はじめに
東日本大震災から一月半余りも経とうというのに、被災地から届く映像は瓦礫の山ばかり。さらに悪いことに福島原子力発電所の状況については、東京電力(9501)から工程表こそ発表はされましたが、当初からその内容に多方面から疑義が投げ掛けられており、事実、いまだに核心部分には近付くことすらできない状態が続いていると聞きます。また復旧・復興に向けて政府・与党が一致団結して強いリーダーシップを発揮してもらいたいところですが、野党と衝突する以前に党内から不協和音が響きわたっており、残念ながら一次補正予算成立後の先の展望は何も描けない混迷ぶりを示しています。多少の朗報といえば、11年3月期決算の発表が始まり、企業の状態がやや見え始めたということですが、ゴールデン・ウィークを前にいったんはそれもお休みという状況です。そんな中、個人投資家の皆さまの視点はどこを向いているのか、今回もとても貴重なデータを頂戴することができたと考えています。今回もこのアンケート結果が皆様の日々の投資活動に、少しでもお役に立てればと願っております。
楽天投信投資顧問株式会社 代表取締役社長 大島和隆
1.日経平均の見通し
個人投資家の見方「当面は弱気継続、ただ先々にはやや期待が出始めた」
-
Q1:4月25日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △29.21
(3月28日と1カ月後の日経平均の見通し DI= △28.98) -
Q2:3月28日と3カ月後の日経平均の見通し DI= △3.25
(3月28日と3カ月後の日経平均の見通し DI= △11.23)
今回の基準日となった2011年4月25日の日経平均株価の終値は9,671.96円です。タイミングとしては2011年3月期決算の発表が本格化し始めたというところでの集計になりましたが、1カ月先の見通しについては従来よりもやや弱気の度合いを強め、反対に3カ月先の見通しはやや弱気の度合いを緩めたという感じの結果になっています。数値を細かく見ると、1カ月先については前回実施時点よりも強気な方が16.69%から12.73%に減ったこと特徴です。逆に3カ月先については、弱気な方が38.85%から31.84%に減ることにより全体としてややマイナスが改善しています。要するにボラティリティが低下して、売買代金も1兆円を再び割れてしまったことからも明らかなように、先々の不透明感から弱気なセンチメントの中で様子見を続ける投資家が増えているということだと思います。ただ3カ月先に関しては「今よりは良くなるだろう」という思いで“積極的な弱気”が減ったという感じに見て取れます。
確かに冒頭で申し上げたように、まず一義的には福島原子力発電所の問題がどうなるのか一向に確信が持てないということが問題です。この夏の節電計画は一律25%の削減から15%に変更になりました。とはいえ、この夏の電力供給に以前問題が残されていることは誰にでも明らかであり、また何時になったら正常化するのか何も見えていません。辛うじて今年の夏は乗り切れたとしても、原子力発電を敬遠する今現在の国民感情を考えると、来年は「もう大丈夫です。6,000万kwhの発電供給能力を確保できました」と宣言されるとはとても思えません。ただ、もしこのような状況が長く続くとすると、企業は被災地のみならず、東京電力管内の総ての地域において将来の生産計画を見直さないとならず、さらなる国内空洞化も考えざるを得なくなるかも知れません。その時、日本からは雇用が消え、所費が減り、納税額が減ります。
28日の一次補正予算成立後、一刻も早く政治が強力なリーダーシップを発揮できる土壌を作り、復興に必要な費用を概算し、そして財政的な手当てを検討するプロセスに入らないと、国が復興する前に財政破綻の方が先に来る現実がそこに来ているように思われます。このアンケートの最終日27日に、米国格付け機関のS&Pが日本国債の格付けを「ネガティブ」に引き下げました。根底に流れる発想は投資家のそんな想いと基本は一緒です。
2.為替相場の見通し
ドル/円 | ユーロ/円 | 豪ドル/円 | |
---|---|---|---|
4月25日 | DI=+9.61 | DI=+13.23 | DI=+28.59 |
3月28日 | DI=+19.58 | DI=+16.08 | DI=+23.82 |
調査時点の円/ドルは82.12円、円/ユーロは119.68円です。前回に引き続き、傾向としては全通貨に対して円安基調を志向していることが見て取れます。ただ例えばドル円で言うと、強気29.34%、変わらず31.71%、円安38.95%と、じつは大きな差が出ているとは言い難い感じです。統計的な意味ではDIは+9.61となるのですが、この辺りの水準が取り敢えずは居心地のいいレベルと考えられているのかも知れません。
