はじめに

前回のこのアンケートのタイミングでは国会で内閣不信任決議案の提出と採決という流れがあり、この当時はまだ市場は政治に関心を持っているという感じでした。でもあれから1カ月が経ち、国会の会期は延長になれども政局騒動ばかりで審議は進まず、それでもなお退陣宣言した首相がいつまでも居座り続ける状況を見て、市場は「政治で永田町界隈に何か良い話があったら教えてね」というような、再び無関心な状態になってしまいました。今の市場の最大関心事はギリシャ問題、そして米国景気(とりわけQE2終了後※)などに移り始めて、最早、国内要因はあまり議論の俎上にないのかも知れません。そんな印象を受けている市場環境の中で今回のアンケートは行われました。今回もこのアンケート結果が皆様の日々の投資活動に、少しでもお役に立てればと願っております。

※ Quantitative Easing Mark 2 : 量的金融緩和策

楽天投信投資顧問株式会社 代表取締役社長 大島和隆

1.日経平均の見通し

個人投資家の見方「状況は改善、でもまだ半信半疑か」

  • Q1:6月27日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △7.72
    (5月30日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △21.63)
  • Q2:6月27日と3カ月後の日経平均の見通し DI= +16.78
    (5月30日と3カ月後の日経平均の見通し DI= +0.29)

今回の基準日となった2011年6月27日の日経平均株価の終値は9,578.31円です。前回の基準日5月30日の終値9,504.97円とわずかな違いですし、DIの方は引き続きマイナス・ゾーンではありますが、だいぶ改善した印象です。この間に何が変化したかと言えば、国内情勢はほとんど変化がありません。国会は内閣不信任案が土壇場の菅首相の退陣発言で与党民主党の足並みが揃ったことから否決、しかし即座に前言を翻すかのような首相の居座り工作が続く中、結局は不信任決議案提出前と変わらぬ政局情勢となりました。むしろ、現時点の状況だけを捉えれば、従前の与党対野党という普通の構図が、本来あるべきではない“与党内の対立”に変わっているため、状況はより混迷の度合いを強めたと言えるかもしれません。この結果を受けて、震災復興対応、福島原発問題を含むエネルギー政策、そして今年度の歳入の4割を担保する赤字国債発行の諸手続きなど、このひと月間は一向に進む気配がありません。

その一方で、トヨタ自動車(7203)などがサプライチェーンの回復などを背景に、期間工を増員するなど、民間レベルでの回復感はやや出始めたように思われます。それは、鉱工業生産指数などにも表れ始めています。ただそうした問題よりも6月の市場動向に影響を及ぼしたのが海外の諸情勢です。一つ目がやはりギリシャの信用問題です。この原稿執筆時点(7月1日)では、すでにギリシャ議会で財政再建計画が承認され、さらに関連予算法案が可決しています。これにより7月中のギリシャ国債のデフォルトという話はなくなりました(依然、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)は2000bpを超える水準で高止まりをしているのは気掛かりですが)。これがひとつの市場の懸念材料でしたから、その意味ではポジティブな結果と言えます。

もうひとつが6月末で終了した米国の量的金融緩和策(QE2)と、その終了後への不安です。このところ発表される米国経済関連のマクロデータは、住宅関連のように金融市場の期待値よりは改善しているものの、絶対値としてはまだまだ低かったり、あるいは雇用関連の統計のように安心できないものが続いたりしています。その中でQE2が終了することで、市場の関心事は、アフターQE2へ自ずと向かっていますが、現状では明快な答えはありません。また8月2日を期限とする法定債務上限の引き上げ問題も引き続き燻ぶっており、市場は問題を抱えた状態が続いています。

そうした中で、目先1カ月先を見たDIについてはややマイナス領域ながらも、3カ月先を見たDIの水準は昨年4月以来の水準へ回復していますので、市場は国内情勢には片目を瞑りながらも、やや楽観ムードが出てきたかのように見て取れます。ただそんな状況と言っても、7月1日現在(6月末のドレッシングは終了)の日経平均株価の終値はなお9,868円とほとんど上がってはいません。

2.為替相場の見通し

  ドル/円 ユーロ/円 豪ドル/円
6月27日 DI=+7.19 DI=△3.46 DI=+17.04
5月30日 DI=+11.41 DI=+7.28 DI=+17.80

