お金に働いてもらう。その金は、汚いか?
さらに、先生は続けた。
「経済成長とともに働く人の所得も増加した高度成長期とは違い、いまの日本は、賃金が上がらないという現象が顕著です。一方で、配当金を増やしたりや自社株買いによる株主への還元は増加しています。<株主資本主義>になりつつあるのです。これはこれで問題ですが、自身の対処として、雇用と労働を通じてだけ、所得を得るのではなく、投資をして資本の対価をもらう株主側になる手があるわけです。個別の企業の株を買ったり、それらの株を束ねた<投資信託>を長期で持ったりするというのは、まさに株主側に立つことを体現しているわけです。私たちにとって、投資を通じて自分も社会も豊かになれることが資本主義の最大の魅力です」
「そういえば、会社の上司が『おカネにも働いてもらう』と言っていたことを思い出しました。銀行の普通預金に置いていてもおカネは働いてくれないので、やはり投資を通じておカネに働いてもらいたい、銀行に置いておくものはもったいないという気持ちが湧いてきました」
隆一がそう言うと、先生はうなずき、コーヒーをうまそうにひと口飲み、続けた。
「日本人の中には、汗水たらして働いて得たおカネは貴いが、投資で得たおカネはあぶく銭、あるいは不労所得のように言う人がいましたが、まったくの勘違いです。どちらで得たおカネも貴いおカネです。ただ、この勘違いには文化的な背景だけでなく、投資での収益がリスクに挑んで得た報酬だという理解が欠けているのです」