NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)の制度恒久化に向けた動きが本格化してきた。金融庁は、月内に発表する2023年度税制改正要望で、NISAの恒久化などを求める方針だ。これに先立ち、日本証券業協会は政府が掲げる「資産所得倍増プラン」への提言を発表。NISAの制度恒久化や投資上限額の引き上げなどを盛り込んだ。

 貯蓄から投資の流れをもう一段推し進めるためには、どのような課題に取り組むべきか。日証協の森田敏夫会長に、提言のポイントを聞いた。

NISA制度の課題と改善策は?

__NISAやiDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)の普及状況をどのようにみている。

「ここ数年で、NISAやiDeCoはずいぶん普及してきたと実感している。若い人が投資を始めたことは証券業界において明らかに新しい流れだ。一方で、他国と比べるとまだ大きな差があることも事実だ」

「日本の個人金融資産約2,000兆円のうち、NISAやiDeCoなど税制優遇制度を使っている資産の比率はわずか1.6%。対して米国や英国は20%を超えており、各種制度をうまく活用していることがわかる」

「当協会の調査によると、投資を始めるきっかけには『NISAやiDeCoの存在を知ったこと』が大きく関係しているという。貯蓄から投資への流れを本格的なものにするためには、これらの優遇制度を一段と拡充していくことが重要だ」

「若い投資家が増えたのは良い流れだが、それでも他国との差は現実として向き合うべきだ。どうやってこの幹を太くするか。そのために大事なのが今回の提言だ」

__NISAにはどのような改革が必要か。

「提言には、大きく三つの要望を盛り込んだ。一つ目は制度の恒久化。現在のNISA制度は期限が決まっており、始めるタイミングによって利用期間などに差がでてしまう。長期の視点で安心して投資できるよう、制度の恒久化を求めている」

「二つ目は、制度を分かりやすくすること。例えば、2024年に変更予定の新NISAは1階と2階の二つに投資枠が分かれており、その仕組みが複雑だ。より簡単で分かりやすい制度に見直す必要がある。現行のNISAは非課税保有期間が終了した後に資産を移し替える手続き『ロールオーバー』が必要だが、この非課税保有期間を無期限化することも訴えていく」

「三つ目は、NISAを使って投資できる上限額の引き上げだ。現行制度は一般NISA
が年120万円、つみたてNISAが年40万円(いずれかの選択制)だが、一般NISAは年240万円、つみたてNISAは年60万円(併用可、合計300万円)への引き上げを要望している。英国の非課税投資制度『ISA(アイサ)』を参考にした」

「恒久化以外の制度変更に関しては、事業者の準備期間を確保するために、現行制度を延長した上で(新NISAに移行せず)新制度を施行することを要望している」

__NISA制度の恒久化は長年議論されている。

「なぜこうした要求が高まっているのか、これだけ普及している制度を止めることができるのか、といった点を丁寧に説明していきたい。最善を尽くすのみだが、可能性は十分あると思っている」

「提言は、中間層を対象にしたのがポイントだ。NISAなどの制度拡充で投資家のすそ野を広げ、中間層の資産所得拡大につなげたい」

iDeCoの加入可能年齢、70歳に引き上げを要望

__iDeCoと企業型DC(確定拠出年金)の課題は。

「iDeCoやDCなどの私的年金は、公的年金に比べると加入が進んでいない。加入の有無などによって、高齢期の資産所得に格差が生じる懸念がある」

「iDeCoに関しては、昨今の就業環境を反映し、加入可能年齢を現行の65歳から70歳に引き上げることを要望している。より簡単に手続きできるよう、マイナンバーの活用も求めている。DCには原則全員が加入し、希望者のみ未加入を選択する、といった自動加入の仕組み整備も検討してほしい」

投資教育の推進、官民一体で

__投資教育はどのように推進していくべきか。

「投資をしていない人に理由を聞くと『知識がないから』という答えが多い。投資教育の推進は重要な課題だ」

「具体策として、教育や相談の窓口を担う公的機関『日本版MaPS(マップス)』の立ち上げを要望する。投資初心者の中には、ライフプランの疑問や『NISAとは何か』といった入口の部分でつまずき、証券や銀行の窓口に行く手前で悩んでいる人が多いようだ。全国に拠点を置き、気軽に疑問を解消できる場所としたい」

「金融機関各社が金融経済教育に力を入れているが、これを一元的に進める役割は公的機関が担うべきだ。昨年連携した全国銀行協会との協力体制も生かし、官民一体となって取り組みたい。海外では、金融教育を国家戦略に位置付けている。このような専門組織がないと、本当の意味で教育は動き出さない。今回の提言の目玉の一つだ」

__企業の海外投資収益の分配に関しても提言をしている。

「国内企業の状況を分析すると、賃上げの原資である国内売上高は伸び悩んでいる。一方、海外からの投資収益は好調に伸びており、配当の原資である純利益は増加傾向にある」

「そこで、従業員に株式報酬(配当)を支払う制度を通じて、賃上げが難しい状況でも従業員の可処分所得を拡大できないかと考えている。主に役員向けの報酬として導入が進んでいる譲渡制限付き株式報酬(リストリクテッド・ストック=RS)を、(管理職未満の)従業員に対して導入拡大するよう規制緩和を要望している」

「高齢化社会では、資産寿命を延ばしていくことが大切。資産形成はリスクを伴うものだが、時間を味方につければそのリスクをある程度抑えられる。若いうちから資産形成と向き合ってほしい」