2月1日、台湾立法院第一回会議で院長、副院長が選出

 1月18日のレポートで「民進党の『辛勝』で終わった台湾総統選。今後の『台湾有事』を巡る3つの視点」と題し、1月13日に行われた台湾総統選をレビューしました。

 中国と距離を置く傾向にある現与党・民進党の頼清徳候補が「辛勝」、議会では最大野党の国民党に敗北し、政権運営に「ねじれ」が生じること、「1.台湾の内政、2.米中関係、3.台湾有事」、という3つの視点から、選挙後の動静を注視していく必要があることを指摘しました。

「台湾総統選」と俗に言われますが、その過程や結果が、日本を取りまく地政学情勢にどのような影響を及ぼすかを考えるとき、以下3つのアジェンダを一つのまとまりとして捉える必要があります。

a 1月13日 総統、立法委員ダブル選挙
b 2月1日 第一回立法院会議
c 5月20日 新総統就任演説

 aはすでに終了し、bが先日行われました。今回の選挙で選ばれた113人の新たな立法委員(日本の国会議員に相当)が、立法院長、副院長(日本の国会議長、副議長に相当)を委員間選挙で選びました。そもそも、議会では野党・国民党が第一党になっていましたし、8議席を有し、キャスティングボードを握る第三の党・民衆党の動き方次第ではありましたが、当初から、立法院長は国民党から選出されるという公算が高かったです。

 議会で過半数を占める政党がない中、結果は案の定第2ラウンドの決選投票までもつれ込み、国民党代表の韓国瑜委員(元高雄市長)が、続投を狙った民進党の游錫コン立法院長を破り、新院長に当選しました。遊氏は責任を取る形で立法委員の職を辞しました。

 また、副院長にも同じく国民党の江啓臣委員が当選し、台湾の議会は国民党が牛耳る展開となりました。これによって、行政府と立法府のねじれが一層鮮明になりました。頼清徳政権の政権運営は難航が予想されます。

それぞれ春節休暇に入る中国と台湾。台湾海峡はどうなるか?

 中華圏の多くは春節(旧正月)休みに入ります。台湾は本日2月8~14日の7連休、中国では2月10~17日の8連休となります。現地の人々にとって1年で最も重要な、親族が集まり、家族が団らんする時間になります。みんなが楽しく盛大に過ごしたい長期の祝日ということですが、台湾総統選が終わったばかりで、台湾有事の行方も注目される2024年の春節において、台湾海峡はどんな様相を呈するのか、考えてみたいと思います。

 結論から言えば、春節期間中の台湾海峡は静かになる可能性が高いです。「2024年春節時の台湾海峡」という文脈で言えば、理由は以下の3つです。

  1. 台湾総統選の結果から、「独立志向」の民進党は辛勝に終わり、議会は国民党が第一党として引っ張る局面を前に、中国側として「強行」より「静観」を重視する局面にあるから
     
  2. 春節に際して、習近平(シー・ジンピン)国家主席が毎年新年のあいさつをし、「台湾の同胞」に対しても祝辞を述べる。そんな時に台湾統一に向けて大々的なアクションを取るのは考えにくい
     
  3. 台湾統一のためには、中国国内の軍人、各地の党・政府機関、予備役、一般国民、鉄道、港、空港、道路を含めたインフラなどを総動員しなければならず、春節時にその余力はない

 従って、少なくとも中国、台湾双方が春節モードにある期間中、台湾海峡が劇的に動くというシナリオは考えにくい。もちろん、周りが「今はやらないだろう」と思っているタイミングに動く可能性を100%否定できるわけではありません。

 実際、中国の内政や外交、軍事において、周りが予測できるあからさまなタイミングに動くというのはまれです。ボクシングにおいて、打ってくると察知するパンチは避けられるのと一緒です。

ポイントはやはり5月20日の頼清徳新総統の就任演説「後」

 春節をへて、中国では3月5日に全国人民代表大会(全人代)が開幕します。1年に1度、最も重要な政治会議になります。コロナ禍を受けて、開催期間が調整されたりしていますが、おおむね、1週間から10日間くらいは政治会議モードが続くとみてよいでしょう。習近平総書記を含め、政治や軍事の最高幹部たちがそれに集中しているこの時期に台湾統一に向けてアクションを起こすことも考えづらいです。

 そうこうしているうちに、5月20日は、1月の総統選で新総統に当選した頼清徳氏が蔡英文現総統からバトンを受ける就任式が行われます。その席で、頼氏は就任演説をします。以前も指摘しましたが、この演説で頼氏が

  1. 「中華民国」、「台湾」をどう位置付け、言語化するか
  2. 台湾の未来を、特に民主主義や国際空間の観点からどう描くか
  3. 中国との関係をどう語るか

 の3点に注目すべきです。

(1)に関しては、2020年時の蔡英文氏同様、「中華民国台湾」と「台湾色」を前面に出して語るかどうか

(2)に関しては、中国との関係は「民主主義VS専制主義」の戦い、「主権国家として、台湾独自の国際空間を開拓していく」といった中国側が嫌がるトーンを強調するのかどうか

(3)に関しては、中国との関係性をどこに位置付け、どう具体的に描写するか、例えば、対立軸を前面に出すのか、あるいは対話や協調を前面に出すのか、それとも両社を混ぜた「ハイブリッド型」で押し通すのか。

 それによって、中国側の出方が変わっていくと思います。もちろん、民主選挙で勝った頼氏としては、まずは中国でも国際社会でもなく、台湾の有権者に支持されるような演説をしなければなりません。

 台湾人アイデンティティーがどこにあるのか、台湾社会の構造がどう変遷しているのか、を見極める上でも重要な「5.20」演説になるでしょう。