調査時点のドル/円は80.78円、ユーロ/円は114.18円と、前回よりもやや円高に動いた状態のアンケート結果になっていますが、それでもなおユーロへの見通しが円高を見ているというのは特筆すべきことです。この場合、円高というよりはユーロ安という見方の方が正しいのだと思いますが、アンケートにご回答頂いた方々は110円前後くらいまでのユーロ安を考えられているのかも知れません。逆に対ドルではやや前月よりはトーンは下がったものの、円安を見ています。じつはこれは、前述の株式市場の見通しとはやや結果が合理性に欠くのかも知れません。つまりギリシャ問題は収まるだろうという見通しの中で、一方株価の見通しはややポジティブになっているのですから。ただ数値的には極端にどちらかに偏っているという訳ではないので、むしろ悩んでいる、膠着するという流れなのかも知れません。また今後の為替市場のテーマとしては、米国が法定債務上限の引上げが可能かどうか、あるいはそれ以前に米国債が格下げになるかも知れないというものがあるのは事実ですが、そうした米国の最悪事態の想定はあまりないように見受けられます。

3.今後注目する投資先

(複数回答)

  今回 前回
アメリカ 23.83% 23.30% 0.53%
EU諸国 9.85% 8.75% 1.10%
ブラジル 43.41% 43.66% △ 0.25%
ロシア 10.39% 9.54% 0.85%
インド 45.41% 46.80% △ 1.40%
中国 22.50% 25.27% △ 2.77%
中東・北アフリカ 8.26% 7.47% 0.78%
東南アジア 35.69% 36.38% △ 0.70%
中南米 12.78% 9.05% 3.74%
東欧 5.19% 4.42% 0.77%

「パッ」と見て際立った変化はあまりないという印象で、引き続きブラジルとインドが最も注目を集め、続いて東南アジアという流れです。中国は金融引き締めによる悪影響が危惧されているのか、注目度の低下傾向に歯止めが掛っておりません。一方、中南米が9.05%から12.78%へと3.74%もジャンプアップしているのが際立ちます。ブラジルは別枠でカウントしておりますから、それ以外の中南米というと何処になるのでしょうか? EU諸国もやや改善しているのは、感覚的にはバーゲン・ハンティングというようなものなのかも知れません。もしくはギリシャに引き摺られる状況を懐疑的にご覧になっていらっしゃる投資家が多いのか。いずれにしても、全体に際立った印象のない結果となりました。

4.今後注目する投資商品

(複数回答)

  今回 前回
国内株式 64.58% 63.62% 0.96%
外国株式 22.64% 25.57% △ 2.93%
投資信託 37.82% 36.97% 0.84%
ETF 18.11% 19.86% △ 1.75%
FX(外国為替証拠金取引) 19.17% 21.83% △ 2.65%
国内債券 7.46% 6.29% 1.16%
海外債券 15.18% 12.78% 2.40%
15.58% 19.47% △ 3.89%
原油 7.19% 7.28% △ 0.09%
商品 4.26% 5.90% △ 1.64%
REIT 14.51% 14.45% 0.06%
CFD 2.93% 4.33% △ 1.40%

本来、経済情勢が不透明だと注目を一般に集めやすいのが「金」なのですが、今回の結果ではポイントを大きく落としています。その他のものでは外国株式がポイントを落としていますが、国内要因ではなく、海外要因で株価が動くという状況の中、外国株式には不確定要素が多過ぎるという判断なのかも知れません。またFX(外国為替証拠金取引)がポイントを落としています。これはレバレッジ規制がより厳しくなるという前提で、取引の魅力がなくなるという読みからなのか、あるいは為替市場のDIがどちらにもあまり傾いていなかったように、為替でのポジション取りが見え難いという見通しを反映したものなのかは残念ながら読み取れません。いずれにしても投資家がリスク回避的になっていることは確かなように思われます。

「DI(Diffusion Index)」とは

景気判断に用いられる諸指標を選定し、現状認識がどちらの方向に向いているかを示す指数。『楽天DI』では、日銀短観と同じ計算方法を採用し、「(強気回答数-弱気回答数)÷全回答数×100」、「(円安回答数-円高回答数)÷全回答数×100」で算出いたします。
【各指標の見方は以下の通りです。】
日経平均 DIがプラス→強気、DIがマイナス→弱気
為替   DIがプラス→円安、DIがマイナス→円高
すべての回答が中立だった場合、DIは0となります。

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