経済成長率「目標達成」でスタートした2024年。不動産不況の行き先に注目

 先週のレポートで検証したように、中国政府は2023年のGDP(国内総生産)実質成長率を5.2%増と発表しました。政府目標が「5.0%前後」だったため、とりあえずは目標達成ということのようです。目標達成とならなかった2022年は3.0%増でした。

 一方、物価変動の影響を受けるが故に、より国民生活の実感を反映するとされる名目GDPを見てみると、2023年は4.6%増となり、2022年の4.8%増から鈍化。特筆すべきは、中国で8年ぶりに名目GDPが実質GDPを下回った、約30年で最も低い水準にとどまったという事実です。

 中国政府が認める需要不足、そして中国政府は否定するものの、実際には直視せざるを得ないデフレ圧力が顕在化している現状を如実に表していると言えるでしょう。中国のCPI(消費者物価指数)は直近3カ月マイナスで、2023年通年でも0.2%上昇という結果にとどまりました(政府目標は3.0%上昇)。

 このように見ると、2023年の経済成長自体を巡って、表面上は目標達成ということなのでしょうが、実態、中身を見ると、課題が山積していると言わざるを得ないのでしょう。

 その中で、最も注目されるのはやはり不動産不況問題でしょう。2023年、不動産開発投資は9.6%減、主要70都市の住宅価格を見ると、新築で上昇したのは17都市、下落が52都市、中古で上昇したのは4都市、下落が66都市と低迷しました。

 また、1月29日、香港の高等法院(高等裁判所)が不動産開発大手の中国恒大集団(エバーグランデ)に清算命令を出しました。昨年6月末時点で約50兆円の負債を抱える恒大集団ですが、今後、裁判所が選ぶ管財人が資産売却などを行い、債権者との協議を通じて債務を整理する手続きに入ることになりますが、不透明感は増すばかりです。不動産危機と金融危機の連鎖はリスク要因だと思います。習近平(シー・ジンピン)氏率いる中国共産党指導部は、恒大をつぶしてでも金融市場の安定性を死守するほうを優先していくものと思われます。

習近平指導部が台湾総統選の結果を「静観」する理由。2月1日の立法院初回会議に注目

 先々週のレポートで扱った台湾総統選。2024年は選挙イヤーと言えますが、その初戦として、1月13日、台湾で総統&立法委員のダブル選挙が行われました。結果は中国と距離を置く民進党の頼清徳候補が「辛勝」。過去2番目に低い得票率(40%)に終わっただけでなく、立法院(議会)では民進党は議席を現状から11減らし、第一党の座を国民党に明け渡す形となりました。台湾で1996年に直接選挙が導入されて以来、同じ政権が2期8年を超えて3期目に突入するのは初めてのことで、民進党は「歴史的快挙」を達成したと言えますが、それでも素直に喜べない、課題は山積みという中でのスタートになるでしょう。

 習近平氏率いる中国共産党指導部は、台湾総統&ダブル選挙の結果次第では、大規模な軍事演習などを含め、選挙直後に台湾海峡での強硬的行動に出る可能性もあったと思われます。ただ、結果は民進党の「辛勝」、要するに、有権者の6割にノーをたたきつけられた新生・民進党は、中国との関係を含め、世論の動向を見極めながら、特に議会で国民党などと協調、連携しながら、慎重に物事を運ばざるを得ないということです。

 この点は、中国から見れば、民進党が必ずしも「独立志向」的な政策や言動を強めず、逆に中国との対話に歩み寄ってくる可能性を示唆しています。だからこそ、まずは「強行」ではなく「静観」を選択したのだと私は理解しています。

 本日(2月1日)、先月の選挙を受けて、第一回の立法院会議が召集され、立法院長、副院長が委員間の選挙で選出されます。議会における第一党の国民党から院長が選出される可能性が高いですが、副院長を含め、その結果次第では台湾政治、および「台湾有事」を巡る動向にも変化が生じてくるため、頼清徳陣営の反応、中国、および米国の動向を含め、注視していく必要があります。もっとも、中国は2月10日から春節休暇に入るため、この期間に、地域情勢を不安定化させる、国家資源を総動員するといった「暴挙」には出ないと思われます。

選挙イヤーの2024年、米中関係は安定するか?

 私は常々「米中対立なき台湾有事なし」と指摘してきました。台湾の人々の絶対多数は「現状維持」、すなわち統一もしない(したくない)、独立もしない(できない)という状況が続くことを(それが台湾の人々にとってベストなのかは置いておいて)望んでいるというのが大方の見方です。

 ということは、仮にそういう「現状」が変わってしまうとしたら、それは台湾の人々による主体的な選択ではなく、台湾を挟むように攻防を繰り広げる米中いずれか、あるいは同時行動による「現状変更」になるというのが論理的帰結であり、実質的構造だということです。

 その意味で、米中二大国がどのような関係にあるのかというのは、台湾問題を見ていく上で死活的に重要であり、日本を取り巻く地政学を左右し得る「最大のマクロ」だと言えるのではないかと思います。

 その意味で、昨年11月、サンフランシスコで行われた1年ぶりの米中首脳会談以降、両国がハイレベル協議を続けている経緯や現状はポジティブなマクロ要因だと思います。実際、1月13日の台湾総統選直前、中国の劉建超中共対外連絡部長(中国外交のキーマンの一人)が訪米し、ブリンケン国務長官らと会談し、台湾総統選の結果が米中関係悪化の引き金にならないよう協議をしました。そして、直近で言うと、1月26~27日、王毅(ワン・イー)政治局委員兼外相とジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官がタイのバンコクで会談。双方は、以下の分野で合意しました。

  • 「サンフランシスコ・ビジョン」を実践すること
  • 両国首脳が経常的連絡を保持することで、戦略的リーダーシップを取ること
  • 米中間の各分野、各階級で往来すること
  • 王毅・サリバンの戦略的コミュニケーションチャネルをしっかり活用し、外交、軍事、経済、金融、ビジネス、気候変動といった分野での対話協商メカニズムを促進すること
  • 近日中に米中麻薬取締ワーキンググループを起動すること
  • 今春にAIを巡る政府間対話の第一回会議を行うこと

 依然として停戦の気配が見えないロシア・ウクライナ戦争、過熱化するイスラエル・ハマス紛争、ハマスとの連帯を掲げるイエメンの反政府勢力・フーシ派と米英軍が攻防を繰り広げる紅海情勢など、世界情勢はますます緊迫する様相を見せています。このような状況下において、米中二大国が、けんかをするのではなく、対話を通じて、世界経済や地域情勢の安定化に向けて前向きに行動していくことは極めて重要です。

 政治の論理が経済の論理を凌駕(りょうが)し、市場が選挙に振り回されるリスクが高まる年だからこそ、米中関係の安定化がますます重要になる。そして、現状はその方向で推移しているというのが私の現時点での見立てです。

 もちろん、経済、先端技術、人権、地政学、軍事、海洋などを含め、米中関係の急激な悪化をあおるような火種や引き金はいくらでも、どこにでも潜んでいます。そのような突発的事件が起きた際に、両国が適切な危機管理に踏み出せるかどうかも鍵を握ると思います。