高校生が金融知識を競い合うクイズ大会「エコノミクス甲子園」が盛り上がりをみせている。初回開催から16年間で、延べ約3万人が参加。企業経営や国際金融の最前線で活躍する人材を輩出してきた。高校での金融教育が本格始動する中、学びの入り口として注目を集めそうだ。

実生活に役立つ知恵を

「宣誓!この大会を通して経済や金融に関する知識を深め、先行きの見通せないこれからの社会を生きる力を、高めていくことを誓います!」__。

 制服姿の男子学生が声を張り上げると、大きな拍手が会場を包んだ。NPO法人金融知力普及協会が主催する、エコノミクス甲子園の一幕だ。

 同大会は、金融経済の仕組みやお金との関わり方など、生きるために必要な「金融知力」を身に付けてもらうことを目的としている。

 クイズの出題範囲は、証券市場の仕組みから金融の歴史、投資の専門用語など幅広い。ねずみ講やクーリング・オフなど犯罪に関する知識まで網羅し、実生活に役立つ知恵を問う。

 参加は無料。応募者には、金融庁や金融広報中央委員会など関連団体が寄贈した教材を「事前学習用」として送る。応募者がクイズ対策として熱心に読み込むため、高い学習効果を上げているという。

 地方大会と全国大会を勝ち抜いた優勝者は、米ニューヨーク証券取引所や現地企業などを訪問する研修旅行に招かれる。金融に関心の薄い学生にとっても、ニューヨーク旅行が参加の動機づけになっている。

エコノミクス甲子園は、学校では学ぶ機会の少ない「お金との関わり方」を身に付けてもらうのが目的だ。

人気の理由は、楽しんで学ぶ仕掛けづくり

 2019年度大会の参加チーム数は1,207チームと、初回の2006年比で約37倍に拡大した。直近2回は新型コロナウイルス禍でオンライン開催となり参加が伸び悩んだものの、SNS(交流サイト)などを駆使して運営を継続している。

 人気の最大の理由は、学生が楽しんで学べる仕掛けづくりにある。大会運営や問題制作には高校を卒業したOB・OGらがボランティアとして協力し、参加者目線の大会づくりに一役買っている。

 金融知力普及協会の鈴木達郎理事事務局長は「運営の質の高さは、他のクイズ大会と比べても群を抜く」と胸を張る。

 強力なサポーターもいる。予選として行われる地方大会は、各地の地方銀行などが主催する。岐阜県大会を主催する十六銀行の広報担当者は「地元で金融教育の場を提供することは、地方創生にもつながる。将来を担う高校生が、楽しみながら金融を学ぶきっかけをつくりたい」と協力の理由を語る。

 若年層の金融リテラシー向上という業界の共通課題が、協力の輪を広げている。

コロナ禍でも、「学びの火を消さないように」(鈴木事務局長)とオンライン開催を続けてきた。

初代優勝者、サンリオグループ最年少取締役に就任

 金融経済との出会いは、若者のその後の人生を大きく動かしている。

「お金の流れをみることで、問題を解決するヒントを得られると学んだ」と話すのは、2014年度の第9回全国大会で優勝した宝蔵花穂(25歳、宮崎県立宮崎西高等学校出身)さん。大会出場を機にそれまで興味のなかった経済の面白さに目覚め、大学で経済学を学ぶことを決めた。

 現在は政策金融機関に勤め、開発途上国や新興国向け融資などに奔走する。

 優勝して訪れたニューヨーク研修では、現地で生き生きと働く日本人女性の姿に心を打たれた。その後の進路決定に影響を受け、「忘れられない、特別な経験になった」と振り返る。

仕事でニューヨークに滞在した宝蔵さん。憧れの女性と再会を果たした。

 2006年度の第1回大会で優勝した木原健太郎(32歳、ラ・サール高等学校出身)さんは、現在サンリオに勤務する。入社後はIR室や社長室に所属し、資本提携の実務や投資家と経営陣のディスカッションに関わる業務などに携わってきた。

 今年6月24日付で、サンリオピューロランドなどの運営を担う関連会社サンリオエンターテイメントの取締役に就任した。サンリオは若手の積極登用を進めており、木原さんは同社グループの現役取締役で最年少だ。

 収益改善プログラムなどに従事し、「高校時代に金融知力を身に付けてきたことが、今の自分につながっている」と力を込める。

金融知力の学びを生かし、サンリオで活躍する木原さん。©2022 SANRIO CO., LTD.著作:サンリオ

全ての若者に、学びのきっかけを

 エコノミクス甲子園の今後の課題は、一段と広く参加者を集めること。

 初出場の学校は増えつつあるが、参加常連校には開成高等学校や東大寺学園高等学校など有数の進学校が多いのが現状だ。

 金融知力を蓄えることは、地域や学力にかかわらず全ての人にとって生きるすべとなる。

 鈴木事務局長は「大事だと気付きながらも、多くの人が後回しにしがちなのが金融教育。全ての若者に学びのきっかけを提供したい」と意気込む。

 2022年4月、高校での金融経済教育が本格始動し、教育現場には追い風が吹く。好機を生かし、若者の金融リテラシー向上につなげられるか。大会関係者の思いは熱気を帯びている。

◆◆◆2022年度の第17回大会は、8月15日から応募を開始する。11~12月に地方大会を、2023年2月26日に全国大会を開催する予定。直近2年間はオンライン開催だったが、今年度は3年ぶりのリアル開催を目指している。