9月の訪日客、コロナ前に迫る

 既に10月も中旬を過ぎ、2023年も後2カ月と少しとなりました。今回も、現行の一般NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)の投資枠が残っている人にぜひ読んでもらえる内容としています。テーマは、インバウンド(訪日外国人)需要です。よく耳にするテーマですが、少し掘り下げていますので最後までお付き合いください。

 日本政府観光局が10月18日発表した9月の訪日外国人数は218万人と、コロナ前である2019年9月比で96.1%まで迫りました。昨年10月の水際対策緩和以降、海外からの旅行客が着実に回復していることがわかります。

 中国に関しては、電力福島第1原子力発電所の処理水問題の影響が訪日中国人の足かせとなっているとの見方があります。ただし、パックやツアーなどの団体旅行は回避されていますが、富裕層などを中心とした個人旅行が増加しているとのことです。10月は中国の大型連休の国慶節がありましたので、11月に発表される10月の訪日外国人のデータも注目されるでしょう。

 政府は今年の3月、新たな「観光立国推進基本計画」を閣議決定しました。そこで挙げた三つの項目が「持続可能な観光地域づくり戦略」「インバウンド回復戦略」「国内交流拡大戦略」です。つまり、インバウンド需要は「国策に売り無し」の格言通り、強気で攻めることが可能なテーマかもしれません。

 また、観光庁が調査している「訪日外国人消費動向調査」を見ても面白いデータがあります。2019年4-6月期と、2023年4-6月期のデータを比較すると、「化粧品・香水」「医薬品」「時計・フィルムカメラ」「宝石・貴金属」の購入者単価が減少した一方、「ゴルフ場・スポーツ施設利用」「テーマパーク」「舞台・音楽鑑賞」が増加していることが分かります。

インバウンド経済、モノ消費からコト消費へシフト

 インバウンド需要というテーマを見て、真っ先に頭に浮かぶのは、コロナ前の2010年代半ばから後半にかけて、薬や炊飯器を大量購入している姿や、百貨店で高級時計や貴金属を買っている姿ではないでしょうか。株式市場でも「インバウンド・バブル」は2015年ごろに発生していました。

 この時に注目されていた銘柄は、免税店大手のラオックス(8202)や、薬局チェーン大手のマツキヨココカラ&カンパニーズ(3088)、中古のブランド物などを手掛けるコメ兵ホールディングス(2780)、スニーカー販売チェーン大手のABCマート(2670)や、百貨店の高島屋(8233)など消費型が中心でした。そうです。今となっては懐かしい言葉の「爆買い」ですね。

 でも、足元の消費動向を見ると、単純な消費型から、日本独自の自然や文化などに触れ合う体験型にシフトしていることが分かります。つまり「モノ消費」から「コト消費」へおカネを落とす対象が変化しているのです。

 訪日外国人の数が増加して、過去最高の2019年を超えていけば、消費押し上げにつながります。こうなった場合は、消費型銘柄も売上増加などの恩恵を享受できるでしょう。

 ですが、今回は、「コト消費」に注目して、インバウンド需要が期待できそうな体験型サービスなどを手掛ける銘柄5つを厳選しました。あまり聞いたことが無い銘柄があるかもしれませんが、新たな出会いとなるかもしれませんので、ぜひ、ご確認ください。

インバウンド向け「コト消費」を手掛ける5銘柄

銘柄名 証券
コード
業種 株価(円)
(10月18日終値)
ポイント
寿スピリッツ 2222 食料品 2,112 首都圏・地方まで、全国でお菓子を製造販売
エアトリ 6191 サービス業 1,795 子会社の訪日外国人向けWi-Fi事業会社が新規上場を果たす
ベルトラ 7048 サービス業 377 訪日外国人向けチケットサービスが好調
京成電鉄 9009 陸運業 5,500 国内最強の集客スポットであるディズニーランドと深い関係
共立メンテナンス 9616 サービス業 5,743 高評価のドーミーイン事業が業績の追い風に

寿スピリッツ(2222)

 小樽のルタオ、東京青山のGENDY、表参道のフランセなど地方から東京まで幅広いエリアで、お菓子の製造・販売を手掛けています。株式市場では、インバウンド需要の「王道」と評価する声もあります。東京だけではなく北海道や山陰といった地方を観光し、その帰りにお土産を購入する「コト消費」と「モノ消費」の両面を期待できそうです。

