先日、日本で流れていたニュースを見て驚いてしまいました。「外為特会で評価損30兆円、積立金取り崩し困難に」。もちろんその内容に驚いたのではありません。こんなに古い情報が今ごろNEWSとして取り上げられている事に対してです。そして推測したのは、多くの日本の人は、日本政府がこれまでの為替介入で30兆円の損失を出している事実を知らないのではないか、そしてその30兆円は納税者負担である事を認識していないのではないか、という事です。認識していれば、これほど世論が「為替介入をやれ」と盛り上がる事は考え難いからです。為替介入はタチが悪いことに、巨額の損失が出る頃にはその責任者はとっくに政権を去っていて責任を問えません。国民は後になって借金だけ負わされる事になるのがこれまでのパターンですが、それが広く認識されているかは疑問です。
今年1月、横浜での楽天証券新春講演会の冒頭で私は以下のようなお話をさせていただきました。
第一に、(M1増加率の国際比較チャートをお見せして)金融危機が始まった2007年以降、アメリカもユーロもイギリスも中国も軒並み積極的にマネーサプライを増やしている。日本は何もやっていないので円高が進むのは当たり前だ。
第二に、このような要因で円高になっているにも拘わらず、日本では円高が進むと必ず為替介入という短絡的な話になってしまう。しかし外為特会には過去の為替介入の失敗で20兆円以上の損失が発生している事をよく認識するべきだ。おまけに最近、債務超過のはずの外為特会から「埋蔵金」と称して3兆円近くが一般会計に繰り入れられたのは一体何なのか?
フェアに申し上げると、外為特会には20兆円の積立金がありますから、純損失は10兆円です。単純化して示すとこういう事です。ドルが115円の時に、115万円をドルに替えてアメリカの国債を買いました。これまでアメリカ国債から合計1,700ドル(=20万円)の利息を受け取りましたが、今ドル円レートは85円なので30万円の損失が発生しています。よって純損失は10万円です(実際の日本の損失はこの1億倍です)。
それではこの10万円は誰の利益なのでしょうか。アメリカの納税者です。アメリカ国債の利息1,700ドルは当然アメリカの納税者の負担ですが、ドルが下落してくれたおかげで借金の元本が減少したのです。この結果アメリカの納税者はお金を借りたのに逆に10万円得をする、即ちマイナス金利でお金を借りる事ができたのです。そしてそれを負担したのは日本の納税者です。これが為替介入の実態です。結局為替介入というのは、為替リスクは日本持ちでアメリカのファイナンスに貢献する事に他ならないのです。何故このような事が繰り返されるのか、それはこのような実態が広く認識されていない事に起因する可能性が高いと感じています。
前号で円高対策の第一ステップとして「他国の国債を買うくらいであれば、自国の国債を買えばいい」と申し上げました。日本国債であれば為替リスクは発生しないし、第一、日本国民自身のファイナンスに貢献する事になるのです。この辺があまり理解されていないと思い、先週出演させていただいたテレビ番組でも以下の通り少しご説明させていただきました。

政府にとって負債である国債を日銀が買うと日銀の資産に入ります。そして政府・日銀のバランスシートを連結して考えると、日銀が買った分の国債は相殺できる、即ち経済的な効果としては国債という国の借金は減少する事になります。減少した国債はもちろん、日本国民は返済する必要はないし、利息を支払う必要もありません。相殺する作業は国会がねじれていない時にでもやってもらえば良いと思いますが、取り急ぎ経済的には大きな問題ではありません。
次に日銀による国債購入が円高対策になるか、という点です。均衡為替レートは以下の通り表されますので、理論的には円安になるはずです。
R\=R$+(Ee$\-E1$\)÷E1$\
R\:円金利
R$:ドル金利
Ee$\:1年後の期待ドル円レート
E1$\:現在のドル円レート
日銀が国債を買うと金利がゼロの日銀券に換わりますから、裁定が働いて左辺の金利が下がります。他の条件が一定であれば、E1$\=現在のドル円レートは上昇しなければなりません。但し理論通りにならないケースも考えられます。特にFRBがさらに量的金融緩和を実施してくるなど、「他の条件が一定」とならないケースです。そこで、それでももし円安にならない場合の対策も考えておきましょう。
極端な例として、日銀が国債を700兆円購入しても円安にならなかったとします。すると日本国民は納税者負担なしで国債を完済出来てしまう事になります。要するに、日銀による国債購入は円安要因になるはずですが、ならない場合は納税者負担なしで借金を返済できる、「コインの表が出ても裏が出ても国民の勝ち」という訳です。これは円高だからこそできる、広く日本国民が享受できるメリットなのです。
これは考えられる円高対策のほんの一例です。今回始まってしまった為替介入が、日本国民が本来広く享受できるはずのこのようなメリットを奪ってしまわない事を願うばかりです。
(2010年9月21日記)









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