「みなし取得費の特例」とは?

毎年のように目まぐるしく変わり、複雑怪奇な証券税制ですが、ある特例が本年限りで終了します。それは「みなし取得費の特例」と呼ばれるものです。
この特例は、平成15年より株式の売却益の課税方式が申告分離課税に一本化されるのに伴い設けられたもので、平成13年9月30日以前に取得した上場株式等を平成15年から平成22年の間に売却する際、平成13年10月1日の終値の80%を取得費とみなして売却損益を計算することができるというものです。

みなし取得費はどのように求めるか?

平成13年10月1日の株価の終値は国税庁や東京証券取引所などのホームページに掲載されています。ただし、平成13年10月1日以降、合併・株式交換、株式分割・併合などがあった銘柄の場合は調整が必要となり、平成13年10月1日の終値の80%をそのまま用いることはできませんので注意してください。また、持ち株会社化などにより会社名や証券コードが当時と現在とで変更となっている銘柄も多くあります。
例えばあさひ銀行株式を平成13年9月30日以前から保有している場合のケースは次のようになります。
平成13年12月にあさひ銀行(8322)株式は経営統合によりりそなホールディングス(8308)株式になり、あさひ銀行株1株につきりそな株1株が割り当てられました。その後りそなホールディングスは平成17年8月に1000株を1株にする株式併合を行い、さらに平成21年1月に1株を100株にする株式分割を行っています。
平成13年10月1日のあさひ銀行株の終値は135円でしたので、みなし取得費は135×1000÷100×80%=1,080円となります。
筆者もいくつか調べてみましたが、銘柄によってはみなし取得費を算出するのに非常に困難を極めるものもあります。詳しくは、証券会社に問い合わせるなどしてください。

相続や贈与により取得した株式でも利用可能

相続、贈与等により株式等を取得した場合には、被相続人や贈与者の取得日および取得価額を引き継ぎます。そのため、相続や贈与により取得した上場株式等で、被相続人や贈与者の取得日が平成13年9月30日以前のものは、みなし取得費の特例を適用することができます。
例えば平成5年に被相続人が取得した株式を平成20年に相続したような場合、当該株式を相続した相続人はみなし取得費の特例を使うことができます。

実際の取得費が分かっていても利用できる

みなし取得費は、実際の取得費が分かっていても利用することができます。したがって、実際の取得費よりみなし取得費の方が高いような場合は、みなし取得費を用いて売却損益を計算すれば、税金を少なくすることができます。実際の取得費で計算すると売却益になるところ、みなし取得費を使えば売却損が生じることもあります。この場合は売却損を3年間繰り越すことで、翌年以降の売却益と相殺することも可能です。
たとえば、ファーストリテイリングの平成13年10月1日の終値は13,300円、みなし取得費は80%を乗じた10,640円です。平成14年に1対2の株式分割をしたので、現時点でのみなし取得費は13,300÷2×80%=5,320円です。平成11年に1000円(株式分割考慮後)で取得したファーストリテイリング株式100株を平成22年12月3日の終値12,990円で売却すれば売却益は(12,990-1,000)×100=119万9千円となります。しかし、みなし取得費を使用すると売却益は(12,990-5,320)×100=76万7千円となり、実際の取得費で計算した場合より43万2千円売却益を少なくすることができるのです。

特定口座での売却は特例の適用対象外

なお、みなし取得費の特例は、一般口座にて保有している株式を売却した場合や、タンス株として自身で保管している株式(注.現在は株券の電子化によりタンス株券自体は無効となり、信託銀行等が開設する特別口座にて保管されています)を一般口座で売却したなどの場合に利用できます。特例の対象となる要件をみたす株式が特定口座にある場合は、一般口座に移してから売却する必要があります。特定口座にて売却した場合はみなし取得費の特例の適用対象外となりますので注意してください。

実際の取得費が不明な株式は本年中の売却も一策か

来年(平成23年)以降は、みなし取得費の特例は使えなくなります。そのため、昔から保有していたり、相続により取得した株式で実際の取得時期や取得費が不明なものについては、売却の際、売却価格の5%を取得費として売却益を計算しなければならなくなる可能性があります。そうなるとかなりの額の売却益が生じてしまうことも考えられます。
もし何十年も前から保有する株式があって、実際の取得時期や取得費がどうしても分からないものがあれば、今年中にみなし取得費の特例を使って売却することも検討すべきでしょう。

本コラム中の税制に関する記載は、一般的なケースを想定したものです。本コラムの記載内容と税金面の取り扱いが異なる場合もありますのでご注意ください。不明な点は税務署、税理士等にご相談することをお勧めします。

一般口座でのみなし取得費の特例

  • 平成22年末までの譲渡が対象となる期間限定措置。
  • 平成13年9月30日までに取得した上場株式等を上記期間に譲渡した場合の取得費の額を、納税者の選択により 平成13年10月1日における終値の80%とすることが可能です。