2008年9月7日、財務省はアメリカ金融界の歴史に残る、そしてアメリカ史上最大の納税者負担となる可能性のある決断について声明を発表しました。本コラムでも5回にわたって取り上げてきた政府系住宅金融機関、ファニーメイ(FNM)とフレディーマック(FRE)をFHFA(連邦住宅金融局)という公的機関の管理下に置く決定がなされました。英語でConservatorship (保全管理)と呼ばれ、(今回の場合)債権者が保護される、清算につながる可能性がない以外は連邦破産法や会社更生法申請とよく似ています。

特に最近、ファニー・フレディー問題が住宅市場に与える影響は悪化の一途を辿っていました。信用不安から両社の資金調達コストが上昇し、これが住宅ローン金利の上昇を通じて住宅市場の更なる低迷、両社の信用不安につながるという悪循環を生み出していたのです。一方で中途半端に政府の「暗黙保証」があるものだから債務不履行にも至らず、いわばゾンビのように生き続けて住宅市場を長期にわたって低迷させる可能性があったのです。前号で申し上げた通り、早めにドクターストップをかける必要があったという事で、その意味で財務省は今回、適切な決断を下したと思います。

最初の公的資金注入は10億ドルの転換上位優先株(利率10%+株式79.9%分への転換権)購入の形で実施されます。両社への資本注入は今後それぞれ、少なくとも数十億ドルは必要と見られます。10億ドルだけで約8割の株式転換権を保有されるという超希薄的な条件ですから、我々が運用するファンドでも空売りしてきた両社の普通株式の価値は今後ゼロに近づいていくと見られます。この他、発表された内容は以下の通りです。

  • 2009年末まで財務省が担保付貸出枠を設定
  • 2009年末まで財務省が両社のMBS(住宅ローン証券)を購入
  • 2010年以降、資産が現在の約3分の1になるまで毎年10%ずつ減少させる
  • 2010年以降、転換上位優先株購入に関する保証料を財務省に支払う

ポールソン財務長官は声明の中で、「アメリカは曖昧な『政府の暗黙保証』を容認し、それによって政府系住宅金融債は世界の投資家に保有されてきた。この曖昧さを作ったのはアメリカなのだから我々はその責任を負うべきだ。」と発言をしました。アメリカ国民にとって膨大な負担となる可能性のある責任を、このように公の場で潔く認めた事は、両社の債券保有者に好感される事は間違いないでしょう。

しかし少し先を見通した場合、市場の懸念は上記内容にある通り、2010年1月1日以降に移るでしょう。2010年1月1日以降の両社の姿は、財務省からの貸出は受けられず、また両社のMBS購入を止めている、資産は年10%ずつ減少させなければならず、財務省には保証料を支払わなければならないという主体になるという事です。それまでに財務省が購入した、住宅市場の影響を大きく受ける転換上位優先株の価値はどうなっているのか、またその後どうなるのか。民主党政権になるのか、共和党政権になるのか、官営となるのか民営となるのか、「暗黙の保証」を明示するのか、全く保証をなくすのか、その場合アメリカの住宅金融は誰が支えるのか。不透明感は拭えません。

一方確かな事は、今回の決断により、米国債の裏付けにはベアスターンズが保有していた証券化商品290億ドルに加え、住宅市場の動向に大きく左右される政府系住宅金融機関が保有していた巨額の住宅ローンに対する保証が入ってしまったという事実です。