 業績は好調に推移しており、2024年4-6月期の決算では、国際線ターミナル店舗の売上高が、おおむね新型コロナ発生前の水準まで回復しています。セグメント別でも、都心で展開しているシュクレイ、北海道地区で展開しているケイシイシイ、山陰地区で展開している寿製菓、いずれも前年同期比30~50%増加しており、インバウンド需要回復の恩恵を受けられると考えます。

 11月1日に2024年4-9月期の決算発表がありますので注目です。

エアトリ(6191)

 旅行アプリサービスを展開しており、インバウンド向けの国内旅行予約やWi-Fiレンタル事業があることから注目します。エアトリ旅行事業で蓄積したノウハウを訪日外国人向けサービスとして展開しており、今年8月には、この事業を手掛ける子会社インバウンドプラットフォーム(5587)が東証グロースに新規上場しました。

 インバウンドプラットフォームの2023年9月期の売上高予想は、前期比81.5%増の20億円、営業利益は2.4倍の3億円と大幅な増収増益見込みです。思い出づくりに欠かせないネットインフラの根幹であるWi-Fiサービスの引き合いは、訪日外国人数の回復を受けて今後も増加すると考えます。

 また、インバウンド需要とは少々異なりますが、同社は地方の人口不足などの社会課題を解決するべく地方創生事業も展開しています。まだ、収益源という位置付けではありませんが、地方と「コト消費」は親和性があると考えますので、今後の事業展開に期待しています。

ベルトラ(7048)

 世界中のツアー情報をはじめとする、旅行ウェブサイトを展開しています。新型コロナ発生期間中の業績はさすがに厳しいものでしたが、昨年10月の水際対策緩和以降、着実に回復傾向にあります。とはいえ、2023年6月時点での日本人の海外渡航者数は、新型コロナ前の2019年比では50%未満の回復状況ですので、まだまだこれからといったところです。

 そして、注目しているのは、訪日外国人向けのチケットプラットフォームサービスである「リンクティビティ」事業の伸びです。2023年1-6月期決算の売上高は、201百万円と前年同期(2022年12月期上期(1-6月))の21百万円との比較では約10倍となりました。

 リンクティビティのプラットフォームを通じた鉄道・施設チケットの予約取扱高の額が大きく伸長しており、取扱高は訪日外国人数の回復率を上回るスピードで成長しています。今後も、訪日外国人数の回復傾向が続くと想定した場合、同社の業績はさらなる期待がもてるでしょう。

京成電鉄(9009)

 成田空港と都心を結ぶ鉄道事業を展開しているほか、東京ディズニーランドを運営するオリエンタルランドの関連会社でもあります。2024年4-6月期の決算は、脱コロナ禍の影響で人の流れが活発化したことから、大幅な増収増益となりました。成田空港を利用する外国人が増えれば、鉄道やバスの利用者が増えるというシンプルな発想で注目しておきたい銘柄です。

 アジア屈指のエンタメスポットである東京ディズニーランドも、訪日外国人増加の恩恵を受けるスポットとして十分期待できます。つまり、同社を保有しますと、オリエンタルランドも保有しているような状況が楽しめるわけです。

 もちろん、オリエンタルランドの株主優待はもらえませんが、こうした要素があると分かれば、一見すると地味な鉄道株の見方も、少し変わってくると思います。

共立メンテナンス(9616)

 長年、寮事業で培ったノウハウをビジネスホテルの「ドーミーイン」とリゾートホテルの「共立リゾート」に費やし、一気に開花させました。インバウンド需要の取り込みに成功しており、市場では高い知名度があります。特に全国で展開するドーミーインは、朝食とサウナ付き大浴場が高い評価を得ており、「コト消費」の拠点となる同社に注目します。

 2024年4-6月期の売上高は、前年同期比32%増、営業利益は20倍でした。主力のホテル事業が、国内の需要増加と訪日外国人数の回復を取り込み好調に推移しました。訪日外国人数の回復はこれからも期待できることから、業績押し上げの期待感も高いと言えるでしょう。