為替DI:1月のドル/円、個人投資家の予想は?
楽天証券FXディーリング部 荒地 潤
楽天DIとは、ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円それぞれの、今後1カ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスの時は「円安」見通し、マイナスの時は「円高」見通しで、プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強いことを示します。
DIは「強さ」ではなく、「多さ」を測ります。DIは、円安や円高の「強さ」がどの程度なのかを示しているわけではありませんが、個人投資家の相場観が正確に反映されていると考えるならば、DIの「多さ」は同時に「強さ」を示すことになります。
「2月のドル/円は、円安、円高のどちらへ動くと予想しますか?」
楽天証券がドル/円相場の先行きについてアンケート調査を実施したところ、個人投資家の60%が「円安/ドル高」に動くと予想していることが分かりました。前月の30%から倍増しました。
円安見通しから円高見通しを引いたDIはプラス20になりました。前月はマイナス40ポイントでした。DIのプラスは3カ月ぶりで、再び個人投資家の円安見通しが多数になったことを示しています。
別々の道を進む中央銀行
FRBの場合
FOMC(米連邦公開市場委員会)は1月30~31日に開催した定例会合で、政策金利であるFF金利を5.25%から5.50%のレンジに据え置きました。決定は全会一致。FOMCは昨年7月の利上げを最後に、4会合連続で金利を据え置いたことになります。
FOMCは、目標達成に向けて雇用とインフレのリスクは「バランス良く移行している」として、利下げする環境が整いつつあることを示唆しました。
ただし、パウエルFRB議長は、利下げを決定する前に「インフレ率が目標の2%に戻ることを確信する必要がある」とした上で、「3月までに利下げを確信するレベルに達する可能性は低い」との考えを示しています。
ウォラーFRB理事も、「インフレが再上昇しなければ、FRBは今年中に利下げを行う可能性がある」との見通しを示しながらも、3月利下げは時期尚早との意見でした。
ウォラー理事は、それまで中立からややタカ派寄りだったパウエルFRB議長の考えを利下げ支持に変えさせた人物で、FRB内のインフルエンサーともうわさされています。そのウォラー氏が利下げに対してやや距離を置いたことは FRBが利下げに慎重になったと考えてよいでしょう。
FRBの今年の利下げは確実としても、その明確な開始時期は示されていません。金融政策決定プロセスにおいて経済データを重視すると表明しているFRBは、インフレ目標に向けた進展が不十分であることを示す情報が入ってきた場合には、利下げ時期を遅らせる可能性が高いと思われます。
今月発表された米雇用統計の非農業部門雇用者数は、1月の増加数としては過去17年間で2番目の大きさとなりました。これはFRBの引き締めが、むしろまだ「足りない」ことを示しています。
12月FOMCのドットチャートで示された今年の利下げは3回、合計0.75%の利下げです。ウォラー理事もこの予想を支持しているようです。一方、マーケットの予想は今年6回、合計1.5%利下げです。
今年あと7回開催されるFOMCで6回利下げするためには、遅くとも5月会合、余裕を持つなら次回からスタートしなければなりません。これが3月利下げの根拠になっていました。しかしドットチャートの3回の利下げであれば、9月まで時間の余裕があります。
FRBはインフレを低下させると同時に米国経済のハードランディングを回避して、ソフトランディングへと誘導することを目標としています。ソフトランディングに必要なのは、景気刺激策ではなく安定した実質金利です。そう考えると、マーケットの利下げ期待は行き過ぎ感があったことは否定できません。
しかし、昨年9月時点でFOMCメンバーは、2024年の利下げ幅をわずか0.25%と予想し、「再利上げ」の可能性をより熱心に議論していました。それからたった3カ月で利下げ予想は0.75%まで拡大したのです。今後の経済データ次第では、再度方針転換が起きる可能性があるでしょう。
日銀の場合
日銀は1月の金融政策決定会合において、マイナス金利やYCC(イールドカーブ・コントロール、長期金利の誘導)政策などの大規模金融緩和政策の現状維持を決定して、今回も見事なまでの音無しの構えを披露してくれました。
日銀の植田和男総裁は「2%の物価目標に向けて確度が高まっている」と語りながらも、「もう少しデータやさまざまな情報を見たい」と、政策出口の時期については明言を避けました。
