最近「米国株の魅力というサブタイトルから遠ざかってきた」というご指摘をいただきました(笑)。そこで今回は我々がファンドで投資してきた株式についてのお話をしたいと思います。

皆さん、Drペッパーという炭酸飲料はご存知だと思います。アメリカでは現存する最も古い炭酸飲料として親しまれており、リーマンショック後の連日の会議中バーナンキFRB議長が好んで飲んでいたとされています。ただ日本では簡単にどこでも手に入るような飲み物ではないでしょう。アメリカでもかなり好き嫌いが分かれ、決して万人受けする飲み物ではありません。我々が運用するファンドで、このDrペッパー(DPS)への投資を開始したのはリーマンショックの2カ月前、2008年7月の事でした。

我々の運用基本方針は「良いビジネスを安く買う」事です。これだけだと多くのバリュー系ファンドが採用している方針だと思います。しかし我々はその先を重視しています。それは第一に、市場はそれほど甘くなく「良いビジネスが安く買える」機会など、通常の状況では殆ど存在しないと認識する事です。第二に、それなら通常ではない「良いビジネスが安く買える」機会を狙い撃ちすべきだという事です。その意味で、このDrペッパーは我々が「良いビジネスを安く買う」条件を多く揃えていた典型的な銘柄でした。「良いビジネスを安く買」えた理由は以下の通りです。

第一に、上記の通りDrペッパー自体は決して万人受けする飲み物ではありません。例えば、今では多くの方がiPhoneを利用していますから、アップル(APPL)の株価には人気による上昇分も既に織り込まれていると見るのが自然でしょう(=アップルは「良いビジネスだけど安くない」)。一方でDrペッパーは恐らくその反対ですから、株価が人気によって割高になっている可能性は低いと見込んでいました。実際、同期間の株価上昇率はアップル50%に対して、Drペッパーは80%となっています。また社名こそDrペッパーになっていますが、実際には7UP、サンキスト、カナダドライ、モッツなど、清涼飲料水の各部門でトップクラスの優良ブランドを保有していたのです。

第二に、我々が「良いビジネスを安く買う」機会として注目しているスピンオフ(分離・独立)会社でした。Drペッパーは2008年5月にイギリスのキャドバリー・シュウェップス社からスピンオフした会社です。スピンオフした会社が如何に「良いビジネスを安く買う」機会となるかは、「第61回 スピンオフは買い」や「第252回より良いビジネスをより安く買う」など、これまで幾度となくご説明させていただいてきた通りです。しかし今回はイギリスの会社がスピンオフしてアメリカに上場するという点で、特殊な案件でした。スピンオフが魅力的な理由の一つとして、機関投資家等がスピンオフされた会社の株式を投売りする傾向があります。イギリスの会社に投資していた投資家が、アメリカで上場する会社の株式に興味はあるでしょうか?普通に考えれば、通常の場合よりも投売りが多く出て、従って株価が割安になる可能性は高かったのです。

最後に、このように「良いビジネスが安く」なる典型的な条件は整っているが、本当に「良いビジネスが安い」かのチェックです。そもそもDrペッパーは、コカコーラ(KO)やペプシ(PEP)など角砂糖だけを販売する利益率の高い部門と、コカコーラ・エンタープライズ(CCE)やペプシ・ボトリング(旧PBG)など利益率の低いボトリング部門を複合したような会社でした。両部門を勘案して我々が算出した目標株価は36ドル。にもかかわらず、Drペッパーは2008年5月にNY証券取引所に上場してから2カ月余りで20%以上の株価下落となり、20ドルという株価で我々が投資する機会を提供してくれたのです。結局ファンドの約10%という比較的大きなポジションを取るに至りました(その後「リーマンショック」でさらに下落する場面もありましたが)。

目標株価に到達した事もあり今月に入ってDrペッパー株は利食いを実行。その資金を最近、我々がスピンオフと並んで「良いビジネスを安く買う」機会と位置付けている破綻再生株への投資に回したところです。

Drペッパーの株価推移

(2010年6月15日記)