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著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
1-3月GDP5.3%増でも進む「中国経済の日本化」と「消えた」若者の失業率問題

市場予想を上回った1-3月期のGDP実質成長率

 中国の国家統計局が4月16日、1-3月期のGDP(国内総生産)実質成長率を、前年同期比5.3%増と発表しました。アナリストやエコノミストによる大方の市場予想は4%台でしたから、それらを上回った形となりました。

 3月に行われた全国人民代表大会(全人代)で、中国政府は2024年のGDP実質成長率目標を5.0%前後と昨年と同レベルに設定していました。以下の図表に示したように、昨年1-3月期は4.5%増でしたが、今年の年間目標からして、今期は4.5~5.0%の成長は欲しいところだという具合に私自身は予測していました。

年次 1-3月期 4-6月期 7-9月期 10-12月期 通年 目標
2020 ▲6.9 3.1 4.8 6.4 2.3 設定なし
2021 18.7 8.3 5.2 4.3 8.4 6以上
2022 4.8 0.4 3.9 2.9 3.0 5.5前後
2023 4.5 6.3 4.9 5.2 5.2 5.0前後
2024 5.3         5.0前後
中国国家統計局の発表に基づいて筆者作成。▲はマイナス。単位は%。前年同期比。

 中国政府は全人代で、「超長期国債」と名付け、今後数年、国債を発行していくスタンスを打ち出しました。今年度(3~12月)は1兆元(約20兆円)になります。昨年10月~今年2月の期間にも、1兆元の国債を発行しています。中国政府は、「穏健な金融政策と積極的な財政政策」をマクロコントロールの二大政策として打ち出していますが(近年、この傾向が続いている)、昨今の情勢下、金融緩和よりは財政出動のほうが景気支援には効くという認識を持っており、日本円で総額180兆円以上に上る財政出動の政策的根拠になっているように見受けられます。

 以前もレポートで報告しましたが、3月の上海出張において、中国経済は3年続いた「ゼロコロナ」の傷跡からまだ回復しておらず、中小企業を中心に、調達コストの上昇、注文の減少、人員削減の圧力などに苦しんでいました。また、国民は、欧州や中東で戦争が続く中、「明日は我が身」という心境で、台湾有事や米中対立を含めた地政学リスクに懸念を強め、将来への不安を募らせつつ、投資や消費ではなく、貯蓄に走っていると感じました。このネガティブな国民心理も、景気回復の遅れを招いている構造的要因だと現地で捉えました。

 将来への不安から来る貯蓄志向も、不動産バブルの崩壊、少子化、デフレと並んで「中国経済の日本化」現象を反映していると言えるでしょう。1-3月期5.3%増という市場予想を上回る統計が発表された現在に至っても、景気回復こそが、昨今の中国経済にとっての最優先事項である状況に変わりはないと考えています。

3月に落ち込んだ生産と消費。不動産とデフレは引き続き不安要素

 同日に発表された主要統計を見ていきましょう。

 以下の図表に、工業生産、小売売上高、貿易、CPI(消費者物価指数)、失業率を挙げました。特徴的だったのは、上から三つの指標に関して、1~3月と比べて、3月の数値が低迷している点です。

統計項目     1~3月     3月
工業生産 6.1% 4.5%
小売売上高 4.7% 3.9%
貿易(輸出・輸入) 5.0%(4.9%・5.0%) ▲1.3%(▲3.8%・2.0%)
CPI(消費者物価指数) 0%(横ばい) 0.1%
失業率(調査ベース、農村部除く) 5.2% 5.2%

 3月が低迷した理由に関して、国家統計局の盛来運副局長(中央次官級)は16日に開いた記者会見で次のように述べています。

「皆さんは、3月の経済運営を巡るいくつかの指標が1~2月に比べて低くなっていることに気づいただろう。我々も統計の角度から真剣に分析を行った。一つの重要な原因は、今回の数値の比較対象となる昨年の基数が高めになっているからである。昨年の1,2月、一部地域では依然として新型コロナウイルスがもたらした困難に見舞われており、一部企業の輸出、注文などが3月に繰り越された。これを受けて、昨年3月は、工業、輸出入を見ても、主要指標は高めになり、一部産業の生産、販売には『小春日和』が出現したほどである」

