岸田政権の目玉政策、眠る個人資産を成長投資に

 政府・与党は2024年1月からNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)を抜本的に拡充し、新しいNISA制度を始めることを決めました。NISA拡充が決まった舞台裏について、大手紙記者に寄稿してもらいました。

 NISAは、株式や投資信託などの売却や配当で得た利益にかかる所得税と住民税、復興特別所得税を合わせた20.315%分を一定の範囲で非課税にする制度です。

 新NISAでは、現行の「つみたてNISA」は「つみたて投資枠」に衣替えし、非課税となる投資枠は3倍の年間120万円になります。今の「一般NISA」は「成長投資枠」に変わり、2倍の240万円になります。つみたて投資枠と成長投資枠合わせて年間360万円まで非課税で投資することができるようになります。

 こうしたNISAの抜本的な拡充は「新しい資本主義」を掲げる岸田政権の目玉政策でした。NISA拡充によって、国民の長期の資産形成に役立ててもらうことに加えて、預金や貯金として眠る家計の金融資産を株式市場に引っ張り出し、日本経済の成長戦略につなげることが肝になっています。

 岸田文雄首相は昨年9月、米国のニューヨーク証券取引所の講演で時限的な現在のNISA制度を恒久化すると宣言。その後、11月にまとめた「資産所得倍増プラン」でも柱として位置付けました。

 本来、税金の仕組みを決める議論は、与党の自民党、公明党が主体になって秋から年末にそれぞれの「税制調査会(税調)」で方向性を決め、税制改正大綱をまとめます。

 そして税制を所管する財務省(地方税は総務省)が与党の税制改正大綱に則って法案を作るプロセスを踏みます。

 NISAのような税を免除する特別な優遇は期間限定とし、効果を検証し、見直していくのが通例です。財務省にはこうした理由からNISAの恒久化は筋が悪いとみる関係者もいました。

 税の重要な役割に、社会保障や教育、インフラ整備などの公的サービスを支える「財源調達機能」があります。与党の税調幹部にとっても、税収の減少につながる可能性があるNISA拡充の幅を最小限に抑えたいというのが本音でした。

 しかし、岸田首相は与党税調のプロセスが始まる前にNISA抜本拡充の方向性を打ち出し、外堀を埋めてしまいました。関係者が「首相があそこまで言っているなら仕方ない」と諦めにも似たため息を漏らしていたのが印象的でした。

 こうして昨年12月中旬にまとまった与党の税制改正大綱は、2千兆円に上る個人が持つ金融資産などを指して「日本に希望は多く眠っている」と指摘し、成長投資などを優先させたい政権の意向が強く表れる内容となりました。

 NISA拡充に関する関連法案は今(2023年2月現在)、開かれている通常国会で審議されます。法案の成立はまだ先ですが、与野党で大きな争点になっておらず、政府、与党案通りに改正されることはほぼ確実です(法案はその後、成立しました)。