対豪ドルで円安志向が強いのは非常に納得です。来日されたギラード豪首相が天然ガスの安定供給を約束するなど、どう考えても、日本がオーストラリアの資源を買いに行く(豪ドル買いの円売り)なのは理に適っています。一方で、ユーロに対しても円安志向が強いのは、最近のギリシャ情勢などを考えるとやや不思議なのですが、アンケート結果ではそうなっています。
3.今後注目する投資先
(複数回答)
今回 | 前回 | 差 | |
---|---|---|---|
アメリカ | 28.71% | 30.80% | ↓△ 2.09% |
EU諸国 | 8.49% | 9.10% | ↓△ 0.62% |
ブラジル | 40.20% | 34.60% | ↑5.60% |
ロシア | 12.11% | 12.14% | ↓△ 0.03% |
インド | 42.07% | 41.73% | ↑0.34% |
中国 | 29.46% | 25.95% | ↑3.51% |
中東・北アフリカ | 6.62% | 7.74% | ↓△ 1.12% |
東南アジア | 34.33% | 29.74% | ↑4.59% |
中南米 | 7.49% | 8.35% | ↓△ 0.86% |
東欧 | 2.50% | 4.70% | ↓△ 2.21% |
実に今回は明確に注目する投資先の変化に濃淡がつきました。ブラジル、東南アジア、中国といった新興国市場関係がポジティブに見直される中、米国が票を失ったという感じです。ただ米国に関しては過去3カ月が連続でポジティブに7.4%も見直されていた流れにあるので、それ自体は大きな問題ではないかも知れません。むしろ、このところ低下傾向にあった新興国市場の注目度がプラス転換したこと、金融引き締めなどが気になるところの中国が2カ月連続でポイントを集めたことが注目だと思われます。
4.今後注目する投資商品
(複数回答)
今回 | 前回 | 差 | |
---|---|---|---|
国内株式 | 65.17% | 68.74% | ↓△ 3.57% |
外国株式 | 25.84% | 25.95% | ↓△ 0.11% |
投資信託 | 37.33% | 27.31% | ↑10.01% |
ETF | 20.22% | 19.58% | ↑0.65% |
FX(外国為替証拠金取引) | 18.98% | 21.55% | ↓△ 2.57% |
国内債券 | 7.37% | 5.46% | ↑1.90% |
海外債券 | 15.61% | 10.62% | ↑4.98% |
金 | 16.85% | 16.24% | ↑0.62% |
原油 | 9.61% | 8.95% | ↑0.66% |
商品 | 4.87% | 6.53% | ↓△ 1.66% |
REIT | 13.11% | 11.53% | ↑1.58% |
CFD | 2.87% | 3.79% | ↓△ 0.92% |
投資信託が+10.01%と大きく数値を伸ばしまして37.33%となりました。実はこの数値、このアンケート開始以来最大の値となるもので、投資信託の注目度合いが高まってくれたことは大変嬉しいことです。ちなみに過去の最高値は、2010年4月の本アンケート調査の時で36.51%、大きなトレンドとしては新興国市場が人気を博している頃、そして円安見通しが強かった時に合致します。やはり直接投資判断を個別に行うことは難しいと思われる地域が注目され、為替メリットもあると考えられる時は投資信託が注目されるようです。
また今回は海外債券が+4.98%となっていますので、これは投資家の皆様は円安メリットを得られる先を探されているということの証だと思います。もし円とブラジルレアルの見通しについてアンケートを取っていたら興味深いデータが得られたかも知れません。反面、FXはポイントを失っていることから、3月のようにあまりボラタイルに動く状況はリスクが高いと判断されているようです。
「DI(Diffusion Index)」とは
景気判断に用いられる諸指標を選定し、現状認識がどちらの方向に向いているかを示す指数。『楽天DI』では、日銀短観と同じ計算方法を採用し、「(強気回答数-弱気回答数)÷全回答数×100」、「(円安回答数-円高回答数)÷全回答数×100」で算出いたします。
【各指標の見方は以下の通りです。】
日経平均 DIがプラス→強気、DIがマイナス→弱気
為替 DIがプラス→円安、DIがマイナス→円高
すべての回答が中立だった場合、DIは0となります。
本資料は、信頼できると考えられる情報に基づいて楽天証券株式会社が作成・提供したものですが、情報や見解の正確性、完全性、適時性などを保証するものではありません。また、売買に関する勧誘を意図して作成したものではありません。投資の最終決定は、お客様ご自身の判断でなさるようにお願いいたします。ストラテジストの見解や評価、予測は本資料作成時点での判断であり、予告なしに変更されることがあります。この資料の著作権は楽天証券に帰属しており、事前の承諾なく本資料の全部または一部を引用、複製、転送などにより使用することを禁じます。