自社株買いは、会社にもメリットがある

 自社株買いは、株主にメリットが大きいですが、会社にもメリットがあります。買い取った自社株に対して、会社は配当金を払わないで済みます。買いつけた株数の分だけ、配当金の支払い総額を減らすことができます。

 米国企業は、自社株買いを、財務戦略の一環として重視しています。昔、米国企業の投資家説明会で、自社株買いの目的を「自社株への投資が、一番利益率が高いので実施する」と説明していたのを聞いたことが印象に残っています。

 簡単な例で説明しましょう。

 A企業が、余剰キャッシュを10億円持っていたとします。その使い道に、【1】設備投資、【2】借金返済、【3】自社株買い、【4】大口定期預金の四つの選択肢があったとします。

【1】設備投資のニーズなく、無理に投資しても投資利回りは2%しか期待できない
【2】借入金利は2%
【3】自社株の配当利回りは3%
【4】大口定期預金の利回りはメガ銀行で0.025%程度

 この場合、自社株買いの利回りが一番高くなります。配当金は、税引き後利益から払われます。配当金を減らせば、税引き後で3%のリターンが得られます。税引き前では、4.5%程度の高い確定利回りが得られる計算となります。

 このような場合に、財務戦略として、自社株買いを実施することが、会社にとって一番利益率の高い投資先となるわけです。米国企業は、そういうことを説明していたのです。

自社株買いのメリット、おおまかな計算

 自社株買いを発表する企業が増えています。発表された自社株買いが、株主にどのくらいのメリットがあるか、おおよその見当をつける方法を、お教えします。

 発表された自社株買いが、全て実行されるとした場合、発行済株式数が何%減るのか、見るとよいです。

 具体例を見てみましょう。以下をご覧ください。

<2024年2月6日に発表された三菱商事(8058)の自社株買い概要>

出所:同社適時開示資料

 ここで、一番注目していただきたいのは、私が赤で囲んだところ、「発行済株式総数に対する割合10%」です。上限株数を発表時の株価で買い付けると、発行済株式総数が、10%減少します。ということは、1株当たり利益が、おおむね11%増えるわけです。

 PERなどの株価評価が変わらなければ、自社株買いで、1株当たり利益が11%増加し、株価が11%程度上がると期待できます。厳密に計算すると、もう少し異なる結果となりますが、ざっくりしたメリットの把握としては、上記でOKです。

 三菱商事の株価はこの発表が出た翌日、2月7日に前日比9.7%上昇しました。自社株買いの理論上のメリット(約11%上昇)をほぼ一日で織り込んだ形となります。

 次に注目していただきたいのが、青で囲んだ「取得期間」と「取得の方法」です。「2024年2月7日から2024年9月30日」まで、「市場買付」とされています。つまり、「半年くらいかけて、市場で買っていく」ということです。

 自社株取得枠で表示される金額は、あくまでも上限であって、それを本当に全て買うか分かりません。株価が上昇し過ぎると、買わないこともあり得ます。

 三菱商事は過去、公表した自社株買いをきっちり実施してきた経緯があるので、投資家の信頼があると考えられます。