資産形成の正解は人それぞれですが、一方で、多くの人が失敗してしまう考え方や、やり方があるようです。このシリーズでは、資産形成を始める人が陥りがちな失敗事例を取り上げ、やってはいけない行動をわかりやすく解説します。

お悩み

年末年始に資産運用で何かしておいた方がいいことは?

春山旭さん(仮名)会社員・35歳(既婚、共働き、子ども2人)

 春山さんは年末年始にあたり、お金の整理をしようと書類を片付けたりしていました。数年前から資産運用を始めてみましたが、夫婦共働きで子育てをしていることもあり、なかなか落ち着いて運用状況や家計のやりくりをする余裕がありませんでした。年末もなんだかんだバタバタしていて、やっと少し落ち着いたところです。

 普段の生活で困ることはなかったのですが、どのくらい貯蓄ができているのか、資産運用の損益や万が一のために契約した保険の内容などが曖昧なままです。さすがにこのままでは良くないと思って、家計の把握や資産の棚卸しをしたいと考えているところです。

 ちょうど去年も同じようなことをしていたと思い出し、このままではよくないと思いつつも仕事が始まると家庭のこともあり、慌ただしくなってしまいます。仕事は夜が遅くなることや出張もあり、家庭は妻に任せている部分も多く、なかなか話しあう時間を取ることもできていないのが現状です。

 お金の管理や資産運用については任されている部分が多いので、何とかこの機会にうまく計画を立てたいと考えています。

 春山さんがこの機会を生かすためにはどうしたらいいのでしょうか?

年末年始を迎えるにあたって知っておいてほしいこと、やるべきこと

 年始は1年の初めとして心機一転、新しい気持ちで物事に取り組む良い時期です。そして、年末は1年の締めくくりというだけでなく、個人にとって収支の決算期でもあります。

 個人の決算は毎年1〜12月と決まっています。会社員であれば年末になれば年末調整の手続きをして終わりという人が大多数でしょう。住宅ローン控除などで確定申告をする人もいるでしょうが、不動産投資や副業・兼業などをしていなければまだまだ「個人の決算」という認識は薄いかもしれません。

 しかし、資産運用をする先には必ず年末年始に決算を迎えるという理解が重要です。確定申告だけでなく、税制優遇がある制度などの手続きも年末年始を起点や起源としているものがほとんどです。

 資産運用をする上で幅広い知識を身につけることが大切ではありますが、何でもかんでも身につけようとしては時間も労力も足りません。そこで今回は、年末年始を迎えるにあたって知っておいてほしいこと、やるべきことをお伝えします。

年間収支や計画の確認と見直しをする

 資産運用は何も特別な専門知識やすごい行動力が必要なわけではありません。深掘りすればきりがありませんが、一般的には家計設計やライフプランニングの延長線上にあるものです。

 結局は、「今自分が何をしているのか?(現状認識)」「その結果何が起きているのか?(現状分析)」「これからどうしていくべきか?(見直し)」の繰り返しです。そして、支出を抑えつつ収入を増やして、余裕資金で運用をして効率的に資産形成をすることが一般的な流れです。

 つまり、自分や家計の現在の収入状況と年間の支出結果と将来の予測を行い、保有している金融資産や不動産などの資産やローンなどの負債から、どのくらい貯蓄ができているかを把握します。収入はなかなかすぐに増やすことは難しいですが、支出のコントロールはある程度可能だと思います。

 毎月少しずつ貯蓄ができるような体制を整えつつ、万が一のトラブルに対応できるようにし、余裕資金を資産運用にまわせる体制作りが重要です。

 資産形成のために積立投資をしているなら、無理のない金額で続けられそうか、それともまだ積み増やせる余裕があるのかを検討すると良いでしょう。運用成果も気になりますが、積立投資に適した商品(おすすめは低コスト・分散・インデックスの投資信託)であれば1年ごとの成績を気にし過ぎるのはよくありません。

