:石原順)

豪ドル/円(日足) 5日移動平均線と短期売買のシグナル

(出所:石原順)

ポンド/円(日足) 5日移動平均線と短期売買のシグナル

(出所:石原順)

現在の日足相場はむずかしい

現在の相場のトレンドを観察してみよう。トレンドの有無を判定するという相場認識のテクニカル・ツール(道具)で最も優れているのは、「標準偏差ボラティリティ」と「ADX」という指標である。

相場に方向性が出てくると、標準偏差ボラティリティは上昇する。標準偏差ボラティリティとADXが低い位置から一緒に上昇する場合は、相場が保ち合いを離れ、強い方向性をもつシグナルとなる。しかし、現在の相場は標準偏差ボラティリティとADXがまちまちの動きになっており、相場に強いトレンド(方向性)は見当たらない。ストキャスティクスなどの逆張り指標も機能(ワーク)していない状態だ。

ドル/円(日足)
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

ユーロ/ドル(日足)
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

ドル/円(日足)のフィルター付き逆張り売買シグナル
上段:200日EMA(緑)・52日ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

ユーロ/ドル(日足)のフィルター付き逆張り売買シグナル
上段:200日EMA(緑)・52日ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

日替わりメニューのトランプ相場対処法は取引時間枠の短期化しかない

筆者は3週間前からファンド仲間や投資家に短期取引を推奨し、ブログやラジオでも1時間足以下の時間枠での取引を推奨してきた。トランプ発言で猫の目のようにコロコロ展開が変わる相場なので、日足ベースのポジションは乱高下相場に巻き込まれると、「売ってやられ・買ってやられ」という結果になりやすいからだ。

下のチャートはドル/円とユーロ/ドルの1時間足チャートである。日足にトレンドがないので、1時間足の取引でも無理はしていない。現在は、標準偏差ボラティリティとADXが低い位置から一緒に上昇している局面だけ、相場に参入するようにしている。

ドル/円(1時間足)
上段:ボリンジャーバンド(21)・1シグマ(青)
中段:標準偏差ボラティリティ(26)
下段:修正平均ADX(14)

(出所:MT4)

ユーロ/ドル(1時間足)
上段:ボリンジャーバンド(21)・1シグマ(青)
中段:標準偏差ボラティリティ(26)
下段:修正平均ADX(14)

(出所:MT4)

相場にトレンドがない時の“飛び道具”が転換点売買

相場にトレンドがない時の“飛び道具”が転換点売買だ。失敗に終わることも多いが、ドル/円とユーロ/ドルも概ね相場の転換点を示唆してくれており、悪くない結果が出ている。

* 転換点売買: <修正平均ADX(パラメータ3)>がピークに達した次のローソク足の方向についていくだけの短期売買手法である。ストップ注文を置いて参入、直ちに利食いをおこなう場合もあるし、利が乗ってきたらトレール注文的な決済、あるいは過去X日間の高値・安値のブレイクで決済をおこなうこともある。いずれにせよ、損切り注文を入れることは必須である。

ドル/円(1時間足) 転換点売買のシグナル(買い=赤・売り=青)
上段:13時間エンベロープ±0.3%(青)・±0.6%(赤)
下段:3時間修正平均ADX(青)

(出所:MT4)

ユーロ/ドル(1時間足) 転換点売買のシグナル(買い=赤・売り=青)
上段:13時間エンベロープ±0.3%(青)・±0.6%(赤)
下段:3時間修正平均ADX(青)

(出所:MT4)

株式相場でもトランプへの不安が台頭

オバマは世界の警察官をやめると宣言したが、トランプは米国を覇権的な帝国から普通の国にもどそうとしている。それが、アメリカファーストということだろう。そうした方針に基づき、自由貿易圏からの離脱、関税引き上げ、通貨安による輸出産業強化、本国投資法や米企業の母国回帰指導を行っている。

こうした経済面での政策はいまのところさほど嫌気されていない。メキシコやカナダや日本や中国の製造の利益を米国に移転させるトランプの政策は、何年間か米国景気を浮揚させる可能性が高いからだ。

しかし、さすがに米国への入国制限に対しては世界的に不安が拡がっているようだ。年初来のドルの調整(ドル安)はまだ続いているが、直近は株式相場でもトランプへの不安から、アメリカ売りという雰囲気が漂いつつある。

NYダウも日経平均も明確なトレンドのない調整相場が続いている。オプションの売りは壊滅的な損失を被る可能性があるため、個人投資家には奨めないが、一部のファンド勢は下のチャートの水色の部分(標準偏差が天井を打って下落中の局面)では、ある一定の相場がレンジの中におさまっていれば儲かるショートストラングルというポジションを構築し収益を上げたという。今の相場は調整相場、次のトレンド待ちということだ。

NYダウ(日足)
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(緑)

(出所:石原順)

日経平均(日足)
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(緑)

(出所:石原順)

我々は大きな時代の転換期の中にいるのかもしれない

ジョージ・オーウェルの「1984年」がベストセラーになっている。1949年に出版された本が、2017年になってAmazonの書籍ベストセラーで1位になっているという。トランプ新大統領の顧問であるケリーアン・コンウェイがインタビューで「Alternative Facts(代替の事実)」というフレーズを使ったのだが、この言葉が「1984年」を連想させるフレーズだったことから注目を浴びているようだ。我々は大きな時代の転換期の中にいるのかもしれない・・。

『では、先ほどの問題の答えを教えてやろう。つまりこうだ。我が党が権力を求めるのは、まさにそれが目的であるからだ。他人の幸福など関係ない。関係あるのは権力のみ、純然たる権力のみだ。では、純然たる権力とは何か。いまから教えてやろう。我々が過去の少数独裁と違うのは、自分たちが何をしているのか理解しているところにある。我々と似ているものもあるが、結局は臆病で偽善的だった。例えば、ナチスドイツもロシア共産党も方法論的には我々と非常に似通っている。だが、奴らには自分たちの動機を自覚するだけの勇気がなかった。自分たちが不本意かつ暫定的に権力を握ったふりをしたのだ。しかも、人々が自由かつ平等に暮らす楽園がすぐそこにあると装った。あるいは、本当にそう信じていたのかもしれない。しかし、我々は違う。権力を手放す気がある者に権力をつかめたためしはない。権力は手段ではない。目的なのだ。革命を守るために独裁を確立するのではない。独裁を確立するために革命を起こすのだ。迫害するために迫害をする。拷問するために拷問をする。権力をふるうために権力をつかむのだ。な、だんだん分かってきただろ』(ジョージ・オーウェルの「1984年」より抜粋)

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日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。