しかし3月になれば、日銀が求める賃金データである、春闘の結果が大企業を中心に出てきます。中小企業の賃金動向はさらに先の6月まで待つ必要がありますが、植田総裁は、全てのデータが出そろうより前に判断できるとの考えを示しています。
従って6月の日銀会合より前の4月25~26日の会合においてマイナス金利解除が決定される可能性があります。しかし、そのための準備として、YCC政策は、1月の政策会合で廃止しておく必要がありました。
震災が日銀の政策に影を落としました。そうこうしているうちに、日本のインフレ率は早くも下がり始めの兆候がでています。日銀はチャンスがあった昨年末のうちに行動するべきだったかもしれません。「明日できることを今日するな」の方針だから、金融政策正常化が遅れてしまうのです。
ECBの場合
ECB(欧州中央銀行)は2024年最初の理事会で利上げを3会合連続で見送り、主要政策金利を4.5%、デポ金利を4.0%に据え置くことを決定しました。前回12月の会合のラガルドECB総裁はタカ派的で、「賃金コストの大幅な伸びを背景とした物価圧力は依然として強い」と述べるなど、インフレに対して強い警戒感を示していました。
ところが今回1月の会見では、インフレや賃金のアップサイドリスクよりも、経済成長のダウンサイドリスクをより懸念している印象を与えました。ECBスタッフによる最新の経済予測によると、インフレ見通しが2024年で2.7%と、3カ月前の3.2%から下方修正されました。ユーロ圏経済成長率は、今年0.8%と昨年9月時点の1.0%から下方修正されました。
ラガルドECB総裁はマーケットの利下げ期待を強く否定していません。むしろ受け入れる姿勢です。ECBの利下げは、するかしないかではなく、「いつから、どれだけ」の段階に入ったようです。金利市場は、最初の利下げは4月で、年内に政策金利は計1.50%引き下げられるだろうという予想を立てています。
ユーロ/円
楽天証券がユーロ/円相場の先行きについてアンケート調査を実施したところ、個人投資家の55%が「円安/ユーロ高」に動くと予想していることが分かりました。前月は31%でした。
円安見通しから円高見通しを引いたDIは、プラス10になりました。前月はマイナス38ポイントでした。個人投資家の円安(ユーロ高)見通しが多くなっています。
豪ドル/円
楽天証券が豪ドル/円相場の先行きについてアンケート調査を実施したところ、個人投資家の54%が「円安/豪ドル高」に動くと予想していることが分かりました。前月は33%でした。
円安見通しから円高見通しを引いたDIは、プラス8になりました。前月はマイナス34ポイントでした。 個人投資家の円安(豪ドル高)がやや多くなっています。
今後、投資してみたい金融商品・国(地域)
楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト 吉田 哲
今回は、毎月実施している質問「今後、投資してみたい金融商品」で「海外債券」と「国内債券」を選択した人の割合に注目します。各質問の選択肢は、ページ下部の表のとおり、13個です。(複数選択可)
図:「海外債券」と「国内債券」を選択した人の割合の推移
2024年1月の調査で、「海外債券」を選択した人は11.28%、「国内債券」は6.50%でした。上図のとおり、2022年の半ば以降、ともに割合は上昇傾向にあります。
債券の利回りは政策金利の影響を受けます。短期的には、金利上昇は債券価格を低下させる要因になり得ますが、長期的には、金利上昇は満期を迎えた債券の資金をより高い利回りの債券に再投資できるメリットになり得ます。
2022年の半ば以降、米国ではFRBの引き締め的な政策が続き、金利水準は高止まりしています。金利水準の高止まりを受け、長期視点での海外債券への投資に妙味が生じていたと考えられます。ただ、2023年末ごろからFRBは緩和的な政策(利下げ)にかじを切りつつあることから、こうした状況に変化が生じる可能性あります。
一方、日本ですが、今年のいずれかのタイミングで「利上げ」に踏み切るとも思惑が浮上しています。長期視点での国内債券への投資に妙味が生じつつあると考えられます。
海外債券と国内債券。今のところ、質問「今後、投資してみたい金融商品」においては、海外債券を選択する人の割合が高いですが、今後の日米双方の金融政策次第で、上下が入れ替わる可能性があります。今後も両国の金融政策、「外国債券」そして「国内債券」の割合の推移に、注目していきたいと思います。
表:今後、投資してみたい金融商品 2024年1月調査時点 (複数回答可)
表:今後、投資してみたい国(地域) 2024年1月調査時点 (複数回答可)