今月4日(大阪)と12日(東京)に行われた楽天証券10周年記念セミナーで、私は株式相場について2009年は↑、2010年は↓との見通しと、その理由について講演させていただきました。
今年後半にかけて株式相場が上昇するとの見通しは、実は4月(「問題先送り」で相場は上昇へ(2009年4月9日))から変わっていません。様々な批判はあるものの、米国政府は問題を先送りするのに力を入れ、少なくともそれによってすぐに金融システムが麻痺してしまうような最悪の状態は避けられたのです。問題を先送りせずに、根本的な問題を含めて解決できれば良かったのでしょうが、それらを全て解決する時間もお金もありませんでしたし、最後の方は議会や国民の猛反対に遭いましたから、仕方がなかったという見方もできます。最悪の状態は避けられたにも拘わらず、株式市場はまだ「最悪の状態が近々再び訪れる」という水準での取引となっている訳ですから、このギャップが縮小する形で株式相場は上昇すると見ています。
今年1月の楽天証券新春セミナーで、「9・15をきっかけに余計なリスクが始まった」と申し上げました(9・15はリーマンが破綻した日であり、金融システムにとっては9・11級のショックであった事から私が名付けた言葉です)。重要な事は、それまでも景気後退や不良債権問題に対する懸念は存在していた事で、9・15をきっかけに始まったものではないという事です。では9・15をきっかけに始まったものは何かというと、大手金融機関が連鎖倒産していくかもしれないという、取引相手(カウンターパーティ)リスクです。実際、リーマン破綻から数日後にAIGが実質破綻、ウォール街の大手証券会社も連鎖倒産寸前にまで追いやられました。10月から年末にかけてはシティやバンカメを含む大手銀行、そして3月初めにかけてシティやAIGに再び資本注入されるまで、市場の取引相手リスクに対する懸念は後退する事はありませんでした。
新春セミナーでは、私はこれは「余計なリスク」であり、CDSの統一市場設立が進んでいるので3月にも相場は底を打つとの見通しを示しました。「余計なリスク」というのは、このリスクはCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)市場のインフラが未成熟なまま急拡大してしまった事によって生まれたものだからです。
1970年代、外国為替取引において、多くの銀行が欧州時間に旧西ドイツのヘルシュタット銀行に独マルクを支払ったのに、米国時間に米ドルを受け取れない、という事態が発生して金融システムが揺らいだ事がありました。今では外国為替取引は差金決済になっていますから、このような「余計なリスク」は殆ど発生しませんが、当時は外国為替市場が未成熟であったからこそ発生した事故でした。CDS市場は1970年代の外国為替市場と同じような状態で、インフラさえしっかりしていれば、このような「余計なリスク」は排除できたはずなのです。CDS統一市場の設立は現在進行形ですが、少なくとも今年春先までのような「余計なリスク」の多くは心配しなくてよくなった事は確かです。
このような、去年9月から今年3月まで続いた「余計なリスク」が一旦去った証拠は先行指標を中心とする、様々な所に表れています。リーマン・ショックが走った昨年9月と比較してみますと(カッコ内はリーマンショック前)、10年物国債利回り3.69%(3.73%)、株価変動率指数24.4(25.6)、住宅建設業指数15(17)、ミシガン大消費者信頼感指数71(70)、ISM製造業指数44.8(43.4)となっています。対して株式相場の方はダウ8700(11,000)、S&P500指数940(1250)と出遅れが顕著です。セミナーでもお話しさせていただいた通り、7-9月期はオバマ景気対策が最も強く表れてくる時期でもあります。2009年は↑と見てよいと考える理由です。
次回は、実はセミナーで多くの時間をかけてお話しさせていただいた「2010年は↓」についての考えをお示ししたいと思います。
(2009年7月17日記)