習近平政権の経済政策キーマン、劉鶴・国務院副総理が最後のダボス会議出席

 2022年12月に、それまで3年間続けてきた感染を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」策が電撃的に撤廃されました。1カ月もたたないうちに、感染していない人間を見つけることが困難なほどウイルスがまん延する「フルコロナ」状態になりました。居住地での年越しを余儀なくされた昨年とは異なり、今年は延べ21億人が帰省や観光のために「民族大移動」を展開。全国各地の観光地、駅や空港は人の海と化しています。一体中国で何が起きているのか。「フルコロナ」下で経済は回復するのか。中国人民はコロナ感染が怖くないのか。2023年の中国はいずこへ向かうのか…。

 関心事は尽きないですが、そんな中国の現在地を理解する上で、最近、私が非常に有益だと捉えた光景があります。2023年3月の全国人民代表大会(全人代)で退任が見込まれる劉鶴(リュウ・ハー)国務院副総理のダボス会議(世界経済フォーラム)での演説です。

 劉鶴という人物を一言で表せば、中国政府内で経済、特にマクロ経済や産業政策に最も精通した学者型の高級官僚として、政治局委員、国務院副総理まで登り詰めた国家指導者です。

 1952年生まれの劉氏は、文化大革命後に北京にある有名大学・中国人民大学の学部、大学院で工業経済学を学び、卒業後は、中央政府にてマクロ経済、産業政策などに従事してきました。国家計画委員会長期計画・産業政策副局長を務めていた1994~1995年には米ハーバード大学ケネディスクール(公共政策大学院)で国際金融や貿易を学び、公共管理修士号を取得。2010年には、1930年代の大恐慌と2008年の金融危機の比較研究を中国政府内で統括し、2013年に『世界大危機の比較研究』(中国経済出版社)を上梓。2012年11月に発足した習近平政権でマクロ経済を策定する最重要機関である中央財経弁公室主任として、経済、財政、金融、産業、通商政策を引率するキーマンとして政権を支えてきました。

 経済に精通し、政策のプロであり、研究ができる学者であり、英語で議論ができ、米国をはじめとする海外事情を理解し、最高指導者に仕える権限を持つ人物。余人をもって代え難いとはこのことで、2018年以来、5年ぶりに中国政府を代表して参加したダボス会議でも、世界各国から集まった政治家や実業家、知識人が、劉氏が何を語るかを注視し、そこから中国が何をしようとしているのかを探ろうとしたのも無理はありません。世界と対話ができる劉氏が国家指導者として国際会議に姿を現す最後の舞台が今年のダボスであった点を考えれば、その言動や仕草になおさら注目が集まったというべきでしょう。

 私もそんな心境で劉氏の動向を追っていました。