これまでのあらすじ

 信一郎と理香は小学生と0歳児の子どもを持つ夫婦。第二子の長女誕生と、長男の中学進学問題で、教育費の負担が気になり始めた。自分たち家族の人生に必要なお金について、話し合い始めた二人は、毎週金曜夜にマネー会議をすることに。NISA口座を開設し、ついに投資を始めた二人だが、投資した商品が暴落してしまい…。

初めての暴落、揃わない夫婦の足並み

 

 その夜遅く、帰宅した信一郎は、ソファで寝落ちしたらしい理香の手からスマホを取り上げた。

「うーん…シンちゃん、お帰りなさい…」

「ただいま。ちゃんとベッドで寝なよ」

「シンちゃんを待ってたのよ」

「待たなくていいって言ったろ? 理香はいちいち騒ぎすぎだよ。こんなんで投資なんて続けられるの?」

「続けるか続けないかを話したかったから待ってたんじゃない。ねえ、紛争の影響だよね? 新興国の投資信託が一番ひどくて、買ったときの2割も価格が落ちてるの…」

 信一郎は呆れてスーツの上着を脱いだ。

「もういいかげんにしなよ。いちいち不安定になってたら投資なんてできないよ。理香、投資に向いてないんじゃない?」

 ぐったりと横になっていた理香が、突然むくりと起き上がった。

「そんな言い方ないでしょ。もとはと言えば私が言いだしたことだから、責任を感じてるのに」

「理香のせいだなんて思ってないよ」

「内心そう思ってるんじゃないの?」

 声にイライラが隠せなくなってきた理香を持て余し、信一郎は背を向けた。

「思ってないってば。今日は疲れた。風呂入ってくる。先に寝てなよ、ちょっと落ち着けよ」

「落ち着いてるもん…」とうなるように言う理香をしり目に、信一郎はそそくさと退散した。理香のせいと思うどころか、仕事が忙しすぎて、自分は株価すら見ていないのだ。

 夫婦間の定例マネー会議は、投資が順調に進んでいる間はいい潤滑剤だが、問題が起こるととたんに波風が立つ。

「あー、めんどくさ。投資なんて始めなきゃよかったかな…」

 信一郎はシャワーに打たれながらガシガシと頭をかいた。

 一方で理香は、ムカムカしながらソファに座りなおした。こんな時でも冷静な信一郎はさすがだとは思うものの、重要な話を全く聞いてくれないこと自体に腹が立つ。

「シンちゃんはいつもそう。私の話なんて時間の無駄だと思ってんのよ」

 結論が出なくても、今の状況を共しあいたい、という気持ちを理解してくれないと、不安がさらに募ってしまう。解決してほしいのではない。話を聞いてほしいのだ。

「一人で大騒ぎしてバカみたい」

 理香はクッションを放り投げ、信一郎が風呂から出てくるのを待たずに、いらいらとベッドに入った。

<3-4>暴落した銘柄、すぐに売る?もう少し待つ?