資産形成の正解は人それぞれですが、一方で、多くの人が失敗してしまう考え方や、やり方があるようです。このシリーズでは、資産形成を始める人が陥りがちな失敗事例を取り上げ、やってはいけない行動をわかりやすく解説します。
お悩み
新生活が始まるときに気をつけたほうが良いことは?
植松雄介さん(仮名)会社員・30歳(既婚、共働き、子どもいない)
植松さんは結婚して3年がたち、新しい生活にも慣れて充実した日々を過ごしていました。悩みや将来への不安がないわけではありませんが、共働きなので平日は仕事に奮闘しながら、土日は2人の生活を楽しみ幸せを感じていました。
そんなある日に、植松さんに勤め先の会社から転勤辞令がおりました。まだ自分には転勤はないと思っていたので驚きとともに今後の生活を思い悩むことになりました。すぐに妻に報告して相談すると、専門職だった妻も転勤先についていき、そちらでまた仕事を探すということになりました。
自分の転勤にあわせてくれる妻に感謝しながらも、今後も転勤があるたびに妻についてきてもらうのか、もし子どもが生まれたらどうなるのかと考えさせられることがたくさんあることに気づきました。漠然と将来の計画を考えつつも、2人での生活リズムに慣れていたため具体的な行動までは起こせていなかったのです。
とはいえ転勤の辞令があったのでこれから仕事も慌ただしくなりますし、転勤先での新生活のことも考えなければいけません。新しい生活に向けて植松さんは何を考えておくべきでしょうか?
新生活の始まるときは、これからの生活の基盤を最も整えやすいとき
私たちは新生活が始まるタイミングが、人生の大きな節目の一つになるときがあります。それは人によってまちまちで、新卒・転勤・異動・転職・定年・独立などさまざまで、どれをとっても生活に大きな変化が起きます。特に職業や住まいがかわるときにはこれまでとは全く違う生活になることも十分あります。もちろん結婚や子どもが生まれることなども考えられます。
お金や投資の面から見ると、新生活はこれまでと収入や支出が増減したり、生活リズムがかわったり、新生活への対応で投資のことにまで気が回らないこともあるでしょう。
私自身も大学から県外へ出て、新卒で就職した際も訪れたこともない地域の支店に赴任となり、転勤や海外研修、経験のない本社勤務から転職、そして独立と30代前半までに何度も生活が変わりました。
心構えができていた変化もあれば、思わぬ出来事に動揺してしまったこともあります。今思えばもっとうまく立ち回れたと感じることも多々ありますが、新しい生活に慣れるにしたがって少しずつ対応して環境を整えていきました。
しかしその中でも最初からきちんとしておかないと後々困ることや、面倒なことになるものもあります。そこで、今回は新生活が始まるにあたってお金や投資の面で注意しておきたいことをお伝えしていきます。
やってはいけない新生活の注意点1:固定費を上げすぎてはいけない
新生活のような環境の変化では、つい財布のひもも緩くなりがちです。その中でも特に気をつけておきたいことは日常生活に必要な支出の固定費を上げすぎないことです。適度な範囲であれば問題ありませんが、本当に必要な支出かどうかをじっくり吟味する必要があります。
その中でも住居の家賃は特に大きな金額になりやすく、途中で見直そうにも引っ越し代など大きな費用が発生するので要注意です。固定費は一度支出の一部になるとなかなか見直しがしづらいものが多くあります。さらに、生活水準を一度あげてしまうとなかなか下げづらいという心理も働きます。
収入から支出を決めるのではなく、「(収入)-(将来のために必要な毎月の貯蓄額)=支出」となるように支出の範囲を決めることが家計設計をするときには重要です。具体的なライフプランニングをしなくても、1年でいくら貯めたいという決め方でも良いでしょう。ただし、賞与のような変動収入は計算に入れてはいけません。
資産を築くための基礎でもっとも大切なことは収入に見合った支出で生活をすることで、貯蓄が自然とできる家計設計です。きちんと資産を築いている人の多くは、収入に比例して支出が増えるのではなく、支出以上に収入が増えている人です。
新生活は気が緩みやすいだけではなく、日常が慌ただしくなることでこうした支出をじっくり考える時間的・精神的な余裕がなくなりがちです。しかしその中でも大きな金額になる支出については適切な範囲内に収めているかどうかでこの後の貯蓄が大きく変わることでしょう。
多少抑え過ぎだと思われるぐらいがちょうどいいのではないでしょうか? 収入に余裕があるなら生活水準を上げることは後からでも簡単です。
やってはいけない新生活の注意点2:身の回りの手続きを怠らない
