風評や不安心理の構図、SNS時代の米銀破綻と1970年代の日本の取り付け騒ぎ

 SVB(米シリコンバレー銀行)の取り付け騒ぎによる経営破綻から広まった金融機関に対する信用不安は、大西洋を越えて、相次ぐ不祥事などで経営不振に陥っていたスイスの金融大手クレディ・スイスに飛び火しました。

 金融不安は小規模の銀行から始まったものであったとしても、株式市場で大きな懸念となります。投資家が不安に駆られ、手持ちの株を売却する動きが生じ、一定期間神経質な状態が続くことは容易に想像できます。今回の一連のことでまず認識すべきは「現代版取り付け騒ぎの構図」です。

 SVBの場合はインターネットバンキングを通じ、1日で約5兆5,000億円の預金が引き出されたといわれています。窓口業務が主流であれば、これほどの預金が一気に引き出されることは考えられません。SVBはたちまち現金不足に陥り、増資によって埋めようとしたものの間に合わず頓挫、経営破綻に追い込まれたのです。

 ネットバンキングを通じた預金引き出しが加速した背景には、信用不安をさらにあおるSNS(交流サイト)内の動きも要因の一つとされています。

 米報道によると、複数のベンチャー投資家がツイッター上で主要な預金者のITテック企業に対してSVBから預金先を再考するよう促したとされています。

「その動きがなければ破綻はなかった」と仮定を持ち出すのではなく、そのようなことも起こり得るのだと認識しておくことが賢明ではないでしょうか。

 日本でもSNSによる事案ではないものの、かつて「うわさ」に端を発する取り付け騒ぎが起こったことがあります。1973年12月、愛知県小坂井町(現・豊川市)を中心に「豊川信用金庫が倒産する」らしいといううわさが流れたことから預金者が引き出しを急ぎ、取り付け騒ぎが発生、健全な経営だった同信用金庫が倒産の危機に陥ったものです。

 同信金だけでなく他の信用金庫にも飛び火しかねないとされ、信用不安を抑えることに万全の対策が取られ最悪の事態は避けられました。この件では警察が信用毀損業務妨害の疑いで捜査を行い、女子学生の雑談から生じた自然発生的な「デマ」が原因で、犯罪性がないことが証明されています。

 今回の米SVBの事案と1970年代の豊川信用金庫のものは規模や影響の大きさは違うものの、風評や不安心理が原因となった「構図」は共通するものがあるかもしれません。

今後の反発に期待!安くなって10万円で買える銘柄

 イエレン米財務長官は米時間21日の講演で、SVBなど経営破綻した中堅銀行2行の預金を全額保護したことに関し、「他の銀行でも預金の取り付け騒ぎが発生すれば、同様の措置を取る」と明言しています(ただ細部の情報は錯綜[さくそう]している)。加えて、今回の米銀破綻が2008年のリーマン・ショックとは「大違いだ」と強調し、金融不安の沈静化を促しています。

 クレディ・スイスについては、スイス政府主導で、同じスイス金融大手UBSによる救済合併がまとまりました。19日に、UBSが約4,200億円でクレディ・スイスを買収すると発表しました。スイスの中央銀行であるスイス国立銀行は「この合意は金融市場の信頼を回復し、経済へのリスクを管理するための最善の方法だ」としています。

 もちろん一連のことについては、「本来預金保護の対象となっていないものまで保護したことは不公平だ」(米SVBなどについて)という批判や、クレディ・スイスについてもUBSによる買収金額の規模や一部の劣後債を無価値化したことに対する批判があり、一部投資家が訴訟を起こす構えです。

 さらに、今後も中小金融機関に対する信用不安が起こるという見方もあります。当面の金融不安は当局主導で抑え込めたとしても、今後、規制が強まることによって信用状況が悪化する金融機関が出てくるというのがその論旨です。

 ただ、株式市場は一度物事を織り込むと、また違う動きを見せるものでもあります。現状はまだ多くの不安がある状態ですが、そのまま新たな悪材料が出ることなく数週間経過すると「過去のこと」になる可能性もあります。株式市場の織り込み度合は株価そのものから判断するのが良策と言えます。悲観あるいは楽観の一方向に傾くことなく株価の推移をフラットに見るのが賢明です。

 ここでは最小投資金額10万円を超える(1株=1,000円以上)水準まで上昇したものの、直近の下落によって再び「10万円で投資可能な銘柄」となった銘柄の再上昇を期待し、参考として取り上げます。再び1株=1,000円を超えると当欄では取り上げることができなくなる銘柄です。

(注)執筆時点の株価(3月22日終値)を元にピックアップしています。

「戻り10万円株」一例

日清紡ホールディングス(3105・プライム)

 綿紡績名門企業で、ブレーキ摩擦材、精密機器、化学品などへの多角化が知られています。取引時間中の昨年来高値は1,137円(昨年3月25日)です。

・6カ月日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

中山製鋼所(5408・プライム)

 日本製鉄系の中堅電炉メーカーで、鋼板、棒線など幅広く手掛けています。同1,205円(今年2月28日)です。

・6カ月日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

大林組(1802・プライム)

 大型建築・土木に実績を持つ大手ゼネコンの一角です。同1,067円(今年3月9日)です。

・6カ月日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

タダノ(6395・プライム)

 移動式建設用クレーンで世界最大手級企業です。同1,183円(昨年1月17日)です。

・6カ月日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)

ゼビオホールディングス(8281・プライム)

 スポーツ用品販売大手、大型店の「スーパースポーツゼビオ」、「ヴィクトリア」で知られます。同1,058円(今年3月9日)です。

・6カ月日足チャート

赤:出来高移動平均(5日)
青:出来高移動平均(25日)
緑:出来高移動平均(75日)