経済成長と株式相場の騰落には正の相関関係がある事は衆知の通りです。もちろん株式相場の騰落には様々な要因が複雑に絡み合っていて、経済成長だけが影響しているわけではありません。それでも長期的に見れば、やはり経済成長率の高い時は株式相場も上昇しているし、リセッションの時は株式相場も下落している事実が観測できます。アメリカでは一般に、1. 株式相場の動きは景気動向に半年先行する、2. 株式相場の上昇には3%以上の実質経済成長率が必要、と言われます。当社では定期的にこの関係を分析するようにしていますが、今回は最新の分析結果をご紹介したいと思います。
第一に、株式相場が景気動向に半年先行する、というのはやはり今もその通り、という結果が出ています。ある四半期の実質成長率と、同時期、3カ月前、6カ月前、9カ月前、12カ月前の株式相場騰落率の相関関係を調べたところ、やはり6カ月前の株式相場騰落率との相関関係が一番強いという結果が出ました(四半期刻みの分析なので1.5カ月以内の誤差はあるかもしれません)。株式相場が経済を先読みした、又は経済が株式相場の影響を受けた、と両方の見方が可能だと思いますが、やはり株式相場は6カ月後の経済状況を映す鏡だと言えるという事です。
第二に、株式相場の上昇には2.7%以上の実質経済成長率が必要、という結果が出ています。従来から言われている3%よりもハードルは低かったのですが、やはり株式相場が上昇するには単に経済が成長していれば良いだけではなく、2.7%を超えていなければならないという事です。これは以下のように考えていただければ分かりやすいかもしれません。企業に収入が入ってきた時、先に給与のような労働債権への支払が優先され、次に金融機関等への優先債権、次に仕入先等への一般債権が満たされ、法人税も支払われた後、株主に分け前が残るのは最後という事です。株主より前に支払われる分を賄うために実質成長率2.7%分は先に取られるようになっているのです。
これを踏まえた上でこの先1年の相場を占ってみましょう。現在アメリカで、民間エコノミストの平均実質経済成長率予想は2.8%となっています。既に株式相場上昇に必要な実質経済成長率2.7%ギリギリという予想です。その上、ここに来て成長率予想が下方修正されかねない要因がいくつか散見されるようになってきています。
第一に、先週発表された2月の消費者信頼感指数は民間エコノミストの事前予想(55.0)を大幅に下回る46.0と発表されました。アメリカのGDPの7割を占める個人消費の先行指標が事前予想を下回るという事は、この先成長率予想も下方修正を余儀なくされる可能性が高いという事です。第二に、ギリシャへの信用不安をきっかけにユーロ/ポンド安・ドル高が進んでいます。私は中間選挙を控えたオバマ政権にとって、当面の雇用対策はドル安くらいしかないと考えていたのですが、欧州通貨安から来る思わぬドル高に頭を抱えている頃ではないでしょうか。第三に、アメリカの代表的住宅価格指数であるケースシラー住宅指数は最低値を付けた昨年5月からまだ3.6%上昇しただけの底ばい状態となっている事です。アメリカ政府は住宅ローン条件変更促進によって何とか銀行がローンの価値を引き下げなくて良いような措置を取っていますが、これは問題の先送りに過ぎません。住宅ローン条件を変更された人の約半数が結局は債務不履行に至っている現実に留意する必要があります。
株式相場上昇に必要な実質経済成長率がギリギリで、しかも下ブレする可能性も高い中、やはりこの先1年ほどを見通す限り、株式相場の大きな上昇は望めないと見ています。しかし相場というのは波があるものです。可能性が高いのは下落してから上昇するか、上昇してから下落するか。客観情勢を勘案すると、下落してから上昇する方が明らかに健全でしょう。上昇してミニバブルが発生した後、下落するシナリオは醜い結末を迎えるだけと見ています。