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ギリシャ選挙を前に
堀古 英司
ウォール街から~米国株の魅力~
ニューヨークのヘッジファンド運用マネジャーである堀古英司氏による週刊レポート。単なる分析にとどまらず、出来るだけ「裏を読む」という観点で米国経済、市場についてお伝えするコーナーで…

ギリシャ選挙を前に

2012/6/15
ニューヨークのヘッジファンド運用マネジャーとして活躍する堀古英司氏による米国市場レポート「ウォール街から~米国株の魅力~」。お客様の投資のヒントにお役立てください。
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ユーロという通貨導入に向けて準備が始まったのは1990年、そして実際に導入されたのが1999年、その間私は東京とニューヨークで銀行の為替ディーラーをしていました。そして通貨というものの仕組みを知り、実際に取引をすればするほど、通貨を統合する事が如何に難しいかを実感していました。結局ユーロは統合に9年もの準備期間を要しましたが、それでも私には見切り発車にしか見えませんでした。もちろん物事、やってみなければ分からない事もあります。しかし、通貨は統合するが政治や財政を統合しない、又は厳格に管理して来なかったのは、やはり致命的な欠陥だったと言わざるを得ません。

ただこのような心配とは裏腹に、導入後の約10年間、ユーロを巡る環境は順風満帆でした。各国の債券利回りはほぼ同水準に収斂し、これまで市場で高金利でしか資金を調達できなかった国、そしてその国の企業・個人が低い金利で資金を調達できるようになりました。私は到底有り得ないと思いましたが、世間ではユーロの成功を見て「アジアでも共通通貨を」という声が上がるようになっていったのです。何故アジアで共通通貨が有り得ないのか、通貨の仕組みを考えれば分かります。

例えばアメリカ合衆国では50全ての州で米ドルが使用されています。アメリカのような大きな国で、これはどうして成り立っているのでしょうか? それは通貨は米ドルで統一する一方、それをサポートする様々な調節機能が備わっているからなのです。例えばカリフォルニアの経済が不調でニューヨークの経済が好調だったとします。するとカリフォルニアで売れ残った物はニューヨークに輸送されて売られるようになり、お金はカリフォルニアに還流されるようになります。カリフォルニアで失業した人はニューヨークに引越しし、この結果カリフォルニアの失業率が改善すると共に、ニューヨークの人手不足が解消します。物価に関しても同様です。このように、米ドルを使用するどの地域で景気変動があったとしても、人、モノ、金が自由に移動する事によってそれを自動的に調節する機能が備わっているのです。そしてそれを可能にする統一した政治機能が存在しています。

もしこれをアジア諸国でやろうとしたらどうなるでしょうか? グローバル化の進展によりモノや金の移動は何とかなるようになったとしても、人の移動は極めて困難です。言語や文化の違いはもちろん、各国の移民政策の違いもあり、ほぼ不可能と言っても過言ではないでしょう。もちろん政治も別です。そんな状況で通貨だけ統一したらどうなるか? 問題が顕在化するのは時間の問題です。

本題をユーロに戻しましょう。それではユーロが何故、アメリカの統一通貨米ドルのように上手くいかないか? 政治レベルで協調姿勢が乱れていると共に、人の移動が自由に出来ないからなのです。理論的にはギリシャやスペインで失業している人はドイツに移動すればいいのです。しかし同じユーロ圏とはいえ、あれだけ言語も文化も違う民族の移動は現実的でしょうか?今回の問題は、ユーロ導入の際に当然分かっていたこのような欠陥が、今になってクローズアップされてきているだけなのです。

今週末の選挙結果に拘わらず、日に日にギリシャのユーロ離脱の可能性は高まってきています。緊縮財政を受け入れると財政再建はますます厳しくなるし、受け入れないと支援は得られなくなります。短・中期的に大きな痛みを伴う事になるでしょうが、一旦ユーロを離脱して安い自国通貨に戻し、長期的に競争力と信用を取り戻していくという道以外に、残されている方法は無くなりつつあるように見えます。

そう、これは2008年のリーマン破綻前夜に似ています。9月第二週の週末、英系、韓国系金融機関による買収や部門売却、政府による支援など様々な道が閉ざされた末があの結果でした。今でこそエコノミスト等から「リーマンを救済しなかったのは失敗だった」という声が聞こえますが、当時金融機関に対して公的資金の注入が議会で承認されたのは、リーマンが実際に破綻してショックが走り「アメリカ経済が大変な事になってしまう」と一般に理解されたからなのです。大変な事になる前はリーマンを救済しようという世論など、殆ど無い状況だったのです。

EU当局が、出来るだけお金を使いたくないために、具体策に欠ける割に大袈裟な発表、問題の先送りを続けている現在の状況を打開するには、ギリシャのユーロ離脱というショックも必要なのかもしれません。ギリシャがユーロを離脱した時に、ユーロ圏経済がどのような事になるか、実際に経験してみなければドイツ国民も分からないのかもしれません。しかし今回最も重要なのはその際、加盟国のユーロ離脱がどれだけ大変な事かを早く認識し、「第二のギリシャ」を作らない事です。リーマンショック後数々の大手金融機関が破綻の危機に直面しましたが、何とか落ち着きを取り戻したのは「第二のリーマン」を作らなかったからです。今週末、例えギリシャの選挙結果が良い方に出たとしても、それでEU当局が油断してしまえば、今度こそ本格的な危機の始まりとなってしまうかもしれません。

(2012年6月14日記)

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