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次の金融危機への備え
堀古 英司
ウォール街から~米国株の魅力~
ニューヨークのヘッジファンド運用マネジャーである堀古英司氏による週刊レポート。単なる分析にとどまらず、出来るだけ「裏を読む」という観点で米国経済、市場についてお伝えするコーナーで…

次の金融危機への備え

2009/6/29
ニューヨークのヘッジファンド運用マネジャーとして活躍する堀古英司氏による米国市場レポート「ウォール街から~米国株の魅力~」。お客様の投資のヒントにお役立てください。
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貸出を倒産保険と考えれば、銀行も保険も似たようなビジネスである事が分かります。銀行は一定期間お金を貸して、その間利子を受け取ります。しかしその利子の一部は、将来お金が返って来なかった時に備えて積み立てておかなければなりません。保険も同様です。保険会社は保険期間中保険料を受け取りますが、その一部は事故や災害時の支払に備えて積み立てておかなければなりません。先に利子や保険料だけ受け取って、実際にお金が返って来なかった時や保険金を支払う時になって「備えがありません」では詐欺と同じです。金融の場合はその貸出が証券化されたローンであっても同じ事です。

去年12月、翌月に150億ドルの巨額損失発表を控えたメリルリンチ(翌月バンカメに吸収)は40億ドルのボーナス支払を実行しました。当時のセイン会長は、ボーナスはそれまで一年間分の後払いであり、150億ドルの損失が発生した第4四半期に対応したものではない、と説明しました。もっとも、それでも十分な資本の蓄積があって支払ったものであれば問題はありません。しかし結局は買収者となったバンカメに、政府が200億ドルの資本と1180億ドルの保証する事によってこの巨額損失を穴埋めする事態に至ったのです。上記の例で言えば、利子を受け取ってそれを既にボーナス支払に充ててしまっており、貸出が焦げ付いた時の備えをしていなかった、その不足分を税金で賄わざるを得なくなった、という事です。(メリルリンチの損失の多くは当コラム第198回 爆弾抱えるCDO市場(2007年6月22日)でもご紹介したCDO債務担保証券でした)。

通常、株式会社の目的は株主利益の追求ですが、ウォール街の投資銀行では、株主に限りなく近い順位で経営陣・従業員へのボーナス支払が重視されています。しかし受け取った利子や保険をそのまま配当やボーナスに回してしまって、いざという時に支払原資はありません、というのでは、金融危機は再び繰り返されてしまいます。このような事にならないように、金融当局が受け取った利子の一部を資本として積立て、将来発生するかもしれない損失に備えているか、検査し、監督しておかなければならないのです。しかし前FRB議長のグリーンスパン氏は、「リスクを担う当事者による審査が最も優れている筈だ」との考えのもと、金融行政にも自由放任主義を貫いてきました。アメリカの大手金融機関はこの盲点を付く形で、リスクを担う主体と審査を行う主体が異なるCDOなどの証券化商品を「開発」してきたのです。今回の金融危機の発端がここにある事は言うまでもありません。

このように考えると、ウォール街にしろ、保険会社にしろ、「優秀な人材が流出してしまう」とボーナスの規制に反対する声には同情できない事が分かります。ウォール街の金融機関は全て、公的資金注入によって政府から助けてもらった、と謙虚になると共に、今後このような事が起こらないよう報酬やボーナスを制限して資本の充実に努めるべきだと思います。そして一般国民と良好な関係を築き、万が一将来同様の事が起こるような事があっても理解を得られるようにしておくべきだと思います。しかし困った事に現実は逆の方向に動き始めているようです。大手金融機関は公的資金を返済すると共にボーナスを再び元の姿に戻す動きが活発化しています。まるで悪かったのはリーマンやAIGやシティだけで、それら金融機関の救済によって自分達も連鎖倒産せずに済んでいる事を忘れているようです。

もちろん一般国民もこれに対して黙っているわけではありません。失業率の10%乗せが目前になる中、「何故自分達が助けたウォール街がボーナスを再開するのか?」はアメリカ国民の大きな不満ですし、議会では毎日のように金融危機対応に関する証人喚問が行われています。このような状況では、もし次に同様の金融危機が訪れた場合、リーマンショック後に承認された7000億ドルのTARP(不良資産買取プログラム)のような資金が議会に承認される可能性は極めて低いと考えざるを得ません。バンカメ・メリル合併に関してバーナンキFRB議長が証人喚問されているようでは、中央銀行も次の金融危機対応において及び腰になる事は容易に想像がつきます。将来再び金融危機が訪れた時、政府や議会が迅速に対応できずに被害が拡大してしまうリスクは徐々に高まりつつあるように見えます。

(2009年6月25日記)

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