資産形成の正解は人それぞれですが、一方で、多くの人が失敗してしまう考え方や、やり方があるようです。このシリーズでは、資産形成を始める人が陥りがちな失敗事例を取り上げ、やってはいけない行動をわかりやすく解説します。

お悩み

たくさんの提案を受けて、何を投資先とするべきかわからなくなってきた

清水義則さん(仮名)会社員・60歳(既婚、子ども2人)

 清水さんは今年で定年退職です。退職金代わりの企業型DC(企業型確定拠出年金)を受け取るにあたっていったん現金化して、老後に向けたライフプランにあわせて今後の資産運用をどうするか悩んでいました。

 嘱託社員として働く予定ではありますが、給与はこれまでよりずいぶんと下がります。ただ子どもたちも独立しており、住宅ローンはあと5年もあれば完済となります。日々の生活資金には余裕があったので、DCの分は全て運用に回しても問題なさそうです。

 これまでは使わないお金と思ってあまりよく考えずに積極的な運用をしていましたが、今後は安定的な運用に切り替えようとしていたので、長期分散投資でどんな投資をしたらいいのかいろんな人から話を聞いて検討していました。

 しかし、話を聞き過ぎて何がいいのかだんだんとわからなくなってきました。証券、保険、不動産とそれぞれに一長一短があり、自分にとってはDCで経験してきた証券での投資が一番なじみがあったので良さそうと感じながらも、それでも選択肢がたくさん残っています。

 相談した人たちは金融機関に勤める人なので商品を販売したいとの気持ちがあるのはわかりますが、それが本当に自分にとって最適な提案なのか、それとも会社から指示されている商品なのかいまいち判断がつきません。悪い話ではないと感じつつも踏ん切りがつかない状況です。

 清水さんが決断をするには何を判断基準にしたらいいのでしょうか? 

「ゴールベース・アプローチ」と「コア・サテライト戦略」

 自分の投資基準を決めるには、投資をする目的や目的を実現するための投資方針が重要です。

 最近は運用において「ゴールベース・アプローチ」という言葉が使われるようになってきました。これは「個人やその家族の将来の夢を実現するために、そのゴールを具体化・明確化して、そこから逆算して必要な資金の確保や投資、支出コントロールなどを行う資産運用・管理の考え方」といわれています。

 よく目標金額を貯めるための考え方と誤解されがちですが、そうではありません。「ゴールベース・アプローチ」は、最終的に商品を売却するなど資産運用をやめて、管理を単純化し、人によっては相続に備えるところまでを想定するなど、投資目的を設定する考え方です。こうして設定した投資目的を実現するための投資手法が「コア・サテライト戦略」です。

 まずは投資に回す余裕資金をコア資産とサテライト資産にわけます。コア資産とは、投資で失敗したら「投資目的」の実現が困難になる重要な資金。

 サテライト資産とは、元本が毀損(きそん)したとしても「投資目的」の実現への影響が「限定的に収まる資金」とわけます。無理にサテライト資産の運用をする必要はありません。おすすめはコアを80~100%、サテライトを0~20%程度の割合で考えます。

※筆者が想定するコア・サテライト戦略のイメージ

 次に考えるべきはコア資産の運用です。最初に決めておくべき点はどのくらいのリスクを許容して、どのくらいのリターンを期待する運用をするのか、つまり「投資方針」と「リスクリターン」をどうするのかを決める必要があります。投資方針と許容リスクを決めればおのずと期待リターンが見えてきます。

 期待リターンを先に決めてしまうと、リスクを取り過ぎになってしまうことがあるので、あくまでも自分が取れるリスクの範囲内でのリターンを追求しましょう。

 そして、このコア資産にどんな商品を当てはめるかを考えていきます。