 盛副局長の説明は、中国政府の公式見解として重要だと思います。確かにそういう背景、原因が作用したのでしょう。加えて、今年の2月は春節(旧正月)ということで、一定の景気刺激をもたらしたのも、1~2月の数値が3月よりも高めになっている原因だと思います。

 中国政府としては、3月の落ちぶれを単体で見るのではなく、1~3月をトータルで認識した上で、「中国経済は持続的に回復している」(盛副局長)という判断を、国内外の政府、市場関係者に持ってもらいたいという心境なのでしょう。

 一方、気になるのはやはり不動産不況とデフレを巡る動向です。

 以下の図表で示したように、1~3月の固定資産投資は前年同期比4.5%増でしたが、不動産開発投資は9.5%減、新築住宅の売上高30.7%減、売上面積23.4%減となり、引き続き低迷、全くと言っていいほど回復の兆しが見えてきません。

 加えて、民間企業による固定資産投資も全体に遠く及ばない0.5%増ということで、民間企業が疲弊する中、国有企業が従来以上に影響力と存在感を発揮する経済構造になっているという現状が見て取れます。

 中国という社会主義市場経済の国において、国有企業が力を発揮することの意義、示唆自体は慎重に分析すべきですが、中国において、民間経済は税収の5割以上、GDPの6割以上技術革新の7割以上、都市部雇用の8割以上、企業数の9割以上を占めるといわれています。そんな民間経済、それを担う民間企業が全体的に疲弊、困窮している現状は大問題だと言えます。

統計項目     1~3月
固定資産投資 4.5%
民間固定資産投資 0.5%
不動産開発投資 ▲9.5%

 最後にデフレですが、上の図表に示したように、1~3月は前年同期比で横ばいということで、デフレからの脱却が成されているとは到底言えません。1月に0.8ポイント下落し、2月に0.7ポイント上昇しましたが、3月は再び落っこちて0.1ポイントの上昇にとどまりました。

 統計局の盛副局長は、「CPIは低いレベルでゆっくりと回復していく」という見解を示していますが、この言葉にも表れているように、物価指数の劇的な上昇は見込めないことは中国政府も理解しており、中国経済は引き続きデフレ圧力に見舞われるものと思われます。

「若年層の失業率問題」はどうなるか?

 昨年「20%以上で高止まり」という歴史的に悪化し、8月に突然発表が停止され、物議を醸した若年層の失業率に関してですが、16日の段階では、全体の失業率(調査ベース、農村部除く)のみで、年齢別のそれは発表されませんでした。

 一方、16日の会見で、盛副局長は、「3月を含め1~3月の状況から判断すると、若者の失業率はまだわずかに上昇している。これは高度な注意を要する」と指摘しています。調査方法が変更された上で(16~24歳、調査ベース、在校生除く)、今年1月から発表が再開されましたが、昨年12月が14.9%、今年1月が14.6%、2月が15.3%と推移しており、盛副局長の言葉から察するに、これから発表される3月の数値は2月を上回る可能性が高いと言えます。

 私が3月に中国に出張した際にも、大学を卒業した多くの若者が職を得られておらず、起業しようとしてもうまくいかず、何もしないで日常を過ごす「寝そべり族」が増えていると実感したものです。

 特筆すべきは、16日の記者会見における盛副局長の若年層の失業率に関わる発言が、国家統計局のホームページで公開されている記者会見備忘録に載っていない、という事実です。同局が、自らに都合の悪い内容ということで、掲載しなかったのでしょう。

 外交部の記者会見を含め、中国では「あるある」の場面なので、サプライズはないですが、重要な示唆は、若年層の失業率を巡る問題は、中国経済にとって「不都合な真実」だという認識を、中国政府が抱いているという真実。雇用問題、労働市場は、中国の景気回復にとって、引き続き不安要素になると見ています。