facebook twitter
金融ショックは何故起こるのか?(2)
堀古 英司
ウォール街から~米国株の魅力~
ニューヨークのヘッジファンド運用マネジャーである堀古英司氏による週刊レポート。単なる分析にとどまらず、出来るだけ「裏を読む」という観点で米国経済、市場についてお伝えするコーナーで…

金融ショックは何故起こるのか?(2)

2011/12/29
ニューヨークのヘッジファンド運用マネジャーとして活躍する堀古英司氏による米国市場レポート「ウォール街から~米国株の魅力~」。お客様の投資のヒントにお役立てください。
facebook twitter メールで送る 印刷

市場が正常に機能していれば、市場参加者は全て自己の責任においてリスクとリターンを判断し、投資に関わる判断をしている筈です。予めリスクに対する覚悟が出来ていれば、例えそのリスクが現実のものとなったとしてもショックに発展する事はありません。通常は、よりリスク・リターンの関係が改善した状態になるため、新たにリスクを担ってくれる別の投資家が次々と現れてくるからです。しかししばしば、リスクの担い手とリターンを得る主体が一致しない状況が、意図的に、又は意図せざる所で出来上がってしまう事があります。そしてその状況が長引けば長引くほど問題のマグマが大きくなる。それが爆発して起こるのが金融ショックです。

例えば2008年9月に破綻した政府系住宅金融機関のケース。政府系住宅金融機関を示す略語GSEのSはSponsored(発起した)という意味です。要するに単に政府が発起して出来たというだけで、政府の機関でも、政府が保証している機関でもないのです。しかし市場は長年誤りを続け、政府系住宅金融機関が発行する債券は、あたかも政府の保証が付いているかのような水準の利回りで取引されていたのです。実際に政府が保証してくれているものではないと市場が気付き始めたのは実質破綻の数ヶ月前。結局アメリカ政府はパニックを抑えるため、債権者に対して元々市場が考えていた通りの扱い、即ち政府の全面保証という形を取らざるを得なくなりました。この結果、これまで政府系住宅金融機関には約12兆円の税金が投入されています。

その翌週に破綻したリーマン・ショックのケースで言うと、市場は「大きい金融機関は政府が救済してくれるだろう」という、要するにリスクは政府が担ってくれるという、誤った期待の下にリーマン・ブラザーズと取引していたのです。実際にリーマンが破綻して初めて「大きい金融機関でも救済してもらえないんだ」という認識が市場に広がり、次々に大手金融機関に危機が波及していくに至ったのです。そして2009年3月に財務省が大手19行を保護する、即ち「やっぱり大きい金融機関は救済する」と宣言するまで危機が収まる事はありませんでした。

ここ数年、金融ショックの頻度が増加しており、その度に「XXファンドが空売りしたから」「YYがショックを仕掛けた」等の論調が見られます。しかし繰り返しになりますが、金融ショックはそんな事で起こるものではありません。金融ショックはこれまで何年にもわたって積み上げられてきた、上記のような「市場の誤り」がそもそもの原因なのであり、ショックはそのような誤りを正しい方向に修正する動きなのです。XXファンドはむしろ、そのような正しい方向に修正する動きを促したという点で、マグマがさらに大きくなるのを防ぐという、非常に重要な役割を果たしていたと言えます。

規制等によりそのような「市場の誤り」を修正する事も必要だったでしょう。政府系住宅金融機関には、政府から保証を受けているようなフリをして低金利で資金を調達するという特権を利用させない、又はそのような状態を放置しない事が必要だったのです。「大手金融機関なら潰れない」という市場の期待を、そもそも持たせないようにしておけば、リーマンショックは起きなかったでしょう。しかし実際には、住宅ローンが低金利で借りられれば誰もがハッピーだし、大手金融機関が安定していれば金融システムを強固な状態に維持できます。政治的に不人気な税金投入もしなくて済みます。要するにこれまで、政治、規制当局を含め多くの主体がこのような「市場の誤り」に気付いていても、ハッピーだから、楽だから、便利だからと言って、そのまま放置してきた結果がこれらの金融ショックなのです。