 大切なことは、こうした行動を習慣化することです。いきなり大きく動くのではなく、無理せず定期的(四半期、半年、1年ごとなど)に実行することで人は慣れます。慣れると結果的に負担や労力も少なくすむようになります。年間収支や計画の確認や見直しは重要ですが、もっと大切なことは実際に資産を増やすための行動であることを忘れないようにしましょう。

期限までに手続きするべきことはあらかじめ計画しておく

 年末と年始にはそれぞれ期限がある手続きが待ち受けています。年末では、「ふるさと納税」はかなり一般的になってきていますし、運用をしている人でも「NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)のロールオーバー手続き」などは長年の運用経験からおおよそ理解は進んでいるようです。

 そうした中で、最近は積立投資でほったらかしの投資をしている影響か、意外と年末の損益通算を知らない人が少なくありません。同じ金融機関内での特定口座の取引であれば、商品売買の損益(譲渡損益)は特定口座内で売買の都度通算してくれており、利息や配当を受け取っている方は譲渡損が年末に残っていれば、これも通算してくれて年始には口座に還付されます。

 これは売買代金の受渡日が年末の最終営業日までの取引が対象となるので、要注意です。違う金融機関の取引を損益通算する場合や、余った譲渡損を来年度以降に繰り越したい場合は確定申告が必要です。

 年末に手続きしていないと間に合わないこともあれば、場合によっては確定申告をすることで解決する場合もあります。

 年末年始に手続きするべきことは毎年定期的に行うことか、その年に行った取引によって手続きする必要がある不定期なことかがあります。どちらにせよ、手続きすればメリットがあるのに忙しいとつい忘れてしまうことは往々にしてあります。そうならないようにメモやリマインドを設定しておくなど、小さなことですが非常に重要です。

年末年始の特集やランキングに踊らされない

 年末年始は1年の節目ということもあり、1年間の運用成績の発表や来年度の予測などさまざまな情報が溢れてきます。こうした情報は目を引くものばかりで、気になる人も多いかと思いますが、知るべき大切な情報なのでしょうか?

 例えば、1年間の運用成績は何の商品が一番良かったというランキング情報に大した意味はありません。単なる結果論であり、上位の投資商品が来年度も成績が良いとは限りません。高いリスクを負った結果高いリターンを得ただけかもしれませんし、他商品のパフォーマンスが悪かったために、低リスクの商品が上位に来ているだけかもしれません。

 また年始の株価や為替の予想にも注意が必要です。恒例行事のように毎年発表されますが、ここでの予想は現時点の情報や予測に基づくものであって、当然環境が変われば予想も変化してしかるべきです。つまり、前提条件を理解した上で予想を考えなければ意味がありません。

 目を引く投資情報は人間の心理をよく理解した上で、表現方法や色彩などを考えて私たちの興味を引こうとします。しかし、投資では感情的な判断で行動することは危険です。目先の情報や投資商品の動きにとらわれてしまうことがないように、自分に合った投資のやり方を実践していきましょう。

資産運用は計画的に。日常生活の一部と考えよう!

お金に関する年間スケジュールを把握できていますか?

 資産運用では毎年同じような相場はなく、市場を読み解いて正確に予測することは困難です。しかし、1年間というくくりで見たときに、お金に関するイベントについておおよその予想を立てることは難しくありません。

 賞与や突発的な支出はともかく、毎月の給与や季節ごとの支出や税金などの1年間でのスケジュールはそれほど変わりません。よくあるライフイベント(結婚、住宅購入、子育て、自動車購入など)であれば、どの程度の支出になるかは事前に計算することや参考となる例はたくさんあります。

 社会情勢によって、どうしようもなく私たちの生活も変化するときもありますが、大切なことは目先のことにとらわれるのではなく、将来の生活を一定期間(四半期ごとなど)に計画立てておくことです。

 10年後20年後の将来といわれると予想も難しく、実感も湧かないと思いますが、今週や来週、1カ月後や次の季節のことを考えた先に将来があります。お金に関しても同様で、近い将来からもう少し先の未来を考えつつ計画立てることが、自分の思い描くライフプランの実現につながっていくことでしょう。

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