リスクと向き合う社会の土台がアメリカを成長させた

「資本主義が、リスクに向き合うことで豊かに暮らせる社会なのは、やはり、その生い立ちが理由です。自給自足の農耕社会も、徐々に商品が増えて市場経済へと成長していくわけですが、そうした中で、領主や地主に隷属しないで独立自営で暮らす人たちが増えていきます。都市でも、農村でも、独立自営で暮らすということは、今日でいう個人事業主であり、自分で事業をして生活を立てる人たちです。そして、個人営業から会社に成長し、産業革命で会社の規模が大きくなり、今日の企業社会に至ります。会社が大きくなるに従い事業運営に多額の資金が必要になりますから、資本金を出資する人たちも増えてきます。資本主義とは、そうした人たちが社会の中核を占めるようになった社会です」

 隆一は先生の話を聞いて、アメリカ人の働き方のことを思い出した。

「アメリカでは優秀な人は起業をして、日本のように大企業に入ることはステータスではないと聞きました。このことと、リスクや米国株の成長は関係ありますか?」

「まさにそこです。アメリカは伝統的に、自力で土地を開拓し、ビジネスを立ち上げて、暮らしを立ててきた社会です。勤勉に働き、リスクに挑んで、豊かになろうとすることはごく普通の人生モデルです。働き方でも、投資でも、リスクに挑むことを特別なこととは考えません。しかも、日本人のように、お金に、きれい、汚い、などという先入観を持っていませんから、ビジネスで豊かになることも、投資で豊かになることも、区別はありません。また、アメリカは経済成長を続けていますから、ビジネスでも、投資でも、努力して成功すれば豊かになれる、という実例が友人や家族などの身近に、いくらでもあるわけです。アメリカが最も、資本主義の恩恵を受けてきた国である所以はここにあります」

「日本が低成長なのに、どうしてアメリカは成長を維持できるのですか?」

「理由はさまざまありますが、移民により世界中の優れた人が集まり、しかもイノベーションが起きやすい社会であることが大きいと思います。自由な社会、誰でも豊かになれることをみんながわかっている社会だと言えますね。産業の新陳代謝が活発で、ITやバイオばかりでなく、時代の先端を行く企業が次々に生まれるのもそのためでしょう。現在のアメリカの株高をけん引しているFANG(ファング)とよばれるフェイスブック、アマゾン、ネットフリックス、グーグル(アルファベット)が分かりやすい例ですが、これらはすべて、80年代には存在していない会社ばかりです」

「私もこれらの4社のサービスはよく使います」

「彼ら起業家は、何の保証もない将来に向けて、知恵を駆使して、懸命に働き、生活を立てていった人々です。つまり、リスクを恐れず、リスクに真正面から向き合って成功してきた人たちです。そういう人の中から、富豪とよばれる人たちが生まれ、そういう人たちが創り上げたのが資本主義です。リスクを取る人々が報われるので、リスクを取る人が後に続き、経済が成長をし、株価も上がっていきます」