日本株全体の動きを必ずしも示さない日経平均株価
今年の8月から10月までは、日経平均株価はおおむね10,000円を超えた水準で高止まりした動きでした。
しかしながら、多くの個人投資家の実感としては、「自分の持ち株は全然上昇しない」というものではないでしょうか。体感的には日経平均株価8,000円レベルといっても過言ではありません。
なぜ日経平均株価は堅調なのに自分の持ち株は上昇しない、あるいは下げ続けてしまうのでしょうか? それは、日経平均株価へ大きな影響を与える銘柄をはじめ一部の銘柄のみが強い値動きを続けていたからです。
日経平均株価は、急騰、急落時にはニュースや新聞でも大きく取り上げられるなど、個人投資家だけでなく多くの人々が注目しています。一般的(特に株式投資をしていない人にとって)には、「日経平均株価の値動きが日本株全体の値動きを表している」と誤解されがちです。
株式投資をしていない人からすれば、3月に7,000円そこそこだった日経平均株価が10,000円以上で推移していれば、「景気の最悪期は脱したようだ」とか、「すでに景気は回復基調に向かっているのかも知れない」と感じるのが普通でしょう。実際には、株価が下げ続けていたり、年初来安値を更新している銘柄が相当数出ているにもかかわらずです。
日経平均株価の持つ2つの特徴とは
では、日経平均株価が日本の株式市場全体の値動きを必ずしも正しく示しているとはいえないのはなぜでしょうか。その理由は大きく2つあります。
1つは日経平均株価が、東証1部上場銘柄のうちの225銘柄のみをピックアップして構成されていることにあります。東証1部上場銘柄は1,700近くありますが、225銘柄以外の株価の動きは日経平均株価には全く反映されません。そして、東証2部や大証、そしてジャスダック、マザーズ、ヘラクレスといった新興市場銘柄の株価がいくら動いても、日経平均株価には関係ありません。
2つめの点、実はこれが非常に重要なのですが、日経平均株価は、「単純平均」により計算された株価指数だということです。
簡単にいえば、日経平均株価を構成する225銘柄の株価を合計して、それを225で割れば日経平均株価が算出されるのです。
ただし、株式分割などにより株価が修正されることなどがあり、指数としての連続性を保つために、実際には225ではなく「除数」(日本経済新聞のマーケット面に掲載されています。10月30日現在では24.656)で割ることになっています。
それでも基本的には「単純平均」の原理で計算されています。このことからいえるのは、「日経平均株価は、株価の高い銘柄の動きに大きく依存する」という事実なのです。
一握りの銘柄で「操作」可能な日経平均株価
日経平均株価には、それを対象とした先物取引やオプション取引があります。先物やオプションのプレイヤーは、自身に有利となるように、半ば強引に日経平均株価を動かそうとするケースもあるようです。そのときターゲットとなるのが、日経平均株価に採用されている銘柄で株価水準の高いもの(いわゆる「値がさ株」)なのです。
そのため、日経平均株価採用の値がさ株は、時には業績を逸脱して株価が大きく動くことがよくあります。例えば2000年前後のITバブルの際はソニー株が大きく上昇し、日経平均株価上昇のけん引役となりました。最近では、ユニクロを展開するファーストリテイリング(9983)が注目に値します。
ファーストリテイリング株は業績の順調な伸びが好感され、1カ月で株価が約50%も上昇しました。現在、ファーストリテイリング1銘柄だけで日経平均株価全体の6%の構成比をもつようになりました。ITバブル時のソニーまではいかないものの、たった1銘柄で全体の6%を占めるというのは突出しています。業績好調とはいえ、企業規模の大きいファーストリテイリング株が1カ月で50%も上昇するというのはさすがに行き過ぎであり、日経平均株価を上昇させたい(あるいは下落させたくない)勢力がファーストリテイリング株買いに走っているようにも感じます。
10月末時点で353円の新日本製鉄株の株価が2倍(100%上昇)になっても、日経平均株価を約14円しか上昇させられません。しかし、10月末で15,120円のファーストリテイリングの株価が2倍になれば、日経平均株価を約613円も上昇させることができるのです。ファーストリテイリング株の値動きがいかに日経平均株価に大きな影響を与えるか、ということがお分かりいただけるでしょう。
現在の日経平均株価と同水準だった頃に比べ、ファーストリテイリング株の上昇で200円ほど日経平均株価が嵩上げされている計算です。また、ファーストリテイリング以外に日経平均株価に大きな影響を与える銘柄として信越化学工業、テルモ、TDK、アドバンテスト、ファナック、京セラ、ホンダ、キヤノン、東京エレクトロン、KDDI、ソフトバンクなどがあり、これら12銘柄だけで日経平均株価の30%以上を構成しています。そして、これらの銘柄の多くが中期的に株価上昇となっています。これらの銘柄の上昇が、ここ最近の日経平均株価の堅調な動きに一役買っている、というのが真実です。
日経平均株価に関係なく常に持ち株の値動きのチェックを
このように、日経平均株価は特定の値がさ株の株価の動きに大きく影響される「操作しやすい」株価指数なのだ、という特徴を理解することが、「日経平均株価」の値動きに翻弄されないためには重要です。
くれぐれも、「日経平均株価が堅調な動き」=「日本株全体も堅調な動き」が成り立つと勘違いしないようにしましょう。
したがって、日経平均株価が堅調な動きをしているからといって、持ち株の株価の動きの監視を怠ってはいけません。現に今年であれば、大手銀行株や中低位株をはじめとして個別銘柄の多くは6~7月前後に高値をつけた後は一貫して下降トレンドを描いています。つまり、日本株全体で見れば、日経平均株価を構成する値がさ株など一部の銘柄を除いて7月以降からすでに「下げ相場」なのです。
日経平均株価の動きとは関係なく、自分の持ち株が下降トレンド入りしていないか常にチェックし、必要に応じて利食い売りや損切りを実行すべきです。
また、買うときも日経平均株価が堅調だからといって何を買ってもよいわけではありません。下降トレンド真っ只中の個別銘柄は投資対象として選ばないようにすることが大切です。そうしないと、日経平均株価は上げ続けているのに自分の持ち株は下げ続ける…ということになりかねません。
次回は、日経平均株価と並ぶ代表的な株価指数であるTOPIXと「NT倍率」をご紹介し、これらの動きから最近の相場環境や今後の投資戦略について考察します。