新生活が始まるということは、これまでの住所や勤務先、連絡方法やさまざまな契約などを変更する必要がでてきます。一度経験がある方はその面倒さや時間がかかることをよく実感されていると思います。
普段しない手続きを大量に行うことはストレスだと思いますが、逆に支出の管理をまとめたり、手続きを簡素化する良いタイミングともいえます。
生活費の引き落としが銀行口座やカードでバラバラであればまとめておくことで管理がしやすくなりますし、あまり利用していないサービスなどはこれを機にやめてしまうべきでしょう。できるだけ情報の動線を少なくしてスリム化をすることが、今後の生活で時間をうまく使うためにも大切なことです。
行政の手続きや確定申告、年金関係などの手続きなら、おすすめはマイナンバーカードの利用者証明用電子証明書を登録してマイナポータルアプリを活用することです。ほとんどがアプリで完結できるのでわざわざ足を運ぶ必要がありません。データが証跡として残りますし、アプリ内の連携機能を使えば、ふるさと納税や各種証明書の管理も楽になります。
最近は年々こうした電子的な管理方法や契約も増えています。最初は新しい取り組みに面倒さを感じるかもしれませんが将来的にこうした取り組みが当たり前になっていきますし、すでにそうなりつつあります。慣れていくことで時間の有効活用に大きな差がうまれることになります。
また、社内の異動ではなく転職や退職をした場合、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)に加入していた人や、転職先の企業型DCに加入変更する必要がある人は、それらの手続きも必要となります。こちらもぜひ忘れずに対応しておきましょう
>>iDeCo(個人型確定拠出年金)の実施機関である国民年金基金連合会で確認できます。iDeCo加入者で転職・退職された方へ|転職・退職された方|iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)
やってはいけない新生活の注意点3:無理に資産運用をしようとしない
新生活のタイミングで資産運用を始めようという人は多くいるようです。特にここ数年は20〜30代の方でNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)を利用した積立投資を始める方が驚くほど増えています。
楽天証券2022年12月期決算資料によると、楽天証券におけるつみたてNISAの利用者数は昨年12月末の約144万人から約217万人へとおよそ50%も増加しています。積み立て設定額の平均は約2万6,000円だそうですが、60%以上が3万円以上の積み立てをしています。そもそも毎月の家計に余裕がある人がはじめたパターンが大部分と考えて良さそうです。
しかし、多くの人が資産運用をしているからといって慌てて始める必要はありません。新生活の最初のうちは思わぬ出費が続くことも考えられます。大切なことは、始められるように準備をしておくことです。それは証券会社の口座開設だけでなく、毎月余裕資金をつくれる家計設計をしたり、日々の生活を安定させるための環境づくりだったりします。
資産運用を始めるには余裕資金が必要ですが、必要なのは資金だけではなく精神的な余裕も重要です。大切なお金の価値が変動することに最初から慣れている人の方が珍しく、動揺したり不安になる人がほとんどでしょう。
感情に振り回されて判断を間違えないように、資産運用は生活が落ち着いてから始めても遅くはありません。ただし口座開設などには時間がかかることもあるので、準備だけは早めに取り掛かっておきましょう。
新生活で気持ちを切り替えて生活を見直しましょう
普段の生活で積み上げたものをそぎ落としてスリム化しよう
多くの人は日常生活を過ごす中で、意識せずとも多くの情報を知り、身の回りの生活を整えようとしています。新しい物や知識を得るたびに、いらなくなる物が出てきたり、必要がなくなる古い知識が出てきたりもします。もちろんずっと長く使える物、古くから大切にされている知恵などもありますので、取捨選択が大切です。
「もっと早く知っていれば…」と感じることもあると思いますが、誰もが初めは知らない所から始まります。少しずつ積み上げていったものを改めて見直すいいタイミングこそ新生活が始まるときです。これまでの生活が変化する慌ただしいときですが、思い切って行動していくことがおすすめです。
家計設計は新生活のタイミングで無駄を見直す、高過ぎた固定費を下げるチャンスです。資産運用の中身は新生活だからといって切り替えるべきとは限りませんが、これまでの結果を分析する良いきっかけにしましょう。
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