欧州金融危機についても同様の事が言えます。金融危機前まで、ユーロ加盟国の国債の利回りはどこも殆ど同じ水準で取引されていました。要するに市場は「もし何かあっても他のユーロ加盟国が救済するだろう」という期待を持っていた事になります。ギリシャやポルトガルが低金利で資金を調達できれば周辺国の景気浮揚にも貢献します。もともと危機に瀕する国が出てきた際、加盟国が救済するという確約は政治的に不人気で出来なかったけれども、そのような「市場の誤り」を利用する事はユーロ加盟国にとってメリットがあったので、それを修正する動きが出てこなかったのでしょう。

しかし実際にギリシャ危機が起こってみると救済案を巡って各国政府の思惑は様々。すったもんだの挙句ようやく救済案で合意に達しても、上限金額が決められているので、これまで市場が当然の如く信じていた「他のユーロ加盟国が救済するだろう」という期待は元には戻りません。リーマンショック同様、市場が「こんな筈じゃなかった」とショックを起こしている訳ですから、これを収めるには市場が期待していた元の状態、即ち「何かあれば他のユーロ加盟国が救済する」に戻すしかないのです。

もっとも自国通貨建てで国債を発行できるアメリカや日本に比べるとユーロにはハンディがあります。何故ならアメリカや日本は、いざとなったら通貨を印刷して国債返済を求める投資家に渡せば良いのですが、現状のユーロではそうはいきません。しかし私は、最終的にはECB(ヨーロッパ中央銀行)を利用して、アメリカや日本のように通貨の印刷同然の行為を可能にするのではないかと見ています。そして実質的に「何かあれば他のユーロ加盟国が救済する」という状態に戻していく可能性が高いと考えています。逆にユーロが今の危機を乗り切る道はそれくらいしか残されていないからです。アメリカの金融危機時の例を見る限り、ユーロ加盟国がそういう思い切った決断をするまで、危機やショックが収まる事はないでしょう。

(2011年12月27日記)

【この記事に対するアンケート回答はこちらから】

トウシルのオススメ記事

▲トウシルトップページへ

 

株主優待生活
投資の失敗
このレポートについてご意見・ご感想をお聞かせください金融ショックは何故起こるのか?(2)

本コンテンツは情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘する目的で、作成したものではありません。銘柄の選択、売買価格等の投資の最終決定は、お客様ご自身でご判断いただきますようお願いいたします。本コンテンツの情報は、弊社が信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その情報源の確実性を保証したものではありません。本コンテンツの記載内容に関するご質問・ご照会等には一切お答え致しかねますので予めご了承お願い致します。また、本コンテンツの記載内容は、予告なしに変更することがあります。

記事についてのアンケート回答確認

金融ショックは何故起こるのか?(2)

今回のレポートはいかがでしたか?
コメント
天野ひろゆきインタビュー
 
ふるさと納税
 
はじめよう株主優待生活
人気記事ランキング
デイリー週間月間
投資ワクワク
 
投資の失敗
 
年末高
人気ブロガー
 
老後破綻
 
動画でわかる
 
メールマガジン

直近1日の記事を配信します

配信:平日毎営業日配信
祝日・GW・夏季/冬季休暇 を除く

公式SNS

タイムリーな情報を
ゲットできます

配信:記事配信時 随時
facebookおよびTwitterには一部配信しない記事もあります

TOP
×
トウシル メールマガジン および SNSについて
メールマガジン 申込み

トウシルメールマガジンではレポートやコンテンツ等、直近1日の記事をお知らせします。
本メールは配信希望のお客様に平日毎日お届けしております。
リアルタイムでの情報取得は、公式SNS(facebook、twitter)もあわせてご利用ください。

  • 「メールマガジン 選択/受付」画面から購読を選択できます。
  • 楽天証券のメルマガをすでに配信希望にされている方は、
    初期設定としては購読申し込みとなっている場合があります。
  • メールマガジン購読申し込みには、楽天証券会員登録(口座開設)が必要となります。
Gmailサービスをご利用の方へ
メールマガジンを受信時正しく表示されないことがございます。あらかじめご了承ください。
メールマガジン サンプル
メールマガジンサンプル
  • 「メールマガジン 選択/受付」画面から購読を選択できます。
  • 楽天証券のメルマガをすでに配信希望にされている方は、
    初期設定としては購読申し込みとなっている場合があります。
  • メールマガジン購読申し込みには、楽天証券会員登録(口座開設)が必要となります。
Gmailサービスをご利用の方へ
メールマガジンを受信時正しく表示されないことがございます。あらかじめご了承ください。